第54話 俺の不幸が炸裂した……のか?

「ダァアアアアアアア!」

「どうした、藤代!?」


 解除に取り掛かるや否や突如として横でいきなり叫びだすアルビノ。隣にいた櫻井は堪ったものではない。両目を押さえて苦しむ姿に何か呪術的なものを喰らったのかもと悪い予感が働く。


「見るだけでやられる何かを仕掛けられたのか!?」


 藤代万理華はその刻印を見ただけで叫んだ。それを考慮して櫻井は心配を投げかける。自分には効かないが真正の変態に効く呪いの類かと。


「違う……違うんだ」


 藤代は落ち着きながらも櫻井に引きつった笑みを浮かべる。それを櫻井は訝し気な表情で見返す。引きつった作り笑いにしか見えない。これはどういった状況なのだと。


「あまりに高度な仕掛けにちょっと私も驚いてしまったんだよ」


 櫻井はそう言われてもう一度刻印に目を向ける。何か手掛かりになりそうなきっかけを探るが高レベルの呪術など知識にいれていない。これがどういったものか櫻井本人も分かっていない。流れ出ている呪力が陰陽術の媒介に近いということぐらいでしか認識していない。


「いけそうなのか?」


 だからこそ櫻井は小声で念を押して確認する。相手は藤代を超えるやり手だ。もしかしたらレベルの違いが出すぎて解除が出来ない可能性を懸念した結果に他ならない。


「いけるにはいけるが……ちょっと疲れたから、櫻井くんは私のおっぱいを揉んでくれないか?」

「ふざけてるのか……お前は?」

 

 藤代の引きつった笑顔に怒りをぶつける櫻井。この場でおっぱいを揉む必要性などない。だがそれで櫻井は認識を改める。これだけのジョークを言えるのであれば大した呪術ではないのだろうと。


「いいから、揉んでくれ!」

「急に大きい声出すなッ!」


 教室が揉んでという言葉に反応を示す。何をというのは小声での会話で聞き取れなかった。だからこそ皆が何をとヒソヒソと話始める。その中で強だけはしっかり聞き分けていた。


 確かにおっぱいと言っていたとオッパイ星人の地獄耳は捉えている。


 周りの状況を見て櫻井はしょうがねぇと藤代万理華の背後にまわる。そして手をかけて揉みしだきだした。手をうねらせると藤代万理華からくすぐったそうな吐息が漏れている。


「あん!」

「……変な声を出すな」


 ただ肩をもんでいるだけだが変態ポルノ女優さながらのアルビノは甘い吐息を漏らす。櫻井はイヤそうな顔で藤代の肩をもんでいる。藤代はすぐさま一旦呼吸を整え肩を揉まれながら解説を始めた。


「これは見るからに呪術刻印じゅじゅつこくいんによる感情操作に他ならない」


【櫻井くん、君はなんてことをしてくれたんだい!】


「……」


 全体に聞こえる声とは別の声に当人は押し黙る。どうやらこれは心読術を使わせるための行為だったと理解。ただ平然と喋ってる内容と心の声の感情のぶれが大分ヒドイ。


「これがいくつか教室にあると思う。この刻印はノマニエルセント文字を使った感情系譜を呪術式に乗せてみんなの感情を操作する為につけられたものだ」


【櫻井君のバカッ! 最悪だッ!】


「……?」


 何を怒っているのかと櫻井は肩を揉みながら眉間にしわを寄せる。藤代は努めて冷静にしゃべっているが先程のデタラメ言語を取り入れてる当たり何か事情があるのだろうと櫻井は様子を見る。


「この文字は感情を表す記号のようなもの。これだけの感情を揺さぶるとなると少なくともコレと同じようなものがこの教室のどこかにいくつか刻まれているはずだ」


【なんでコレを私に見せた! コレはダメなやつだ!!】


 ――ダメなやつ?


 藤代万理華の怒りに焦りが混じっている。それに櫻井は疑問を抱く。何か選んだ覚えはないのだがどうやら選択に間違いがある可能性がある。それがどういう意味なのか。


「みんなで教室を手分けして探して欲しい。これを消すには順番が重要だから。全てを見つけないことには解除に取り掛かれない」


【これを見てしまったからトラップが発動しちゃったじゃないか!】


 ——トラップ……?


 両方の音声を聞きながらの櫻井は揉みながら情報を整理しようとする。それに肩もみも並行しているからこそ、思考が僅かに遅れていた。


「これと同じものを探せばいいですわね」「これかー」「これと同じもんだってよ」「どれどれ?」「どんな記号?」


【ヤバイ!?】


 ——ヤバイ?


【これを皆が見てしまったら!!】


 生徒達が集まってくるのに動揺している藤代の心。櫻井は状況を顧みる。この文字を見たことで何か藤代が慌てだしているということ。生徒たちが見た時点でヤバイ。とてつもなく嫌な予感がする。


 ——俺の不幸が炸裂した……のか?


【コレを見ると他の刻印がトラップが全員に発動してしまう!】

 

 ——そういうこと……ですね。


 櫻井は悟る。自分が超絶不幸だということを。どうやら藤代万理華は不幸に巻き込まれたのだ。そしてクラスメイト全員を巻き込んだ不幸に膨れあがっている。誰もが探すための見本として櫻井たちの場所に来てしまった。


【これを見てしまったら他の刻印が見つけられない!!】


 それは呪術的なトラップだった。複数箇所で解除を行なわなければならない者たちへの罠。一つの文字を見ると数時間次の文字を肉眼で視認することは不可能になる呪術的トラップ。


 確かに相手は一枚上手のやり手だった。結果、櫻井の不幸の倍がけでクラス全員を罠へと一網打尽に誘導することに成功する手練れだったのだ。



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る