第195話 スーパーアイドル聖哉です☆
受験生たちの最後のマラソンレースが始まっている。誰もがゴールに向かってかけていく。彼らからすればそれは大した距離ではない。走行距離にして20キロ程度。それがただの山道というだけ。
先頭を走る者――
すかしたイケメンである。二本の剣を腰にぶら下げて走っていく。
名を
後のマカダミアキャッツ大規模ギルドの剣術ギルド長となる男である。輝かしい未来を歩くであろう才能と容姿。これから関東随一のエリート校のギルドを仕切る彼には栄光しかないと思われる。
——なぜだ……
大杉は恐怖に顔を歪めて走り続けていた。
大杉聖哉の人生は順風満帆。生まれた時からイケメンだった。運動神経も恵まれていた。彼という船の帆が大きく広がり追い風を目一杯受けて前進していく人生。五歳からアイドル子役となり芸能活動を始めた。
彼の甘い笑顔にファンが付いたのは必然の成り行きである。
そして、彼は歌って踊れるスーパースター街道を
彼は伝説のアイドルとなる。それは野外ライブでの出来事だった。五万人の観衆を前に大雨が降るなかでスポットライトを浴びて踊って歌い続ける。そんな彼の姿に会場の熱気はヒートアップしていく。彼も呼応するようにドンドンとパフォーマンスを加速させていく。進化し続けるジュニアアイドル聖哉。
彼が指先を天に伸ばした時に輝きは一層激しく眩く光る。
静まり返る会場――
当然演出のひとつと思っていた。彼の放つ輝きが轟く様を表したものだと。
それは違った――
ステージ上から消えたスーパースター。彼が伸ばした指先がちょうど避雷針として機能してしまっただけのこと。大杉聖哉に雷が落ちただけのことだった。
一つの伝説を残して、大杉聖哉は新たな伝説の地に現れる。
雷は同じ時間に落ちた。まるで入れかわるように。
『なに!?』
『姫さま、お下がりください!!』
そこは地球とは異なるところ。世界が違う。雷と共に召喚されし勇者。煙をまとい男が異国の姫の前に姿を現す。映画ターミネーターのような登場シーン。脅える姫を守る侍女。
『あれ、ライブは……? ここは?』
『貴様、何者だ!?』
『スーパージュニアアイドル聖哉です☆』
彼はライブのノリそのままに決めポーズを取ってウィンクをかます。姫の目がハートに変わってしまうほどの爽やかさ。侍女も少し身をくねらせる。伝説の勇者はイケメンである。大体が容姿端麗、眉目秀麗。切れ長の瞳だか、瑞々しい唇とか、整った顔立ちだのうんぬんかんぬんである。
まぁ、ありきたりな感じだ。大杉聖哉も例に漏れず。
『きゃあああああ!』
異世界登場時が全裸だっただけである……。
そこからチーレム三昧である。モテた。モテまくった。村娘から城下町の奥様。幼女や気位の高い娘。ありとあらゆる女を落としてきた。才能と容姿にものを言わせて彼は人生を謳歌する。
異世界から帰った彼はインタビューを受けた。その中のひとつで彼は言った。
『この大杉聖哉に足りないもの?』
少し考え込んで足を組み替え彼は顎を拳に乗せて爽やかな笑顔で返す。
『時間かな』
嫌な予感しかしない答えである。インタビュアーは何故ですかと続けてしまった。
『なぜって……スーパーアイドル聖哉という優れた人間の才能を全部伝えるには、人間の寿命じゃあまりに短すぎるってことですよ☆』
指パッチンがさく裂した。当たり前でしょと言わんばかりである。調子に乗っている。手が付けられない程に調子に乗っている。ブサメン達が唇を噛みしめて血を出した瞬間だった。確かに何もかも持っている。
だが、足りないのは慎ましい性格である。
しかし、この男の快進撃は止まらない。
義理の妹すら彼に惚れている始末。世の女はこういう男に惚れるものが多数。自信家を好き好む。さらに言えばイケメン限定である。ブサメンではダメなのだ。真似しようともその
さらにこやつは、いま現在関東随一のエリート校の受験でトップを爆走している。
輝かしい未来しかない人生だった。
それに終わりを告げる存在が現れなければ――
「ほっほっほっ」
——なぜだ……どうして背後にピッタリついてくる!?
耳に感じる吐息。抜かれそうな雰囲気だが抜かれない。ずっと近くに感じる人の気配。
「ほっほっほっ」
——どうして……まさかッ!?
自分がモテるが故に勘違いも生まれる。スカートを履いたやつが追ってくれば尚更だ。
「ほっほっほっ」
——俺を狙っているのか!? このスーパーアイドル聖哉を!!
ピッタリストーキングしてくるオカマがアイドルを恐怖のどん底に叩き落している。強としては速度が速く真冬の風が素足に冷たいので風よけに使っているだけなのだが、それが恐怖にしか思えない。
チーレム野郎の背後でほっほっと一定のリズムで息遣いをしてくる戦慄のオカマ。大杉はここで覚悟を決める。本気を出してコイツを引き離すことを。
—―悪いが男色の趣味はないんでね、ここで『さよなら』させて貰うよ!
マナを集中させ、足の方に意識を集める。魔法系の能力を有する剣士である。魔法剣士。それが大杉聖哉のジョブである。
——
マナにより瞬発力を最大限に高め加速をはかる。だがそこでスーパーアイドルは手を抜かない。圧倒的に突き放す。そうすれば相手も諦めるだろう。希望を持たせる走り方ではダメなのである。手が届くはずもない存在なのだと知らしめなければいけない。
——
加速に終わりはない。さらに上をいく。
——
大杉聖哉の全力疾走である。このレベルであれば着いてこれるものなどいない。誰もが置き去りされるほどの俊足。そう、彼が出会ったなかでこれに着いてこれる者など何処にも存在しない。
「ほっほっほっ」
このオカマを除いては。
——なんで! どうして、いるのぉおおお!?
動揺が走る。戦慄が走る。オカマがぴったりついて走る。緩急など無意味。風よけについてくだけである。ただ背中を目指して走るのみ。加速すれば加速する。それだけのこと。おまけに軽く流している程度なのでその加速の違いもよう分かっていないご様子。
——やられる……このオカマに掘られる!?
大杉聖哉はかつてないほど恐怖した。尻にかかるプレッシャーに。処女喪失の未来に。恐怖に鈍感な櫻井でさえ怒って田中に語る。
『棒を入れちゃいけないところに突っ込まれそうになる恐怖をお前は全然理解していないッ!!』
奥歯をガタガタ言わせてアイドルは震えた。新たな
スーパーアイドル聖哉の尻の穴がどうなるのか、次のお話である。
≪つづく≫
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