第190話 十六式多弾掃射魔法 久遠の破滅《エタニティ オブ ルイン!》

 ミカクロスフォードの前に幾重にも現る魔方陣。


「おいおい……どこまで行く気だよ……」

「結界気合いれてくよッ!」

「めずらしくも獣塚さんに賛成」


 それらが解き放たれるのを想定し試験官たちは結界の強度を上げていく。これらの魔方陣は展開はされるのも放出はまだされていないことから、同時に一斉放射されることは目に見えている。


 最大の一撃――


 長い準備。それは序章にて助走のようなもの。すでに魔法を唱え始めてから一分以上は経過している。


「光の王が生み出した五星の恒久なる偉大な法力を我が願いの前に具現とせん、太古からの導きの担い手より映し出されし覇玉はぎょく十六夜いざよいの元に、愚かなものに破滅をみまえ」


 金髪貴族の魔法は収まりを見せない。複数の演算処理が脳を焼き付ける。額に流れる汗が湧く。それでも彼女は止まらない。意地を押し通す。誇りを貫き通す。自分を描き続ける。


「眠りの終焉を告げる存在よりいでし混沌の波よ。久遠くおんの迷宮に彷徨さまよいし原初のなぎよ。秘めたる力の一端を我が前に示しませ。鏡に映し出す、不浄王の導きを」


 止まることを許さない旋律。描き続けるロッドの輝き。言葉は雄弁に存在を露わにして前方に願いを映し出す。想いを重ねる。不出来な自分を打ち消す様に色彩は艶やかに彼女を照らす。


 ――負けたくない、才能というものに。


 才というものがないからこそ明確にわかる、他者の才能が。自分が数か月かけて出来ることを一日いちじつで可能にする。積み重ねてきたものが一瞬で奪われる、誇りも自信も。


 ——見ていて欲しい……あなたに。


 近くにある存在が輝くものだとしても埋もれたくない。ここに自分がいることを見て欲しい。自分という存在がそこにちゃんとあることを認めて欲しいから彼女は輝こうとする。

 

 ——田中さん。


 誰でもない。ただ好きな人に見てもらいたい一心。


 ——あなたがいてくれたから、私はここまで来れました。


 描かれる魔法は彼との旅の全てを描き出す。挫けそうになった自分を支えてくれた主人公にただ捧げるための彼女のうた


 クロスフォードの血筋は全て途絶えた――


 兄も死に父も死に誰もいなくなった。クロスフォードの血筋を受け継ぐものは。魔王が存在している世界で王を失くした国の崩壊が始まりだす。魔物は世界に溢れだす。


 血は途絶え歴史が消えかかる。


 そのなか一人の少女が立ち上がる。彼女に血筋などない。それでも導き手となることを選び立ち上がった。そうしなければならないと重圧を背負い込んだ。彼女には血はなく才はないとしても、クロスフォードの誇りが残っているから。


 わずか13歳と半年。その年で彼女は王女となって民衆を導くために立った。


『民よ、聞きなさい!』


 クロスフォードは歴史から消えなかった――

 

 弱弱しくても消えない小さな灯りがそこにある限り。


『わたくしが必ずや平穏を約束します。ここにいる勇者タナカと共に絶望の魔王をこの世界から倒すことを! 大魔導士であるミカクロスフォードの名に懸けて!!』


 大魔導士とは導くもの。大衆を導き手となるもの。魔道まどうを極めし王に与えられる称号。彼女は命を懸けて名に恥じぬように貫けた。傍で支えてくれる存在があったから。


 仲間と主人公が彼女ヒロインの傍にいつもいたから。


 強く在れた――



 それら全てを注ぎ込むようにして作り上げた魔法陣。想いは全部込めた。願いを詠った。創造できる力を残さず注ぎきった。杖が動きを止め下に降ろされた。


「来るよ、富田ッ!」

「気合入れてよ、獣塚さん!」

「俺も……いるんだけど」


 額に汗を流しながらもミカクロスフォードがミキフォリオに横顔を贈る。


「ミキさん、貴方は三掛ける四で十二の補助魔法をかけましたわね」

「……」

「貴方が十二なら私は上をいく、」


 降ろされた杖が力強く天高く掲げられた。


「十六で勝負よッ!」


 十六の色とりどりの魔法陣に込められたマナ達に最後の命を告げるために。


十六式じゅうろくしき多弾掃射魔法マルチバレットスウィープマジック


 それは芸術作品に題を付けるように言葉にされる。ステンドグラスのガラス工芸の様に浮かび上がる光。


久遠の破滅エタニティ オブ ルイン!


 放たれる魔弾。一撃ずつではない。同じ魔法陣から速射砲の様に隙間も時間も与えない猛撃。大地に音を響かせ盾を砕かんと無数に撃ち込まれるエネルギーと複数属性の魔法。終わりなき破滅のマナ。


 結界にも衝撃が走るが三人がかりの力で押さえつける。


 試験官を襲う突風が吹き荒れる。だが目を瞑ることはない。その終わりを見届けるまでは。目を離せるわけがない。緊張感とは違う。高揚であり興奮。


 心の中で『すごい……』としか、言いようがない。


 これだけの魔法を目にできる機会などない。ここまでの芸術の域に達したものを見ることなど早々ない。何重にも重なっては消えてく魔法の欠片。描き出されたのは彼女という存在の全て。


「ふぅー……終わりましたわ」


 派手で鮮烈。高貴で高飛車。


 ドリルツインテールの片方を弾き颯爽と舞台から金髪貴族は降りていく。自分の出番は終わったと。そこに試験官たちから拍手が沸き起こる。


「すばらしい」

「私が決めたわ。次期魔法ギルド長は貴方よ!」

「獣塚さんにそんな権限ないから。でもこんなに美しい魔法を見たのは初めてだ」

「ありがとうございます」


 賞賛である。ミカクロスフォードという受験生が放った最大の一撃は美しく見るものに感動を与えた。そしてタブレットに表示される数値も問題なしである。


 150000ダメージ――


 小泉を超えてくる値。それは現トップの一位。ミキフォリオが出した数値は60000。これは僧侶では破格ではあるのだが攻撃魔法の真髄には届かない。


「ミカたん……」

「次は田中さんの番ですわ」

 

 何気ない言葉だが彼女の強さに感動している田中を前にしてエールを込めたもの。私より強い貴方ならきっと超えていけると。やってしまってくださいと。


 それに応えるように主人公は動き出す。


「なに……あの太い子。頼りないわね」

「彼女たちの主人公っぽいけど、どうなんだろう彼?」

「槍使いか……」


 構えは中々になっている。強さは構えに出ている。それでも先程の魔法が凄すぎたのために試験官の期待値も低くなってしまっている。あれを超えてくるにはどうなのだろうと。


 だが、田中にとっては違う。


 ミキフォリオが見せた。ミカクロスフォードが魅せた。


 その熱が熱き心に火を焚きつける。


 体に力を込めてマナを体に付着させる。


竜人変化ドラグニールッ!!」


 それは彼だけに許された唯一無二の秘術。



≪つづく≫

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