第97話 1993年火神恭弥の過去 —足立工業高校の銭湯行事―
「晴夫どうかこの通りだ!! 頼む!!」
「いやだ」
「そこをなんとかしてくれ!! 後生のお願いだ!!」
「
「ごしょうや!!」
「ごしょう……ってなんだよ!!」
チームストームスパイダーの族長の頭を下げ何度も懇願しているが、
晴夫はイヤの一点張りである。
次期族長をなんとか晴夫に継がせようと奮闘するも言葉が通じない。
「第一な……俺はバイクに乗れない。免許も持ってないしなんなら保健証すらない。それにまだ俺は高校一年だし、さらに言うなら興味がひとつもわかねぇ。だから、結論から言うとやらねぇ」
「はる……お……」
「泣きついても無理なものは無理。嫌なものはイヤなんだ。他のやつを当たってくれ」
「お前じゃなきゃイヤなんじゃ! もうすぐわしも卒業だけん、安心してチームを後にしたいんじゃ!」
「オロチでもいいだろう? アイツならバイク好きそうだし」
「オロチにはもう断れたんだ!!」
「オロチの後釜かぁああああいいい!!」
衝撃の事実が発覚し、夜にオオカミが遠吠えするような晴夫の叫びが夜にこだまする。順番を大事にする晴夫にとって、オロチの後という時点でもう話をする気すら失せて族長をあとに席を立つ。
「待ってくれェエエエエエエ!」
「うるせぇ」
泣きながら手を伸ばす族長を足蹴にして転がる族長を無視して、
気分を晴らせる場所を探しに辺りを眺めるようにして歩き出した。
いくつものグループに分かれ円を描くように座って何組ものグループが出来ている。そこにはチームストームスパイダーと足立工業高校が入り乱れるようにお互いの垣根など気にせずにおしゃべりしている。
――いいよな……こういうのうが一番。
その姿に一人で晴夫はうなずきいい景色だと思う。
――俺様を中心に集まるってのは!
俺様至高の男からすれば自分を中心にこれだけの仲間がワイワイ騒いでいるというのを王様気分で眺めて悦に浸っていた。そして、王様の耳にひと際盛り上がるグループの会話が聞こえてきた。
「火神ちゃんはそれでどうしたの!?」
「いや……間違ったヤツに気付いて慌てて消してやりましたよ!」
「や……やっちゃったのねッ!」
「そうなんですよ……ボク慌てん坊だから、ついついやっちゃって」
「慌てん坊とかそういう騒ぎじゃねぇぞ!! 暴れん坊や!!」
「暴れてはいないですよ。あと始末には結構苦労しましたけどね……」
「まじか……あと始末まで経験済みなの……?」
「それは試験ですから、
「
「パネェよ……火神ちゃんは」
なぜか謎の会話がかみ合いすぎてもはや火神ちゃん大人気である。
火神ちゃんが話しているのはあくまで中学受験の時の話である。
試験中に間違いに気づき慌てて消しゴムで消しただけのお話。
――何の話してるんだ…………?
晴夫からすれば謎の盛り上がる会話。
全く理解が及ばない。
というか会話として成立しているのかも怪しい。
火神が自信満々に話を続けていく。
「けど、なんとか必死にやったんで試験には受かりましたよ」
「……そりゃ、受かるよ」
「そんだけ頑張ったんだったら、ゆくゆくはいいポストに付きそうだね」
「えっ、なんで知ってるんですか!?」
殺人して年少入ってれば、
それなりのポストにつけなきゃおかしいだろうと一同首を縦に頷く。
火神としてはポストと言ったら親の会社の役職のことだと思っている。親の会社の跡取りとして重役が確約されていることは必然としても、なぜそれを不良グループがわかるのか。
一度も話していないのに見抜かれてすごいなんて思っているが、
不良からすればヤクザの跡取りで小学生という幼さで試験において殺人し死体の後片付けまで完璧にこなした火神ちゃんが、その世界で出世しないわけがないと思っている。
「そりゃ……話聞いてればわかるよ」
「さすがです……みなさん!」
「いや、まぁ俺らもこの世界長いからさ、うん。火神ちゃんほどディープでないにしても浅からずはわかるよ……」
「こんなに試験の辛さを誰かに理解してもらえるなんて初めてですよ……すいません、ぐすん……あぁ、みんないい人だな~」
「あ……うん……辛かったよね」
「出来る範囲で……そう……出来る範囲でなら力になるからさ……」
「ありがとうございます!」
火神は自分の拙い話し方でもここまで読み取ってくれるなんて、
なんていい人達なんだろうと鼻頭を押さえ涙ぐんだが、
周りからすればそりゃ殺人して理解しろなんて無理でしょ。
まぁお家の事情でっていうのもあるので、
多少は無理やりだが、わかるっちゃわかる程度である。
「なんなんだ……アイツらは?」
「晴夫、どうしたんだよ? そんな不思議そうな顔して」
「いや、オロチ……火神が大人気なんだが……」
「本当だな」
「何一つ面白い話に聞こえねぇんだけど……」
「お前に日本語の会話がわかるかは怪しい」
オロチからすれば晴夫がまともな会話が成立する男ではないと認識しているため、晴夫が他人の会話を聞いて納得するかは怪しいと思うのが当然である。晴夫的には自分が間違っていないと思うので半目でオロチを見返すしかない。
晴夫が嘆息をついて、
「結構、俺もお前も返り血を浴びちまったな」
「発言が物騒だな……」
オロチの服を見やるとところどころに斑点が出来ているのがうかがえた。
「けど、服が汚れちまってるのは否めないな。どこかで洗ってくるか?」
「そうだな……火神も汚れてるだろうし」
「一緒に連れてくか」
その言葉で晴夫は良い事を思いついたと言わんばかりに目を輝かせる。
「じゃあ、足立工業高校名物でもてなしてやるか、特別に!」
「おもしろそうだな……それは! よし、道具取ってくるわ!」
「おう、頼むぞオロチ!」
「お前は火神を連れてきてくれよ!」
「あいよー!!」
足立工業高校の伝統儀式の準備に取り掛かるためオロチは手を振って校舎の中に入っていく。晴夫はオロチに頼まれたとおりに火神の方へ回収に向かった。
「火神、楽しんでるか?」
「晴夫さん! めっちゃ楽しいです!! みんないい人で涙が出そうです!!」
「あっ……そう。ちょっと一緒に校舎見学に行こうぜ?」
あまりの火神のハイテンションに若干引き気味の晴夫。
「はい、ぜひ! みなさんがどんな学校で過ごしているのか、興味あります!!」
「うん、じゃあ……いこうか」
「ハイ!」
その姿を見て周りの不良たちはまた目を光らせる。あの晴夫さんが怯えてやがる!? やっぱり火神ちゃんただもんじゃねぇ!!と勘違いは拡大されていく。
「皆さん、僕のつまらない話をいっぱい聞いてくれてありがとうございます!」
「つまんなくないよ! すごい面白かったよ!!」
「行ってきます!!」
「いってらっしゃい、火神ちゃん!」
深夜のテンションのせいか火神ちゃんはどっかぶっ壊れ気味だ。
頭を下げて去り行く火神ちゃんの背中では、
聞こえないようにひそひそと「火神ちゃんやべぇよ。ほんものだよ」とか「やっぱ晴夫さんとオロチさんが目を付けるだけあるわ」とか「もしかしたら晴夫さんたちも負けてんじゃねぇ」とか謎の小学生極道ターミネーター火神ちゃんの話題が尽きない。
だが、火神ちゃんの耳には聞こえていない。
テンションが上がっているから。
「あー、晴夫さん、僕は本当に楽しーいです!」
「……お前、酒でも飲んでるか?」
「飲んでないですよ、やだな~~」
飲酒を否定しながら晴夫の肩を馴れ馴れしく叩く火神に、
晴夫は酔っぱらってやがると感じた。
酒ではなく完全に雰囲気に飲まれて我を失いかけてなんでも楽しい状態になっているのを見抜いた。伝統儀式は酔い覚ましにもいいと評判なのでそそくさとその場所へと誘導するように火神を連れていく。
火神は辺りをキョロキョロしながらも目を輝かせて夜の校舎を堪能し、
「これって歴代校長先生の写真ですか!?」
晴夫に何度もどうでもいいことを話しかけていた。
「……そうだと思うわ。ってか、あったことないから今の校長の前とか知らねぇけど」
「やっぱり高校でも人体模型とかあるんですね! 七不思議とかあったりするんですか?」
「いや知らねぇし」
テンションが高すぎて晴夫はうざいと感じているが、無敵状態の火神ちゃんにはその感情のキビなど感じられない。友達がいないのも相まって、大人数で夜通し騒ぐなど夢の様な夜だとすら思っている。
もはや空気に酔っぱらっている。
どこか足取りもふわふわしてアツさのせいか頬すら赤くなっている。
そして、案内されるままに歩き目的地へとついた。
「うわー、風が気持ちいいっすね……」
「星も良く見えんぞ……」
場所は屋上である。
扉を開けた瞬間に風が二人を包み込み夜空が囲む。
空を見上げながら、火神は晴夫に疑問を投げかけた。
顔の横が星の輝きとは違う――
「晴夫さん、なんでオロチさんは――」
オレンジの光に当てられていたからである。
「溶接するような格好して屋上のフェンスを熱でぶった切っているんですか?」
「血が騒いだんだろう。なんせ俺ら工業高校だからな。溶接とか大好きだから。テンション上がってんな、アイツも!」
「へぇー、工業高校ってそういうもんなんですね」
「それより月が綺麗だな……今日は満月か」
晴夫達の見上げる空に大きなまん丸い月があった。
屋上から眺める月は風流があり、
風に吹かれ気持ちよさそうに眺めながら二人の会話は続く。
「でかいっすね……」
「でかいな」
「晴夫さん、もうひとつ聞いていいですか?」
「どうした、火神?」
「なんでオロチさんはせっせと屋上のフェンスを外して運んでいるんですか? 誰か落ちたら危ないじゃないですか? ここ屋上ですよ?」
「大丈夫だ。誰も落ちねぇよ。そんなへまする奴はいない。だって足立工業高校だから」
「すごいっすね……足立工業高校って」
「あぁ手に職つけるには一番だな。色々な機械とか使えるし工具で何かいじるのも楽しいぞ」
「楽しそうっすね」
晴夫が先輩風を吹かせながら上を見上げ、
火神も色々と疑問に思いながらも空を見上げてみないようにしている。
何かがおかしいと酔っ払いだった感覚が、
段々と冷静さを取り戻しつつあるが、
見てみぬふりを続けたがオロチの奇行が気になる。
「晴夫さん、もう一個聞いていいですか?」
「なんだ? なんでも聞いていいぞ」
「オロチさんが銭湯とかでみる黄色い桶で何かをといてるんですけど、なんですか? 普通の液体よりなんか粘り気がありそうな感じでスライムみたいなんですが……」
「ケロリンだな。俺は銭湯が好きだ。暑い夏に汗かいた体で入る風呂は堪らないんだよなー。火神、お前は銭湯好きか?」
「まぁどっちらかと言えば好きですよ……」
「火神、お前よく見ると結構服汚れてるな。まぁあの格好で地べた這いずったりしたらからな。おまけに血もついてるし、あとに残しておくと結構シミになって大変だぞ!」
「な、なんかオロチさんが桶の謎の液体を怪しい笑みを浮かべてぶちまけてるんですけど!! 何をする気ですか!?」
「オリオン座って、どれだ?」
「オリオン座は冬の星座で夏に見えるわけないじゃないですか!! というか、なんで肩組んでくるんですか!?」
必死に危険を察知して逃げようとしたが、
「なんでって……わかるだろう?」
「わかりたくないんですけど!!」
ガシっと肩を組まれ尋常じゃない力で抑えられている。
「特別に俺様のローションを使ってみたが、童貞であるお前だから貴重だけど惜しげもなく使ったんだぞ。感謝しろよ、火神!」
オロチも仕事を終えて満足げな顔でそんな二人に合流してきた。
「イヤな予感しかしないんで感謝したくありません!! これから、ボクに何をする気ですか!?」
「これは足立工業高校の伝統ある
「晴夫さん、銭湯行事って何を言ってるんですか!!」
「この学校にはなんと天然の銭湯があるんだよ、火神」
「オロチさん、天然だったら銭湯じゃなくて温泉です!!」
「おまけに遊園地のようなアトラクション気分を味わえる最高のアトラクション銭湯だ!」
「そんじょそこらのジェットコースターなど非ではない。圧倒的爽快感のアトラクション!」
火神の前に完成した光景。
「それはそうでしょうね!! だって――」
屋上のフェンスの一区画が外されそこのライン上にローションがびっしり塗られテカテカしている。その先に確かにプールらしきものが見えるが高低差が激しく遠近感が良くわからない。
ただしっかりわかるのはいくつかの樹木の先に、
プールがあるということで真下ではなく、
「ここからプールに飛び落ちて行く気でしょうからね!!」
直線状に位置する場所に離れた位置に存在している。
「プールに入れば汚れた服まで洗い落とせる。画期的なシステムだな、オロチ」
「正に一石二鳥だ、晴夫」
「その四文字熟語は空を飛ぶ鳥が石に当たって死ぬ感じしかしない! 自分の未来みたいで怖いんですけどぉおお!」
おうちに帰ると激しく抵抗をみせる火神を晴夫がガッチリ押さえ込み、
「まぁまぁ」
「まぁまぁ」
「なんなんすっか!??」
オロチが火神の不安を払拭するためにポケットからミカンをとりだした。
「安心しろ、火神。このミカンが、お前だ。」
ボーリングの玉を転がすように、
「これから、どうなるかよく見てろ」
みかんをローションまみれのタイル上に滑らせる。
ローションで摩擦が少なくなりスゥーとタイルの上を滑り、フェンスの無いところから夜空に飛び出した。空中を気持ちよさそうに重力を感じさせないように飛ぶミカン。プールに向かってまっすぐ飛行しているミカン。
しかし、
「「「あっ――」」」
三人そろって間抜けな声を上げた。
ミカンがプールの手前まで行ったときだった。
風がふき逆風に負けて推進力を無くしたミカンはプールに届かず、
プールと屋上の間の地面に叩き落され果汁をぶちまけ、
グシャっと潰れた。
原型を無くすオレンジの物体。
中身をぶちまけ見るも無惨な姿である。
オロチは言った。そのミカンは火神の未来であると――。
「貴方たちが何しようとしているか、ハッキリ分かりました! 僕を本気で殺す気なんですね! 亡き者にしようとしてるんですねッ!!」
「悲しい結末だ……しかし、実験に失敗は付き物だ。きっと重量が足りなかったんだな。ミカンじゃ軽すぎたか……」
「オロチ、スイカだったらうまくいったかもな……」
「スイカだと、赤い中身が飛び出てもっとグロい感じでリアルに近づくじゃないっすか!」
狂気の沙汰としか思えぬ蛮行。
しかし、二人は余裕を見せている。
なぜなら自分達は飛ぶ気などさらさらない。
飛ばす側の人間だから。飛ぶのは火神ちゃんである。
「さぁ、やろうか! 火神!」
「いっちょやったろうぜ! 火神!」
「殺されるぅううう!」
命がけのであるが為に必死の抵抗である。
「お巡りさん、ここに殺人犯予備軍がいます! 早く逮捕してください!」
身をバタバタと激しく動かし晴夫の魔の手から逃れようとしているが力が違いすぎる。完全に抑え込まれている。その横でオロチがそっと火神の肩に手を回した。
「さぁ行こうか……火神」
「なんで、なんで、こんなことをする必要があるんですかッ!?」
「「なんでって」」
自分の肩を掴んでいる二人の声が揃った。
「「おもしれぇからだろ」」
「面白ければ人が死んでもいいんですか!?」
「「場合によっては、な!」」
「……!」
火神は思った。正気か、こいつ等と。
もはや、この二人が止まることはないだろう。
面白ければなんでもいい。楽しければなんでもいい。
暴れられたら、なおいいぐらいの人種である。
自分の命運など握られている。
知り合ってしまったが故の不幸である。
だが、ココにきて火神の中でふつふつと湧き上がる感情が、
――このままじゃ、終わらない……。
出来上がりつつあった。
「お前ら、これから火神が
「プールダイビングって、銭湯はどこ行ったッ!?」
晴夫が大声を上げて下にいる校庭の仲間たちに呼びかける声に火神のツッコミがはいる。下の者たちはやっと屋上のフェンスが外されていることに気づいて立ち上がった。
「マジか、いきなりアレに挑戦するとか……」
「俺がアレやった時はちょっとチビッちった……プールだったからよかったけど」
「高さが尋常じゃないからな……高所恐怖症の俺は泣きながら飛んだっけ」
その学園の者なら誰もが早かれ遅かれ通る行事。
問題はその高低差にある。
学校の屋上からプールまでの高低差10メートル近い。
下手な飛び込み台より高い。恐怖の記憶しかない。
だが、彼らは知っている。
「まさか、自分から進んでやるとはやっぱり火神ちゃんだぜ!」
「火神ちゃんなら楽勝だろう!」
「頑張れ、火神ちゃん!!」
間違ったことを知っている。
エリート極道ご子息火神ちゃんということを。
彼からの間違った期待値は相当高い。
その期待が手拍子を叩かせ、重ね、飛ぶことを煽るようにペースを上げていく。まるで陸上競技の高跳びみたいなに催促されている。火神コールまで巻き起こっている始末。
「すげぇこんなに盛り上がったのは初めてだぜ!」
「…………」
「エライ期待されてるぞ、火神!」
「…………」
もう逃げられない空気が出来上がった。
だが逃げる気などとうに失せている。飛ぶしかないと分かっている。
それもこれも全部晴夫とオロチのせいである。
知っている。今日一日火神に訪れた不幸の数々の元凶は、
この二人だということを――。
「飛んでやりますよ……飛んでやりますとも!!」
「いい気合いだ、火神!!」
「行ってこい、火神!」
「行ってきます!!」
火神の肩から二人の手が離れ火神は助走をとる。
ローションがかかっていない両端で、
「火神!」「火神!」「火神!」「火神!」「火神!」「火神!」
下の者たちの音頭に合わせて手を叩く馬鹿二名。
——ただでは死なない。
火神の心に湧き上がる感情は復讐心。
許すまじ、この二人だけはと。
「いっきまぁーす!」
勢いよく助走を付けて飛び、ローションの上を滑っていく。
滑りながらも機会を逃さないように集中し、
――ここだッ!!
横を通り過ぎるタイミングで両腕を横に伸ばし、
「テメェ――ッ!?」
――晴夫さん、ゲット!!
右腕で晴夫を掴み、
「何しやがる――ッ!?」
――オロチさんもゲット!!
左腕でオロチを掴む。
——二人とも道連れだァアアアア!!
「「火神ぃいいいいいいい!!」」
「一緒に地獄まで付き合ってもらいますよ!!」
ガッチリ掴んだ手と加速を付けた体重が二人を引っ張る力となる。
がしゃ髑髏との戦いで会った疲れもあっただろう。
ローションという不必要な道具のせいもあったせいだろう。
二人は踏ん張りがきかずにローションの上に持ってかれて身を預けるしない。
迫ってくるフェンスの向こう側の景色。
「うぁおおおおお!!」
「なぁああああああああ!!」
「がぁあああああああああ!!」
三人の恐怖と怒りを混ぜたような気合の様な悲鳴が上がる。
壁など何もない夜空へと三人の体が宙へ舞い上がる。
下の者たちは驚いた。
いままで危ないから一人ずつやっていた行事を、
まさか三人同時に飛んでくるなんてと。
それは月に照らされ滑稽なシルエットを浮かべた。
≪つづく≫
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