第27話 ピエロの放課後活動10 ーLast Daysー
美川は20代後半の男性でまだ若手教師。顔もそれなりに整っていて生徒からの信頼も厚い。俺は昨年担任だった美川と一緒にマカダミアキャッツの秘密の地下道を歩いていた。
ソイツが今回の犯人だった。
二人分の足音が空洞によく響く。辺りを見渡しながらも、
警戒をとかない相手に俺は陽気に話しかける。
「先生、うちの学校にこんなのが合ったって知ってました?」
「知るわけもない。なぜ、お前はこんな場所を知っている?」
「それは俺の能力ですよ」
1階のA組の教室、前から15番目、左に2番のタイルを剥がすと、
下に降りる階段があるなんて普通考えもしないだろう。
ただ教師ぐらいは知っているのかと思ってた。
「ここって、マカダミアキャッツで何か起こった際の避難経路用に作られたみたいっすよ。ただ忘れられて過去の遺物になってるみたいですけどね」
「で、これはどこに通じているんだ……?」
「それはついてのお楽しみです♪」
俺のおちゃらけた態度に美川は鼻鳴らして呆れている。
学校でドンパチするわけにはいかない。
俺は学校ではステータスを偽装している。
なら、学校外へ場所を変えるしかない。
それも人目に付かないところ。
そこにここは通じている。移動時間がしばらくかかる。
相手を連れ出した手前とそこに着くまでに戦闘避けたいが為に、
「そういえば、先生。学園サイトの管理者だったんだですね」
気を逸らす様に会話を投げかけ続けている。
「それも能力で知ったのか?」
「ハイ」
話もしたくなかった相手と――。
「櫻井、お前の能力は便利すぎるな」
「こういうことに関してはベストな能力ですよ」
後ろから怒りを感じた。
「で、――——」
明らかに美川の口調と態度が変化した。
「お前はいつから俺の計画に気づいていた」
「ここ最近っす」
本当に最近も最近だ。
「それで全てを今日つぶされたのか………」
俺の答えに美川はまた呆れた態度に戻った。
「どうやって他のメンバー捕獲した?」
「田中達に協力を仰ぎました。まぁ随分と準備をしてくれたんで、配置の人数はギリギリでしたけどね」
「………………っ」
美川が黙り出した。まぁ計画を知られて今日つぶされたのだから、
美川的にはおもしろくないだろう。
さらに言えば田中達が協力も予想はしてなかったってことか。
強を悪としているのだから、
それに加担するものがいたというのが、
おもしろくないって感じだな。
「先生、まだ出口に着くまでに時間がかかるんで」
不穏な空気に俺は話題を変えることにした。
「答え合わせをしませんか?」
眉を吊り上げ疑問を浮かべている。
「…………答え合わせ?」
まぁ食いつくかどうかは次の話次第といったところか。
俺は慎重に言葉を選び繋げていく。
「俺の推理です。俺が先生の計画を知った全貌ってところっすかね」
「好きにしゃべれ」
お許しが出た。まぁ若干お互い興味があるといった感じだろうか。
「じゃあ、好きにしゃべります」
俺自身も自分の推理があっているか気になる。
「俺がこの計画を知ったのは五日前。きっかけは先生が作った学園サイトです。あそこに犯行声明を載せましたよね」
「そうか、お前もサイトを閲覧していたのか。じゃあ最近攻撃を仕掛けてきたのはお前だったんだな、櫻井」
「ご名答。その通りです。見事トラップにかかったのは俺です。大分苦労しましたよ、勉強しまくって挑んだのに完敗でしたからね。まさかお古だと思っていたサイトが現在のセキュリティレベルに合わせて作り替えられているなんて、卑怯ですよ」
「お前は学力が高いからな。出来るっちゃ出来るか。あのトラップに捕らえたにも関わらず、中からぶち破ろうと暴れていたのには肝を冷やした」
少し会話が砕けてきた。もう美川も計画がとん挫している影響もあるのかもしれない。成すがままにって感じを受ける。
「こちらも肝を冷やしたのは同じです。俺は最初勘違いをしていました。学園サイトの利用者は学生だけだと思ってんですから」
「俺が作ったサイトだからな。俺が使うに決まってるだろう」
「先生がサイト管理者だって気づいたのも、ついさっきです」
「さっき?」
美川は首を傾げた。まぁ触れていないのだから驚きもするか。
「ココで歩いていた時のさっきの会話はブラフですよ」
俺は今年に入ってから一回も美川と接触していない。
「……お前は本当に食えないな」
俺の知ったかに自分だと答えていた。
イヤ、答えさせられていたというべきだろう。
「伊達にデスゲームを生き残っていないんで」
「………………っ」
まぁ会話の節々にやりとりが隠れているのは言うまでもない。
『そういえば、先生。学園サイトの管理者だったんだですね』
『それも能力で知ったのか?』
この時点でYesと言ってるも同然だ。それを美川も分かってか俺を評価している。そして俺は話を続けていく。褒められたのなら褒め返す。それが会話だ。
「食えないのは先生も一緒です。俺は学生だと思っていたからこそ、ギルドを疑いました。集団でデットエンドを倒すならギルドしかないって。おかげで4日で全ギルド長に接触しなきゃいけなかったんですから」
「4日でって……お前」
呆れを通り越して驚きが込められていた。
まぁ普通やりやしないそんなこと。狂ってる俺意外は。
「すると、お前、まさか――ッ!」
そして、美川が自問自答で回答に辿り着いた。
「今日一日で全てを準備したのか!?」
「まぁ正確に言えば……半日ですけどね」
美川は俺の回答にまた呆れた表情を浮かべ皮肉を返して来たので、
「お前は探偵になったほうがいいんじゃないか……」
「探偵ってのもいいですけど」
さらに皮肉を返す。
「俺がやりたいのはピエロなんで――」
一旦落ち着き、話を本筋に戻していく。
「最初の前提が間違っていたせいで大忙しでしたよ」
「半日で計画の全容まで暴いた上にギルドの捕獲の準備」
言葉にすれば多忙に聞こえる。けど、別になんてことはない。
「そうです。ただ昨日の時点で犯人はわかったんである程度準備を考えることはできました」
「ギルドを調べ終わったとしても俺に通じるものはないはずだ……なぜ俺だとわかったんだ?」
この発言から分かる。美川先生も上手くやっていたのだと。
誰にも気づかれずに計画を遂行する為に――。
サイトの管理者であり書き込みの検閲や削除も出来る。
おまけに捨てアカウントまでご丁寧に作ってまで仲間を増やそうとした。
「それは黒板いっぱいに張られた写真です」
「写……真?」
そう。ここが俺の推理でかけていた部分。
俺のクラスだけかと思ったら違うクラスにも張られていた。
二年生全部の教室に。俺は一人で回収を余儀なくされた。
その時にふと気づいてしまった。自分の抜けているところに。
「先生、ご丁寧にクリスマスの画像まで貼っていたじゃないですか……」
「それがどうしたんだ?」
そこが問題なのだ。
「あれ撮れるのって『誰か』っていう話と」
決行する決意を確たるものにするための行為だったのだろう。
ソレが致命的なミスだ。
「あの時間に二年の教室全部にあれを張れるのは『誰か』っていうので」
俺の言葉にまだ疑問が解けずに目をすぼめている。
「大体絞れましたよ」
ちょっと、説明を補足するか。
「クリスマスの写真は生徒達が倒れたあとの写真です。じゃあ取れるのは生徒以外じゃないっすか?」
「そういう……ことか」
「さらにギルドの活動時間帯に集団で動けるとしたら委員会ぐらいでしょ」
「どうして……それが俺と風紀委員と繋がる?」
美川からの当然の質問である。
まだ犯人の断定までは俺が出した情報ではいけないか。
「先生、もうちょっとなんでお付き合いくださいよ。俺、実はいうと昨日学校の屋上に朝5時からスタンバイして怪しい動きが無いか見ていたんですよ。その日は何も怪しい動きがなかったんです。イヤ、正確に言うとないと思っていた」
「………………」
美川もココで何かを察したようだった。
うまく隠していた化けの皮が剥がされたって感じだな。
「掲示板で犯行のやりとりがないならどこかで情報のやり取りがあるって、俺は睨んでたんで。それにしても美川先生が生徒に声をかけるっていうのが普通すぎたんで、アレが計画の情報交換になっていたなんて知りませんでしたよ」
「本当……よく気付くよ、お前。聞いてるだけで天晴だ」
委員会は担当教師が決められている。生活指導の先生は風紀委員会の担当となる。風紀委員っていうのは正義感が強いやつらの集まりだ。
それを取りまとめるリーダが居ればギルドでなくても今回の計画が実行できると踏んだのが美川の作戦だったのだろう。
「そこから、お前は俺が声を掛けた生徒に接触して計画の全容を把握したというところか」
昨日、俺が本気にならなければ気づきもしなかった。
本気で犯人を考えたからこそ出た結論だった。
持てる情報をフルに使って推測し接触したことによる功績。
登校時に美川が接触していたメンバーが――
風紀委員だということに気づけたのが一番デカかった。
「本当に勘のいいやつは嫌いだ――」
美川は全体像が分かったようで溜息をつき悪態を吐いた。
「勘ではないですよ。愚行だった」
勘なんてもので言われちゃ困る。俺がどれだけの労力を費やしたか。
「先生の失態は黒板に写真を張ったことだ」
「なに――——?」
訝し気な口調を告げる美川の顔に光が当たりだした。
「黒板に犯行予告を出したことで、」
もうすぐ到着できるだろう。
「俺に悟られたし――」
学校から遠く離れた山へと抜け出した。
青々と木々が茂って辺りが見えない位置へと繋がっていた。
これだけ離れれば十分だろう。
俺は気を逸らすための会話の最後を冷たく告げる。
「俺を――本気で怒らせたんですから」
相手もそれに合わせた様に冷たい言葉を返す。
「それはお前も同じだ――櫻井」
《つづく》
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