21.―学園対抗戦―デットエンドの死亡遊戯は心を折る遊び。

第50話 俺の完璧なる作戦の解説しましょうか?

 観客席に向けた強からのサインを確認し


「このへっぽこがぁあああああああああ!!」

「そうでふ! お前なんか……」


  田中と小泉はすぐに叫び始める。


「あと三秒で地獄の底まで叩き落されるでふよ!!」

「金髪やろう、オマエはすぐに負ける!!」

「頭が禿げ散らかすぐらいの恐怖を受けることになるでふよ!」


 二人して如月を指さしながらめいいっぱい叫んでいた。


 ——そうだ……それでいい。


 その間に強はじわりじわりと動き出す。


 ——ソロリ―、ソロリ―だ……。


 如月に気付かれないようにスリ足で少しずつ移動を開始。


「お前の負けは確定してるんだよ……くそ……金髪!!」

「そうでふ!! うっ……アホ、アホ!!」


 段々言葉に詰まりだす田中と小泉。


 いきなりのアドリブでうまく出来ていない。


「「ばぁーか、バぁーカ!!」」


 ——小泉、田中ナイスだ!! 


 それでよかった。強はある瞬間見逃さなかった。


 ——ボキャブラリーが貧困すぎて、


 これは作戦。


 ――終わってるけどなぁああアアアアア!!


 後ろに体を預けるように倒れる動作を見せた一瞬。


 振り向き方向を変える。その一歩は急激に加速していく。


 距離を一瞬で縮めて気を抜いていた如月に飛びつく。


 獣の眼光が再び蘇る。飛びつきながら勢い殺すように、


 足をリングへと突き刺す。闘技場の岩盤を粉雪のように舞い上げ、


 二本のわだちを残し進んでいく。


 闘技場が悲鳴を上げる様にガリガリと削れて行く音が鳴る。


 最初同様、二人の姿は粉塵に紛れる。


 会場内に轟音が響き終え――ほんの一瞬だった。

 

「つ~かまえた♪」


 闘技場の真ん中でその声が聞こえる。


 いつの間にか状況が変わっている。


 強が如月の上に馬乗りになっていた。


 強は待っていた――如月の気が抜ける瞬間を。


 如月は強に乗られながら余裕の表情を崩さない。


「まさかね、油断したよ……」


 すぐにこの状況を抜けられると判断していたから。


 強は途中から気付いてた。如月という男の本質を。


 田中が最初に叫んだ時――


 如月が構えをといたことを。


 そして、今回も同様に如月が構えを解くことを。


「油断? ちげぇな」


 強は涼しい笑顔で如月を上から見つめていた。


「解説しましょうか?」


 如月も余裕の表情で返す。


「その必要は――なッ!!」


 如月はようやく異常に気付く。


 金髪すかし野郎の顔が緊急事態に歪んでいく。


「どうした? その必要はないってっか?」


 その姿に強はうれしそうに語り掛ける。


「まぁ、そう連れないこと言うなよ♪」


 下で焦る如月を楽しそうに眺めながら強はいう。


「これからゆっくり教えてやるよ~。時間はたっぷりあるからな!」




◆ ◆ ◆ ◆




 俺は馬乗りになって、下ではしゃぎ踊るキザ野郎を見下ろしていた。


「な、な!!」

「計算外でしたか?」


 俺は笑顔を浮かべながらその光景を見続ける。


「どうしたよ~、楽しそうにはしゃいじゃって」


 俺の足を捕まえ押そうとしているが外れるわけがない。


 ちょっとや、そっとの力では外れるわけがない。


 残念がながら俺のぐらいの力が無ければ外れるわけがない――


 だって、俺の両足は地面に埋まってるのだから。


 どうやらこのリングは当初説明があったようにそれなりに固いみたいだ。


 特殊な石を使ってるらしい。俺はそれに両足をめり込ませている。


 丁寧に逆L字に足をカギのようにしているから外れないようになっている。


 俺の足はリングの岩盤を破り下に刺さり、


 まるでホッチキスのように金髪の体をコの字で固めているだから。

 

「まぁ暴れずに人の話は聞けや。金髪一人ぼっち♪」

「くそ……くそ、くそッ!!」


 息を荒くして下で暴れている。まったく。


「人の話を聞くときは静かにって、親に教わらなかったのか?」


 俺は下ではしゃぐ馬鹿にわかるように解説をしてあげることにした。


「これから解説してやるよ。お前の能力はおそらく《時間停止》だ」

「ぐぅ……はずれろ……はずれろぉおおお!!」

「少し静かにしてくれません?」


 俺は軽くビンタをする。ただ途中で軌道を変えられた。


 何も動作をしてないように見える。


 ——スピードとはやはりちょっと違うか……。


 途中で気付いた。こいつの能力に。


 見えない動きではない。それは試合中に落ちてきたあのペンが教えてくれた。


 コイツから打撃を受けたときあれは回転をしてなかったように見えた。


 ――そこからは簡単な推理だった。


「お前の能力は時を止めてオマエだけが動ける。それは時間でおそらくお前が七発発撃ち込めて移動できる程度のものだ。発動までの時間は俺の歩幅でいけば五歩。但し、スピードを落とした時に五歩だけどな」

「何を……まさか!?」


 やっとバカも気付いたみたいだ。


「そうだ……」


 途中から俺の術中にはまっていたことを。


「アルマジロの時は本気で移動してない」


 むしろ、あの体勢で走りにくかった迄ある。


「わざと調整したんだ、余裕を持って二歩分。まぁ、これはあくまで予備の作戦だけどな。お前の時を止める能力にはインターバルが必要なんだろう。おそらく止められる時間も限られてるし、再度発動するまでにも時間もちょびっと必要だな」


 もしインターバルが無ければ永遠に殴り続ければいいだけのこと。それでもしなかったのは出来ないということだろう。殴られた回数もさほど変わらなかったことからコイツの限界値は計れていた。


「ここまでがお前の一つめ能力の解説だ」


 俺の体に衝撃が走った。おそらく下から時を止めて殴り続けているのだろう。


 だがこの程度の威力ではほぼ効かない。馬乗りの下からパンチを放っているのだろうけど、この体制から威力のあるパンチを打つのは至難の業だ。


 引きやタメといったものが作れないから。


「それで二つめだ。試合途中で説明したがこれは《電気系》だろう。打撃に電気を帯びることができる。意外とやっかいな組み合わせだった」


 このせいで目くらましにあっていた部分もある。


 ソレに一番はこれのせいで反撃がおぼつかなかった。


「お前の攻撃を受けたあと、電撃のせいで少しだけ痺れて動きが止められる。お前のインターバルを稼ぐには有効だな。同様にお前は打撃を打った後いつも距離を開けていたのも時間を稼ぐため」


 俺が殴りに行く時間を見越してせせこましくも逃げていたのだろう。


 想像するとなんか貧弱だが、やり辛かったことこの上ない。


 さて、ここからは俺の作戦を説明してあげよう。


「お前の能力は中々いいな♪ 時を止めて再度能力を発動させるまでの間、麻痺させる。うん、理に適ってる。時を止めた中ではお前の能力で力は無になるみたいだ」


 ビンタの方向を変えられてしまった。


「俺の攻撃も方向を変えられたりしたし」


 ただ残念な部分もある。


「ただ物体の固さは変わらない。それが出来れば俺のダメージは計り知れない」


 ――ここからが本題だ。


「だからお前は俺の足が埋まってれば、石を砕かなきゃ逃げられない」


 力の違いを見せつけるように強調して、


「だけど……砕けない」


 もう一度告げてやる。


「俺は砕けるけど、オマエは砕けない」


 コイツも終わりを迎えたわけだ。


「ソレがいま実証された。これでオマエは逃げられない」


 もうチョロチョロ逃がすことも無い。俺の説明も終わりを迎えてきたので、


「この醜く美しくないアホな状況を招いたのは誰か?」


 バカにするように馬鹿を指さす。





「——お前自身だ」





 首を回し関節を鳴らしながら戦闘準備を整える。


「なぜなら、お前は田中が叫んでた時に油断する」


 豚さんの鳴き声に集中する癖があるのだろうか。


 それとも田中の能力だろうか。まぁどちらも違うことはわかっている。


 全部アホなコイツが原因だ。


「それはお前の戦闘美学に基づくものだろう」


 戦隊ものの見すぎだな。


 戦闘を美しいものと勘違いしてるくらいの輩だから仕方ない。


「誰かがしゃべっている間は攻撃しない。それを利用させてもらった」


 本当の戦闘をしたことがない証拠だ。


 喋ってる間に殴ってくるうちの親父とは違いすぎる。


 野蛮な戦闘を知らぬがお陀仏だ。


「……俺の完璧なる作戦の解説はこれにて終了」


 俺はハッキリは言わなかった。もし言えば反則扱いもあるだろう。


 ジャージに腕を入れたのはするためだ。


 秘技アルマジロはそういうものだ。


 あれはバレないように反則したに過ぎない。


 手元を見せなくするための偽装でしかない。


 俺は……ジャージの中で血文字を書いて、


『俺が豚足の合図を出したら――』


 それを仲間に託したんだ。


『金髪に向かって叫びまくれ!』


 お前は三体三の戦いを放棄していたんだ。


 学園対抗戦は三対三の闘いだ。決してなどではない。


 ―—仲間と戦うということを分からぬ愚か者めッ!


 俺は指の関節を慣らし攻撃態勢を整え、


「なっ……」


 脅しにかかる。


「死ぬまで遊んでやるから……」


 鼻がつくくらい顔を近づけて、目を見開いて、低い声で、


 笑顔で告げてやる。忘れるわけがない。依頼は受けている。


『すかしたコイツをぶっ殺してくれ』と豚さんは言っていた。


 それにだ、それに、その田中を、


 を愚弄した罪は重い――


 罰はちゃんと受けてもらうッ!!


「覚悟しろよ――」



≪つづく≫

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