15.―学園対抗戦―デットエンドと友達になりたい!!それは玉砕覚悟の竜騎士の願い……
第39話 俺は涼宮とHOMODACHIになりたい!
「決勝開始ぃいいいい!!」
僕はアナウンスが流れると同時に槍で攻撃を仕掛けようとした。金髪の彼がしなやかに指を上げる。僕の攻撃が聞こえるより早くパチンという音が聞こえた。
「あれ……消え――なッ!?」
次の瞬間、全身に衝撃が駆け巡る。支えきれないほどの衝撃。
――重たいッ!
前に向かっていたはずの体は後ろに引き摺られていく。
鎧の上からでも突き抜けるようなダメージ。
「まだ持つのか……結構タフなんだね。君は」
金髪の男は涼し気な声が耳に届く。ダメージに歯を食いしばって耐え凌いだ。
僕のその姿を前にヤツは笑っている。
良く持ったと。
大人が子供相手に褒めるように賞賛を送るように。
―—何が起こったんでふ!?
僕は目を丸くして相手を見つめる。
わからない。ただ攻撃を受けただけとしか分からない。
ダメージがある。何かをされた感触だけがある。
―—一瞬で消えてそれで衝撃が……動きが全く見えないでふ!
集中力を高めて相手を見据える。男はユラユラと小刻みに揺れている。
相手の攻撃が何なのか糸口を掴めない僕は入念に、
相手の動きに注視して身構えた。
また出会い頭に衝撃を喰らうわけにはいかない。
——次の攻撃で見極めるッ!
「次の攻撃を仕掛けるよ……」
攻撃前の余裕の宣言に向けて僕は叫ぶ。
「来ぉおおいいいいい!!」
パチンと音を立てる指先に視線が取られる。
二つの指が重なり滑り出して親指の付け根を叩きつけると同時だった。
「くッ――!」
目の前の男が指を弾くとまた唐突に衝撃に襲われた。あれが攻撃前の合図になっている。アレがあってから何かが起きている。だがアレが魔法でないということはわかる。
―—何かしらの能力であること間違いないのに
―—クソ……全然動きが見えないでふ……それに。
指を擦り終えた相手は涼し気だ。何一つ焦りなどない。歯を食いしばり衝撃に耐える僕の瞳に映る相手は戦いに勝つのが当たり前だと言わんように、余裕の笑みを浮かべている。
——まだ本気を出していない!?
◆ ◆ ◆ ◆
「田中……」
控室でセンターがテレビで決勝戦の様子を眺めていた。
俺は心の中で「お~い、話はどうした?」とつぶやき細目で視線を送り続ける。話があるとかいいながらなんでかテレビを見ている。家に人を上げてお茶出しますねと言いつつ便所にウンコしにいくような行為。
「オイ……」
無作法にもほどがある。
「ごめん、ごめん! 涼宮!」
やっと、センターも俺の抗議の視線に気づいて謝ってきた。
しかし、ごめんで済む話ではない。
猫耳幼女を使って人を呼び出していおいてのこの仕打ち。
「お前は……ふざけてるのか?」
本当にふざけたことをしやがる。
「人を呼び出しておいてシカトとは……放置プレイってやつか……」
猫耳幼女の嘘泣きを使って俺を呼び出したあげくに放置とか、
「病人じゃなかったら遊んでるところだぞ」
コイツ殺してもいいかもしれない。
俺の殺意に気づいたのかセンターは慌てた素振りで
「違う、違う!! ちゃんとあるんだ、涼宮に話したいこと!!」
両手を交互に激しくクロスさせた。
「じゃあ話せよ。早く。俺は家に帰りたいんだ……」
美咲ちゃん達が帰ってきたら自宅に帰るつもりだ。呆れた俺を前にセンターは咳ばらいを一つ入れ、落ち着いた口調で話し始めた。
「……涼宮、今までごめん」
「あん?」
何を急に謝ってんだ……こいつは?
主語が無いから何が御免なのかも分からない。
呼び出して放置して御免ということだろうか?
「涼宮のことを誤解してた……僕は」
だが、センターの言ってることは違った。
「誤解?」
俺はぶっきらぼうに返した。こいつらはいつも話の本筋を見えなくして話してくる。どうにも分かりづらい。言い方が遠回しで何を言いたいのかわからんし、話を長くしてくる。
コイツは出世できないタイプだ。簡潔に分かりやすく意味を伝えるんだ。
俺みたいに――殺すぞと。
塩顔のくせに頭悪いの?
「涼宮って本当はすごい良いやつだよ。いままで気付いてあげられなくてごめんね」
いきなり謝ってヨイショしてきやがった! ど、どういうことだ!?
「な、な、なに言ってん!!」
仕事が出来ないやつがいきなりヨイショとか、ビックリするだろ!?
このズレた間でのヨイショのタイミングは、もしやコイツ何か仕事ができるヤツのかもしれないと思ってしまう。その証拠に何か俺が動揺して口が空回りしている。
「そうやって、照れてるんだな……」
俺の反応をからかう様な表情。俺は負けじと咄嗟に言葉で振り払う。
「ちげぇよ!! これは……あれだ、ん?」
否定しようとしたが何か間違えている。
俺は態度を急変する。
「まぁ俺がいいやつだということは明白だから、当たり前だ」
俺も頭がいいから咄嗟に返せる。
「俺は平和主義者だからな!」
褒められ慣れていないから危うく間違えるところだった。
まるで俺が悪いやつみたいに自分の口から言いそうになった。
危ない危ない。
俺が良いヤツだということは明々白々の事実。
なのに、だ――
顔を見るとセンターがにやけているのがムカつく……くそ、病人でなかったら殴っているところだ。いや、さっき元気になったと言っていたから殴っても問題ないかもしれない。
だが、俺に殴らせるより早くセンターは会話で遮る。
「僕らはずっと勘違いしてたんだよ。涼宮のこと」
「らって……なんだよ……らって」
また遠回しだ。何を誤解してるんだよ。
そもそも誤解も何もあったものか。俺とお前らには何の関係も無い。
俺にとって――
お前らなどどうでもいい存在で俺の人生にとってのモブでしかない。
「ずっと怖い奴だと思ってた。ヒドイやつだと思ってた」
まぁ、そう思ってるのも分かってる。
「近づきたくないと思ってた。恐怖の大王だって呼んでたんだ……」
「恐怖の大王……だと?」
俺の事を意味不明な呼び方をしやがって……けど今回は分かる。
センターが言ってることがわかる。
俺は暗い気持ちになりながらも理解している。
俺という存在の在り方を。
そして、センターが言ってることこそが普通の奴らの意見だ。それがいつも通りのお前らだ。それがお前らの本心だ。お前らが俺へ抱く感情だろう。大多数の普通のヤツが取る選択だ。
どいつもこいつも俺を見て脅える。
俺という存在から眼を逸らす。
何もしてないのに――平和主義なのに。
お前らは力が怖いんだ。俺みたいなヤツに力があることが怖くて嫌なんだ。
俺と一緒にいるのが恐ろしいんだ。何をされるかわからないから。
何もしたくない俺を遠ざけて陰口を叩くんだ。
お前らってヤツはそうだ。俺を許せないんだ。
だから、俺が悪者であって欲しいと願っている連中だ。
「けど違ったんだ、涼宮は」
―—えっ……?
俺の考えを否定するように言ったセンターの言葉に俺は顔を上げた。
「きっと、僕らが怖いって思ってるのがわかって僕らに近づかなかったんだ。嫌いって思ってるやつに嫌いって返してるだけだったのにね。鏡みたいな感じで」
どこか澄み切った目で俺を見ていた。その目には恐怖がなかった。
真っすぐと俺を見ている眼は優しい。
何かそれは俺に期待をかけているような目に見えて、
顔を伏せてそれを俺は、
「別にそうでもない。俺は――」
否定した。期待しても無駄だということはわかっている。
嫌われてることなんて百も承知だ。知っているんだ。
昔からそうだったから。何度も嫌というほど味わってきたのだから。
みんな俺を怖がる――俺の力を。
俺は普通とは違う。俺の力は異常で他の奴らとは違う。
バカじゃないから知ってる。それぐらい俺だって……わかってる。
力が強いから、怖がられるんだ。
俺は普通じゃないから――
俺の力には理由がないから——
俺には友達が出来ないんだ。
力を発揮する自分の開いた手を考えながら見ていたら、
「な、なにを!?」
温かい感触が手に伝わってきた――人の温もり。
「涼宮……」
センターが俺の手を握ってきた。俺はいきなり手を握られ焦った。
「僕は……いや、」
何か艶めかしい声で俺を呼ぶ。
そして、センターは少し言葉を溜め意を決したように返してきた。
「俺は涼宮と友達になりたい!!」
頭が追いつかない。突然の告白に呆気に取られた。
なに言っちゃってんの?
「はぁ~あ?」
空気が漏れ出るように声が出た。ずっと俺の手を握って俺を真っすぐ見つめている。センターは何を言った。センターは俺に何を伝えようとしている。
―—こいつと……友達……
——ともだち……聞き間違えか?
何度も手を握られた状態で考える。ヤツが言った言葉を思い出しながら、
状況を少しずつ落ち着いて整理していく。
―—トモダチ……TOMODACHI……。
聞き間違えだな、きっと。手を握ってくる男。
一文字変えてみよう。
―—あぁ……最悪だッ!!
衝撃の答えに辿り着き俺は焦り逃げる。意を決した告白。
夕暮れの救護室。艶めかしく俺を呼ぶ声。なんて恐ろしいやつだ!
「離せぇえええ!! ゲイやろう!!」
「えっ!?」
センターの手を振りほどいたら驚いた顔をしていた。仕方ない、一世一代の告白を振られたのだから。俺がイケメンだから惚れるのも無理はないが、
―—けど、俺は無理!! 普通なの!!
「……センター違う相手を見つけてくれ」
―—ノーマルなのだからッ!!
「俺はノーマルだ。
―—なんなら、オッパイがある方がスキだ。
俺の言葉に今度はセンターが呆けている。
「えっ………………」
何が起きたかわかっていないし、
「へっ………………?」
振られたことのショックから理解が進んでいないようだ。
「ゲイ……って、違うよ!! 違う、涼宮!!」
告白が失敗して恥ずかしくて取り消そうとする姿は滑稽だ。
「どういう解釈かはわからないけど、間違っている!」
間違っているのはお前の性癖だ。自然の摂理に反している。
「僕には二キルがいるし、二キルを愛してるぅううう!!」
「両方いけるやつもいるだろう……なんか、オマエ顔的にそれっぽいし」
「間違いだよぉおおお! 一方通行だよぉおお!!」
センターはめずらしく取り乱し叫んだ。
息を切らしながらもセンターは話を続けた。
「涼宮違うんだ。ちゃんとした友達だ。友だ! フレンドのほうだよ!!」
「……えっ?」
な、なに言っちゃってんの……さらに頭おかしいん?
病院いるのに? なんかへんな薬打たれたん?
さっきのより重症な答えが返ってきた。
焦っていっている意味が分からない。
―—俺と友達?
俺は驚きの目でセンターを見つめる。
だって、しばらくそのフレーズを聞いたことがない。
いつ以来だろう。思い出せない程遠い、その言葉が。
――トモダチになりたいなんて。
「涼宮はイイやつだよ」
「……いいヤツ?」
「そうだよ。ちょっと発言が過激だけどちゃんと優しいし、それにおもしろいし」
「べ、別に!」
センターを見ていると何かこっぱずかしくなってきたので視線を遠くに移す。
俺は両手を組み遠くを見つめる。
―—オカシイ……俺にそっちの趣味はないはず!!
―—クソ、ゲイ野郎がお友達から始めましょうとヨイショしてくるッ!
「夏休みの戦闘で気付いていたんだ、みんな。なんとなくおかしいってことに。本当に涼宮が悪い奴だったらあそこに来ないし……それに鈴木さんの為にあんなに怒ったりするはずがないから」
「べ、別に玉藻の為じゃねぇしー!! ちょっと、夏休みに色々あってイラついてただけだしー!!」
―—話題にいきなり玉藻が出てきてビックリするんですけどッ!
「涼宮って、自分から誰かを傷つけることってないんじゃないかって。あの日に『お前らが傷つけたんだ』って言ってたので疑惑が僕の中に生まれてたんだ。けどわざと見ないようにしてた」
「……ん?」
―—なんで見ないの……。
「多分悪いやつであって欲しいって願望もあったんだと思う。だから目を背けてたんだ」
「そうだ……そういう奴らだろ。お前らは。あの時に俺が魔物を全部倒して助けてやったのに感謝すらしない!」
やっと正解が聞けた。こいつ等はそういうやつだ。
すぐに俺を悪者にする。それでこそ、いつものお前らだ。
何かそう思うと安心してきた。やはり俺は間違っていない。
「そうだね、今日も僕は何度も涼宮に助けられた。ありがとう涼宮」
「なっ、なんだ!」
急に変化するコイツ。発言がぐにょぐにょしてなんだか変な気持ちにさせられる。急に下げたりヨイショしたりなんなんだよ!
完全にセンターに主導権を握られていた。
俺はヤツの言葉巧みに踊らされていた。
心を少しずつ揺さぶられている。動揺したり落ち着いたりの繰り返し。
「涼宮が僕を救護室までおぶってくれた時に感じたよ。涼宮は僕の体調を気遣って揺らさないように気を使ってたことも。その前に試合を早く終わらせてくれたことも」
「………………別に、アレは」
コイツは……意外と俺の事を分かっているのかもしれない。
確かにあの時の俺はセンターを気遣っていた。
それはどういう状態か分からずに焦っていたこともあるが、
病人として扱ったことを気づいてくれている。
「涼宮が学園対抗戦が嫌だってことも、涼宮が望んで闘いたくないこともわかってるよ。ちゃんと見てたから」
「そうだ……俺は嫌なんだ……学園対抗戦とかどうでもいい」
「やっぱりそういう感じか……」
なんだろう……ムズ痒いし、照れくさい。
なんだか距離を縮められている。どうも褒められると弱い。
変な感じがする。何かペースが乱され続けている。
「だから、わかっちゃたんだ。一年の時にやられた意味が」
何を――。
「僕らが涼宮を馬鹿にしているのが涼宮を傷つけてたんだって……異世界に行ってないってことでそんなことで僕らは涼宮を見下してんだ。最低だよ……」
俺はふてくされて答えを返した。
「……そうだ。あれはお前らが悪い」
そうだ。いつもバカにしてのけものにするんだ、お前らは俺を。
傷つけられたから突き放したんだ。やられたからやり返したんだ。
ひとりだけ例外はいるにはいるが――
ソイツだけはムカつくから傷つけたこともある。
「やっぱりそうか……今日の対抗戦は涼宮を信じてみようって田中と決めたんだ。僕らから近づいて行こうって。きっと、そうすれば本当の涼宮が見えてくるんじゃないかって」
「何を言って……?」
信じるってなんだよと思った。けど、それはセンターの中で何かのきっかけになっていることはわかる。それがあったからこいつ等は俺をちゃんと見始めて、俺の良い所に気づき始めたと。
「僕は涼宮のことがちょっとわかったよ。まだほんのちょっとだけど、もっと知りたいと思えたんだ。だから友達になりたいって思った」
―—友達……。
「ソレに田中は前から気づいていたんだ」
―—豚が……?
「僕より前からずっとね」
センターはテレビに映るキモオタのことを見上げながら話を続けた。
≪つづく≫
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