14.―学園対抗戦―デットエンドは試合放棄。ピエロは怒りマックス!!

第37話 この娘はお前が簡単に触れていい娘じゃねぇ!!

 オロチと銀翔は強の試合を見た結果、考え込んでいた。


「ちょっと、さっきの涼宮君のはやりすぎですよね。白目向いちゃってましたし……」


 試合を急いでいたせいでもあるが背後からの強力な一撃は簡単に意識を刈り取っている。身構える余裕すらないからこそ無防備な状態での被弾は火を見るよりも明らかな結果だった。


「バカは加減がヘタクソだからな……まぁ本気でやってないけど、あぁなっちうまうってところだけは同情するがな」

「下手くそですか……」


 オロチの発言に銀翔はため息をつく。涼宮強が強いことは知っているが加減の技術については情報がない。


「本気でやったら……もしかして死人とか出ますかね……?」

「間違いなく出る。殺人大会にしないように注意はしたが感情で制御を失っちまうからどうしようもねぇ。殺人級のバカ力だからな……」


 銀翔はオロチの発言が冗談じゃないことを悟り唾をのみ込んだ。大会の運営に関わっているブラックユーモラスとしても事件が起きて今後の大会が開催できず、優秀な人材確保を出来なくなることは痛手となる。


「……安全対策の為に、」


 その中で銀翔が出せる答えはひとつしかなかった。


「決勝は僕が審判につきます」

「そうしてくれると助かる。うちの学校から犯罪者だすと学校の評価と俺の給料にも響きかねん」


 銀翔は給料の話など一切していない。


「……こっちの心配もしてほしいです。先輩」

「ついでに少しはしてる」


 オロチに対して銀翔はため息で答えを返した。




◆ ◆ ◆ ◆




「うぅうう……ひとりぼっちは寂しいよ……」


 俺と玉藻が観客席に戻ると赤髪が一人寂しそうに膝を抱えてうずくまっている。


 あれ、美咲ちゃんとピエロがいない。


 どこにいったんだ?


 俺は泣いているソイツをほっておこうと思ってたのに、


「そんなに泣いてどうしたの?」


 弱きもの大好きな玉藻さんが赤髪に話しかけてしまった。


「巨乳おねいさん……ひっく……」


 これをチャンスと言わんべく鼻水を垂らしながら赤髪は


「女の子をひとりぼっちにする男ってどう思いますか?」


 玉藻に事情を話し始めた。


「ソイツが私の親友をたらしこもうとしてるんですが、どう思います?」

「ヒドイ人がいるんだね……かわいそうに……」

「おねぃさん!」


 玉藻は「よし、よし」と赤髪の頭を撫でて慰めている。どさくさまぎれに赤髪は玉藻の胸に顔をうずめている。そして、ひどいやつがいるもんだと俺も思う。


 ただどうでもいいので、


 早く美咲ちゃんとピエロを見つけて家に帰りたい。


 俺は観客席を見渡し二人の姿を探すがどこにも見当たらない。


「どこいったんだ?」






 二人を探しに行くよりも待ってたほうがいいだろうと思い、


 座っていると会場が騒がしいことになっていた。


「すごい!! カッコいい!!」「今年のMVP候補はお前だぁあああ!!」「いや、前代未聞だな……まさか過酷な対抗戦をひとりでなんて」「もし優勝したらビッグニュースになるぞ!」「当たり前だろう、一人で全勝だぞ!」


 観客は騒ぎ立てる。毒ガスやろうのことを。


 ソイツは中央で手をかざしている。


「どうして……こうも違うのかねぇ……嫌になるぜ、ったく」


 どう考えても贔屓が過ぎる。マカダミアを逆に贔屓しすぎだよ。


「うほほ~い!!」


 赤髪は何をやっている?


 玉藻の胸で顔を当てたり弾力で跳ね飛ばされたりして……楽しそうに遊んでる。なんという弾力だろう。顔がぶつかったら弾き飛ばして反動で揺れている。


 ―—なんだ……コイツ?


 ―—全くもって、うらやまけしからん!


「うひょぉほおほお! 楽し~い♪」


 ―—というか、どちら様だッ!?


 俺が赤髪に変態を見る眼差しを向けているところで、


「ちょっと……そろそろいいかな」


 さすがの優しい玉藻さんも過剰なスキンシップを嫌がり始めた。


「すいません、調子に乗りました」


 それを受け取り赤髪が謝りだす。


「あまりにおねいさんのパイオツがテキスーでカイデーな上にカラヤワなものでついつい」

「パイオツテキスー……?」


 業界人のような言葉に玉藻さんがついていけていない。


 とりあえずお前のおっぱいをべた褒めしてるんだよ。


 けど、本当の所はどうなのだろう?


 そんなにテキスーなのかな……ちょっと気になりますよ……。


「おねいさん……いい人なんですね。さすが師匠の嫁候補です。わかります」

「おいッ!」

「慈愛に満ちた存在感とこのふくよかさ。師匠の相手にぴったりです!」

「えっ!?」

「何言ってんだ!! チビ子、お前は!!」


 ―—くそっ、邪魔ものだコイツは!!


「お似合い……強ちゃんと……」


 玉藻がなんか顔を赤らめてるのにつられて、


「そ、そ、それより、」


 俺までなんか熱くなってきた。場の空気を変えなくては!


「早く美咲ちゃんと櫻井を見つけて帰ろうぜ!」

「師匠、その二人なら巨乳おねいさんを探しに行きました」

「あん?」


 何を言ってるんだ……このチビ子。


「そこにいんだろう……玉藻は。お前の近くに」

「そうです。けど、探しに行きました。私ひとりを置いて」


 誰かの物まねを披露するように赤髪は嫌味な表情を作った。


「女の子を一人にしちゃいけないな~って言いながら……」


 過去を憎しみながら思い出す様に顔を歪めているチビ子。


「……あのくそ野郎は消えました」


 おそらく櫻井のことか?


 こいつ女だったのか……俺も男かと思ってた……あっ、マジだ……スカート穿いてた。


 これは冤罪だな。


 櫻井は無罪ノットギルティ


「私が……寝ぼけてたから……」


 玉藻がしょげながら口を開いた。


「ちげぇよ。あいつはお散歩好きなピエロだから……あれだ。散歩がてら、うちの妹を連れまわしてんだろ」

「お散歩好き?」

「そうだ。櫻井はお散歩大好きだ。すぐどっか消えるし帰ってくると大体散歩っていうし」

「そうなんだ!! そっか、お散歩か~、仲いいね♪」

「ちっ」


 赤髪が何故か舌打ちをした。玉藻は相変わらず勘違いしている。まぁ、それでこそ玉藻だ。それに時間が経てばきっと諦めて戻ってくるだろう、二人とも。


 俺は席に座り二人の帰りを待ち続ける。


 場内にはアナウンスが流れ始めた。


「今年の優勝は二校に絞られました。カシューナッツドッグ学園とマカダミアキャッツ学園の一騎打ちです! 決勝は時間を空けて行いますので、皆さま観覧の準備をお済ませください!!」


 俺と関係のない舞台の準備が着々と進んでる様だ。


 あー、早く帰りてぇ。



◆ ◆ ◆ ◆




 威圧的な風貌をしたグラサンの男はイラついていた。


 その男の名は火神恭弥かがみきょうや


 彼の性格は好戦的であり暴力好きである。そして、ブラックユーモラスの現No.2。現隊長である銀翔とは性格的に合わない。攻撃的な彼の性格とおとなしい銀髪は真逆であるから。


 ――水と油のような関係。


 一生かかってもお互いを理解できはしないだろう。


 彼は晴夫とオロチに古くから憧れて後を追うようにブラックユーモラスに入隊した。圧倒的な暴力を振りかざす二人への羨望は日増しに強くなっていった。


 それに応じて彼自身も日に日に力をつけていく。


 早くあの二人に追いつきたい一心だった。


 だが、その二人の横には必ず銀髪の男がついて回る。


 昔から自分が欲しいと思ったものを横取りする男――銀翔衛。


 そして、彼だけが晴夫とオロチに認められ隊長となった。


 それも気に食わない。


 二人の仲は昔から悪い。


 考えも違えばやり方も違う。好戦的な彼に対して保守的な銀翔。


 そして、片方は一方的に敵対視し憎んでいる。


 権力として隊長の方が権限を全部持っている。


 それが心底気に食わない。


 そして、特異点という最悪の元凶をほっとくような対応も気に食わない。


 その元凶が今日活躍をしていることも尚更気に食わない。


 彼の鬱憤は日ごとに溜まっていき、


 そして――


 今日、この日、爆発を迎えようとしていた。


 不幸にもそんな彼の目に入ってしまった。


「美咲ちゃん、勘違いしてるから!! 俺にそういう趣味はないから!!」

「けど……体の友で裸の付き合いだって……」

「それだと、強もお仲間だからね!!」

「類友ですし……しょうがないかと……」


 男と話している格好の獲物が――男はその獲物が特異点が大事にしている妹だと知っている。口角が僅かに緩む。獲物を前に舌なめずりしてから意識を落ち着かせる。

 

 ——これは……あれか?


 そして、思考は発展した――。


 ——神からのお告げか?


 コイツを餌に呼び出せば特異点も黙っていられないはず――この女は現状を変える爆弾の火種になると。大義名分が整う。危険な特異点という存在を殺傷する大義が。


 くだらない魔物と戦争を続けるより、


 原因を殺せばいい。


 それが一番の近道だ。


 ——いいだろう……もう。


 男は狂気の笑みを浮かべその獲物に近づいていく。


 ——コイツで……。


 そして、狂気を胸の内に秘めて獲物へと、


 背後から手を伸ばした――


 しかし、


「オイ、アンタ何やってんだ?」


 その手が届くことはなかった。その腕は途中で阻まれた。


 一人の男によって。少女の傍らに立っていた男はコチラに意識を向けている。


「薄汚ねぇ手で何しようとしてやがる……ッ」


 その男は不思議な能力を持つからこそわかる。


 その悪意を、その憎悪を、その企みを。


 分かるからこそ、腕を握る手は次第に力を強めてきつく締め上げていく。


「このはな――」


 脅威から遮るように少女の前に立つ。


 触って火神の思惑を理解し怒りの目で睨らみつけて、


「お前が簡単に触れていいじゃねぇんだよッ!!」


 威圧するように言い放ち、少女を護るように男は迎え撃つ。



 

◆ ◆ ◆ ◆




 とんでもねぇこと考えてやがるコイツ――


 美咲ちゃんに何しようとしてんだ!!


「イヤイヤ、そんなに怖い顔しなくてもいいっしょ」


 グラサンの男は腕を俺に強く掴まれながらも、うすぎたねぇ笑みを浮かべてしゃべりかけてきた。考えていることと笑顔の不一致がヒデェ。彼女に顔を向けて俺を気にせず平然と話しかけている態度が気に食わねぇ。


「彼氏さん、俺はその子の両親にちょっと頼まれちゃったんだよ」


 何を言ってやがる……ッ!


「重要な言伝を預かってくれって。涼宮美咲ちゃんでしょ、キミ?」


 当然のように名前を呼ばれたことに


「ハ……イ」


 彼女は戸惑いながらも返事を返してしまった。


 この状況は想定していなかった。これは俺の失態だ。


 俺が仕事で作ったレポートによる情報が引き起こしたものだ。


 俺は腕を掴み続け威圧を続けるが口元を緩めてヘラヘラしてやがる。


「いい加減離してよ、彼氏さん?」


 とんでもねぇ嘘をつきやがる――離せるわけもねぇ。


 俺は確かに見た。能力が見せたコイツのビジョンを。


 そこには体にいくつもの痣と火傷の痕を負って泣いている美咲ちゃんの姿。


 そして――燃やされるの姿がハッキリと映った。


 あと、胸糞悪い笑みを浮かべコイツが高笑いしている姿も――。


 俺に腕を掴まれながらも胡散臭い笑みを浮かべ、


「美咲ちゃん、安心してよ」


 美咲ちゃんに優しく声を掛け続けている。


「晴夫さんとちゃんと知り合いだからさ」

「……ハ……イ」


 俺の雰囲気に気づいているのか美咲ちゃんはどこか脅えている。


 俺は触れている手から情報を読み取っていく――どうやら、銀翔さんから指示もでてねぇみたいだ。


 美咲ちゃんを狙うだけでなく、


「知り合いっていうのは嘘じゃねぇけど言伝なんて預かってねぇだろう」


 俺の恩人にも迷惑をかけるこいつが俺は許せねぇ! いくらNo.2といえどもだッ!! 


「嘘つくのも大概にしろよ――」


 俺は読み取った情報の一部を開示していく。


火神恭弥かがみ きょうや


 俺のたった一言でやつの、


「なんで……俺の名前知ってんだ、お前?」


 火神の薄気味悪い笑みは消えた。


「えっ――?」


 彼女は頭がいい。俺の能力のことを加味して俺が言ったことで悟っただろうことはわかる。問題はこいつだ。一刻も早く美咲ちゃんから引き離さねぇと。


 俺は腕を引き――相手の体を引き寄せそいつに軽く耳打ちをする。


「銀翔さんから指示でてねぇだろう。ブラックユーモラスNo.2」

「お前!?」


 俺の言葉に火神は驚いた表情を見せた。まぁ当たり前だ。これだけ情報を与えれば。ブラックユーモラスの内部構成は秘匿になっている。立場が知れることなどまずない。それが一介の学生が語れば尚更だ。


 それに、これを出されて態度を改めなきゃホンモンのバカだ。


「櫻井……先輩……」


 心配そうに声を上げる彼女に俺は笑顔を作り


「大丈夫……ちょっとこの人と話しをしてくるよ」


 伝えて視線を敵に戻す。相手も美咲ちゃんから俺に標的を変えたらしい。


 そのサングラスの下から鋭い目付きがうっすらと伺える。


 ここまでコケにされたのが、計画の邪魔をされたのが、


 気に食わないらしい様子。


 願ったり叶ったりだ――。


「少しお付き合い願えますか。火神さん?」

「…………わかった」


 静かにヤツは態度を変える。先程までの見繕ったような態度ではなく、ただただ俺に顔を向けている。わずかに殺気が漏れ出ている。空気がひりつく感覚でわかる。


 どうやら、俺はコイツのる気スイッチを入れてしまったみたいだ。


「行きましょうか――」

 

 俺は彼女を一人残し、何も言わず着いてくる火神と外を目指した。



◆ ◆ ◆ ◆




 遠ざかる二人の背中。


 不安しかない。いつもヘラヘラしている先輩の顔つきが普段からは想像できないほど険しくて嫌な予感しかしない。相手の人も只者ではなさそうだった。


 ……私の名前を知っているあの人は……どうにも嫌な感じが拭えない。


「先輩が最後に見せたアレはきっと……」


 私を不安にさせないための笑みだ。先輩は私の為に巻き込まれて。


「どうにかしなきゃ!」


 私は不安を胸に助けを求めに走り出す。




◆ ◆ ◆ ◆



「お前、何もんだ?」


 俺が会場を抜けて外に出ると火神がキャラを戻し話しかけてきた。


「俺を知っていて邪魔するってことは、燃やされる覚悟ができてるつぅことだよなぁああ!!」


 さっきの三年とは違い確実な殺気がある。それでも威圧するような声を出そうが、そんなもの俺に効くわけがない。俺はただ冷静に状況を考える。


「火神さんはココでやるのはまずいでしょ」


 そして、冷静に返す。


「もっと広い場所にいきましょう」


 とりあえず、コイツを美咲ちゃんから遠ざけるのが第一だ。


 そして、俺も仕事上あまり表だって動けない。


 人目につかずに適度に離れた場所を俺は考える。


 ――ここからほどよく離れて人気ひとけがないところっていったら、


 俺は目的地を見定め遠く見る。


 ――あそこらへんか。


 俺は闘技会場となっている建物から離れている駒沢公園内のある場所に視線を向けていた。今日は大晦日でおまけに学園対抗戦の最中。雪も降っている。


 その条件下で最適な場所はどこか。




 ――『野球場』――




 この条件で野球やるバカもいないだろう。あそこなら人もいないはずだ。


 それとコイツの能力――


「野球場に移動しましょうか?」


 俺は自然に戦闘場所を提示する。


「お前……さっきからなに余裕な面してんだ。気に食わねぇ……」


 余裕があるように見せているだけだ。


 さすがにお前相手に余裕があるほど俺は強くない。


 それに戦闘はもう始まっている。


「気に食わねぇな! 俺を知ったうえでその態度を取るのが気に食わねぇ! テメェ何もんだ!?」

「俺は普通の学生ですよ、バカ神さん」


 俺は野球場に向かって走り出す。火神と戦うことは決心していた。


「走って行きますんで、ついて来て下さい」


 バトル好きなコイツと二人きりになるっていうのは、


「死にてぇらしいな……テメェは!!」


 それを元より覚悟の上だ―—殺し合いになる可能性があるということを。



≪つづく≫

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