2.デットエンドじゃない、アイツはナニカです!
第4話 異変が起きてます?
東京都新宿都庁。
「以上のことから、今のところ
そこの小さな会議室では黒い戦闘服の男たち三名により報告会が行われていた。
銀髪の男がピエロのレポートを片手に二名に説明をする。
「引き続き監視及び観測を続けていく。何か疑問があれば答えるが、」
ガラの悪いサングラスをした男。サングラスが透けて目つきが悪いのがうっすらと伺える。ガムを膨らませながら机に脚を交差させ、質疑を投げかける。
「で、そいつをいつ
「それについてはまだ判断すべきではない」
悪態を付くその様子にも動じずに銀髪は落ち着いた様子で返す。
「いずれ脅威になるかもしれないなら、」
それをケラケラ嘲笑うようにガラの悪い男は返す。
「可能性の芽をつんじゃうっつうのはアリなんじゃな~い? それに最近また魔物の発生件数も増えてる。ソイツが原因で間違いないっしょ」
楽し気に話すチンピラに銀髪の男は冷静を貫き答えを返した。
「決定権は私にある。時期を決めるのも私だ」
態度を一変させ苛立つサングラスの男の横で、
「チッ!」
剣豪を模した風貌の日本刀を抱いた男は銀髪に賛同するように静かに頷く。
「話しになんねぇなー、いい子ちゃん過ぎてよッ!」
会議室の扉を激しく蹴り飛ばして、チンピラは苛立ちの色を如実に表し会議室を後にした。彼が去った後の会議室でカラカラと回り続ける椅子の音だけが残っていた。
その状況に思わず銀髪の男はため息を漏らしレポートに目を戻す。
そのレポートに写る顔写真の『男』にはある異変が起きていた――
◆ ◆ ◆ ◆
今日から二学期開始です。
いつものように
いつものように学校への準備を済ませ、
「さてと、今日の朝食っと……」
エプロンに袖を通して朝食の準備に取り掛かります。最近は電子レンジも比較的進んでおり大抵の調理はこれひとつで
電子レンジは誠に便利な文明の利器です!
「卵を割って、生地に乗せてと」
今日の朝食はベーコンエネディクトに挑戦しようと思います。
以前行ったスタオバックスの作品を参考に味付けを思い出し、
冷蔵庫からマヨネーズなどの調味料と取りました。
「これをレンジに入れてオーブン機能で……2分っと」
パンをオーブン機能で焼きながら、コーヒーを飲んで待っていると制服姿の兄が階段を降りて来る音が聞こえました。父の整髪料を使ったのか寝ぐせではなく髪型も整えられています。
「おはよう、美咲」
いつも通り、この日は
「おはよう、お兄ちゃん。もうすぐ朝食できるからね」
「そっか。いつもありがとうね、美咲」
兄にコーヒーを出すとテーブルの上に置いた新聞を取り、
空いた片手でコーヒーを口に入れています。
「そーか、いまは日経平均がこんなに下がっているのか……」
情報に目を通して何度か頷いています。
「
何やら新聞の内容に食いついてるようです。
「
「へーそうなんだね♪ 良くわかんないけど」
片目をウィンクし優しい笑みを私にくれます。
「美咲には、まだ早かったかな♪」
レンジが終了の音をつげたので私は食卓に朝食を用意します。
「焼けた―、焼けた―」
「何か手伝おうか?」
爽やかな朝の始まりです。
「大丈夫だよ~、座ってて」
兄は私の朝食をおいしそうに口に入れ、合間にコーヒーを流し込みながら
「まったく……お金の為に暴力を振るなんて。浅ましき行いだ」
「本当にそうだね……」
「暴力はいけないよ。絶対に暴力だけは」
「暴力反対~!」
私がひょうきんに返すと「だね」と笑顔で返す兄にそれより上の笑顔で私は「うん♪」と返した。
理想の家庭です。爽やかで聡明な兄との朝食は誠に有意義です。
終始笑顔の楽しい朝食も終わり、
学校への支度をいつもより10分も早く済ませ、玄関を開ける。
「おはよう、強ちゃん♪」
すると、理想のおねいちゃんが私を出迎えてくれます。
兄もソレに笑顔で答える。
「おはよう、玉藻。昨日は色々教えてくれてありがとうな。おかげでいつも通り頭がクリアだよ」
「どういたしまして」
私が兄との会話の隙を狙って挨拶すると
「おはよう、玉藻ちゃん」
「美咲ちゃん、おはよう。強ちゃんはいつも通りだね♪」
おねいちゃんは満面の笑みで返して来ました。
「ですね♪」
それに私も満面の笑みで返す。
笑顔で答えてくれる優しいおねいちゃん。すらっとした体型に温かみのあるふくよかさ。しまるところはしまっていて、出てるところは出ている体つき。存在そのものが癒し系というものを体現している自慢のご近所のおねいさんです。
理想の二人に囲まれ私の素晴らしい朝が始まった。
今日は三人横に並んでおしゃべりをしながら学校に登校しました。
今日という日はいつもこうです。
「強ちゃん。二学期の目標は?」
「そうだな。学園祭とか体育祭とかあるから一番になることかな」
「お兄ちゃんやる気だね!」
「ハッハッハッ!」
兄はダンディに笑いました。マカダミアキャッツでは秋から冬にかけて学園はイベントで目白押しです。学級員でもある私もそれなりに忙しくなりそうです。体育祭に文化祭、おまけに関東エリート校であるが故に年末の大きなイベントも控えてます。
「おはよう。3人とも――」
学校の校門につくと顔がところどころ腫れあがり、
イボガエルの皮膚のような、パンパンの男が話しかけてきました。
私の理想の朝に紛れ込んだイボ蛙。
一体……どちらさまですか?
◆ ◆ ◆ ◆
「おはよう。3人とも――」
イボガエルの肌を顔面に移植したような男が私達に話しかけてきた。私はとっさに記憶を探るがこの顔を見知っている記憶がない。そもそもこんなイボと共存する顔面など呪いの類でも受けたに違いない。どこかに治癒が出来る病院はなかったのだろうか。
「どちら様ですか?」
すると玉藻が首を傾げながら口を先に開いた。
玉藻が顔を覚えてないということは不審者の可能性が高い。
これだけで私達の知人でないことは確かだ。
それに玉藻が近くにいると何かと不審な人物が現れたりすることもある。玉藻の知能レベルは国家財産にあたるほど優秀であり、
おまけに総理大臣の孫娘でもある。
私が一緒に過ごせるのがもったいないくらいの女性だ。
誘拐の類も警戒しなければ。
「不審者ですね。警察に突き出します。おとなしくしていてください」
このかけがえのない人と妹を守るために私は二人の前に出て、
「アイタタタタ!」
その不審な男の腕を取り逆関節を決める。多少の護身術程度なら心得ている。
「ちょ、ちょっと、俺だ、オレ! 櫻井だよ、類友の!!」
必死に偽名なのか分からない名前を叫ぶ男に、
「「「櫻……井?」」」
私たち3人は疑問符をつけてお返しする。
誰だ、櫻井という人物は……私の知り合いに櫻井という人物はいない。デタラメな名前にしてももっと鈴木や佐藤などのメジャーどころをつくべきだ。
知能も低いということは危険な香りしかしない。
何をしでかすかわからない輩だ。一見マカダミアの制服を着ているからと油断を誘う手口かもしれない。いかがわしいお店や謎のオンラインショップなどで手に入れた代物の可能性もある。
なにより、そういうことをしでかしそうな顔だ。
顔面に呪いを受けている時点で怪しすぎる。
もしかしたら、本人確認できないように光明にやった可能性もあるだろう。
「どこの櫻井か知らないが、これから警察に連れていく」
やはり不審者かと思った瞬間、
「この前はごめんね、櫻井君!」
……どういうことだ?
玉藻が慌ててその人物に謝りだした。
「デットエンドだと思って、間違えて……攻撃しちゃってごめんなさい!!」
「櫻井さん、すみませんでした!」
慌てて深々90度に頭を下げる玉藻。そしておなじように美咲も謝っている。これは何か間違えたのかもしれない。これは私だけが知らないだけということなのか。
二人の状況変化に私も関節技をとくほかない。
「無礼を働いた、スマン」
「本当だ……この無礼者めッ……」
無礼者……確かに申し訳ないことをしてしまった。
嫌悪の視線と唾を吐き捨てる仕草で怒りを露わにしている。誠に申し訳ない、イボの
「イボの人……ぷっ」
笑いそうになってしまった。
笑ってはいけないと私は堪えながらその不機嫌そうな顔の男を眺めた。
――それにしても、誰なんだろ……?
私の中で終始疑問が解決しない。存在自体がわからない。玉藻と美咲だけの知人なのだろうか。いつも三人でいるのにそんなことがあり得るのだろうか。
男は美咲に近づきコソコソと耳打ちをしている。
「強の誤解は解けてる?」
「兄は大丈夫です……なんというか私のせいでごめんなさい……」
「まぁいいんだけど、アイツ関節極めてくるあたりまだ怒ってるの?」
「いいえ、あれは怒ってるわけじゃなくて、忘れているんです」
私の耳は地獄耳なので
私の下の名前を呼ぶこの人物は一体……
何か私は誤解をしているらしい。どういうことだ、櫻井さん?
盗み聞きをしているのでいきなり話しかけるのも失礼か。
頃合いを見て彼に聞いてみよう。
だが美咲からこの男に対する抵抗感を感じない。
きっと悪い人ではないのだろう。
「櫻井くん、ちょっと待ってね――」
玉藻が両手をイボにかざすと櫻井さんの顔が白い光に包まれた。
「キュア!」
どうやら回復魔法を発動しているようだ。みるみる顔のイボが無くなっていく。こぶとりのように凸凹の地形が平らになっていく。更地のような肌。
整った顔の男性がそこに姿を現した。
さらに意味不明な男が目の前に出現し、私はさらに混乱した。
「サンキュー、鈴木さん♪」
「せめてもの謝罪だよ、ごめんなさい!」
「いいよー、いいよ。誤解もとけたみたいだし」
本当に誰だ? 彼は?
「じゃあ、行こうか~!」
疑問を遮るように玉藻の声を元に皆歩き始めた。仕方なく私も歩幅を合わせてついて行く。櫻井という男からは普通じゃない男の気配を感じた。
何か立ち振る舞いが尋常じゃない――
整った顔立ちしているのに、
とても言い難いが何か、
薄汚いドブの様なヒドイ気配を醸し出している……。
私は教室につくと、
「みなさま、おはようございます」
一礼をし、いつも通り朝の挨拶をする。
「今日も一日よろしくお願いいたします」
深く頭を下げる。一日の始まりの挨拶は重要だ。
これから一緒に勉学に勤しむ学友たちとは良き関係を築きたい。ならば、やはりコミュニケーションを取る最良の一手として挨拶からだろう。これぐらい出来なければ社会では生きてくことも出来ない。
ただ、私は正しく在れればそれでいいのだ。
「強、……いったい」
体を起こし歩き始めたときに肩を掴まれ止められた。
「全体どうした?」
とても困惑した表情をしている謎の櫻井さん。
「いつも通りですよ」
「何かが違うぞ……イヤ、何もかもが違う」
なぜか彼は首をブルブル振って不思議そうな目で私を見ている。けど構っている時間もあまりない。早めに家を出たが彼とのやりとりで大分時間を取られてしまっているから。
「櫻井君、私は取り急ぎホームルーム前に時間割へ合わせた整理整頓をしたいから手を離してくれないか?」
櫻井という男は不思議そうな顔で私を見送った。
「……すまん」
離れながらもついつい彼と言う存在が気になってしょうがない。
親し気に接してくる美顔の男は私と友人だったのだろうか。何かが胸につかえていたが振り切るように、朝の朝礼前に今日のやることを頭で整理したいため、私は鞄から教科書や夏休みの宿題を出し時間割通りに揃える。
≪つづく≫
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