1.デットエンドに対しても犯人は現場で嘘をつく。現行犯であろうが嘘をつく

第1話 夏休みが地獄の夏日に

 俺は普通になりたい。


 どうにーか、こうにーか、して普通になりたい。


 なんでも、どうしてでも、

 なんやかんやしてでも普通になりたい。

 

 だって、普通が一番楽なのだから――。


 普通がありふれているとかいう奴に言いたい。


 普通ってコンビニに売ってますか。普通ってスーパーに置いてありますか。普通ってどこで手に入りますか。薬草ぐらいの感覚で異世界の道具屋に置いてありますか。


 普通って山手線ぐらいの感覚で人生に登場します?


 俺はかれこれ十年以上、人生で普通を待っているが停車してくれない。


 俺の中には普通が存在しない。俺の人生には普通が存在しない。


 俺の人生のダイヤに普通がいない?


 それとも普通電車が止まらない駅みたいな人生なのだろうか? 


 普通の人になりたいのに、俺は……


 なんで俺は普通じゃないんだろう?


 プリーズ ノーマルライフ。







「オゥ シット イズ ゴッド……」


 2016年8月30日――


 俺はいつものように布団に身を預け生を謳歌おうかしていた。


 やはり休みというのは生きる渇望である。これこそ生命の泉。


 体を癒し心を癒し堕落を育む。休みを馬鹿にするやつは過労で死ね。


「ぷぁああ~」


 布団失くしてこの世界に存在意義はなかったろう。


 あぁ、幸せ。


 時はまだ夏休みである。俺は残り少ない休暇をここぞとばかりに満喫する。


 セミの鳴き声も静まってきたし、美咲ちゃんも起こしに来ない。


 ストレスフリー。


 さすがの美咲ちゃんもたまには寝坊しているのかも。


 美咲ちゃんとは俺の最愛の妹である。


 前に説明したが、背が低い黒髪ショートカット貧乳。おまけに超絶かわいい。


 そして、俺は普通に憧れるハイパーイケメン(自称)高校2年生。




 ――涼宮すずみやきょうである。




 夏と堕落が世界一似合う男。


 それが俺、涼宮強。


 布団の上からクーラーがいい感じに俺の体温を調整する。


 ——あぁ、涼しくて温っかい………天国や………………。


 調整すら、自動風量・自動温度で機械任せにできるこの世界。夢の世界。


 そうして、俺はゴロゴロゴロゴロしていた。


 あのチャイムの音が聞こえるまでは――


「チッ――誰だ?」


 眠りを妨げるように家の呼び鈴が何度もけたたましくなり始めた。


 天使のような妹美咲ちゃんも寝坊しているのだから、しょうがない。


 たまには兄として働くかと重い腰を上げる。


「アー、あちぃ……」


 けして、体重が重いわけではない。スマートである(自称)。


 俺はめんどくさそうに2階の自室から階段をえっちらほっちら降りる。クーラーがないフロアは夏の気温そのままだ。蒸し蒸しとして意識が朦朧としてくる。それのせいでイラつきすら覚える。


「このくそ忙しい時に……」


 やっと到着した俺は玄関のドアを静かに開けて


「どちら様ですか?」


 隙間すきまから眠りを妨げた相手へ悪態をぶつける。


「強ちゃん♪ おはよう♪」


 満面の笑顔の女。青がかった黒髪腰までロング推定Eカップ巨乳の幻影が見え、


 気の抜けた声の幻聴が聞こえる。


 ――おれ、夏の暑さで疲れてるんだな……。


「ふむふむ……うーむ」


 目元を指先で抑え霞んだ目の復活をはかる。耳糞をほじくり聴力の回復をはかる。そして自己問答して頷きを繰り返し現実を見つめ。自分を落ち着かせる。


 俺は何も見なかった。何も聞こえなかった。扉の前には誰もいなかった。


 確認OK! よし扉を閉めよう!!


「強ちゃん! なんで閉めるのッ!?」


 扉を閉めようとしたが、すんでのところで慌てた声の主の足が入ってきた。


 真夏の幻影が実体化しやがった。


 これは心霊現象の一種でポルターガイスト的な何かだろうか?


 まぁわかっている。前にいるのは実体だったか。


 実体であれば不法侵入。


「今は……お前と話す気分じゃない……」


 俺はコイツをおんぶして一緒に帰ったことを思い出す。ちょっと夏休み中に色々ありすぎて説明がメンドイので割愛する。知りたければ一章を読むと宜しい。そこに書いている。


 いきなり二章から読むとか意味わかんないからッ!


 それは置いといて――


 甘苦い思い出が走馬燈そうまとうのように駆け巡り、


 体が、細胞が、拒否反応を示して扉を閉めるにいたったわけだ。


 要はいま玉藻と話す気分ではないということ。


「…………」

「なに!?」


 無言のまま足先で侵入している幼馴染の足を外に押しやる。これは相手の為でもある。不法侵入は犯罪だから。俺が警察を呼べば玉藻が前科一犯になってしまうのだから。

 

 貴方の為だから……。


「強ちゃん……うぅううん」


 しかし、相手も負けじとつま先を侵入させ続ける。


 だが所詮女子の力。男には到底及ばん。


 無事に外へと足を排除し扉を閉めようとしたら、


「強ちゃん……ッ!」


 ガン!と手が侵入して戸を力強く握りしめた。


 不法侵入パートツー


 あの手この手で人の家に上がり込もうとしてくる。何というしつこさだろうか。もはや強盗の類だ。おまけに力を入れ過ぎているのか顔がコワイ。髪が乱れ悪霊のような顔になっている。


 こんなコワイ女を家にあげたくないのはやまやまだが……

 

 このまま閉めたら……手を挟んで痛そうだ……


 約束もなく押し掛けた上に法を無視した過激で強引なやり方に仕方なく諦め、


玉藻たまも、いったいなんの用だ?」


 扉を開けてバカ巨乳へため息まじりに問う。馬鹿は一呼吸深く吸い込んで髪を直してから、晴れの日みたいなにこやかな笑顔を浮かべた。


「強ちゃん、今日は何の日でしょーか!」


 いつものようにニヤけた面で俺に禅問答を仕掛けてきやがる。


 それに質問に質問で返してくるとは。最低な行為。質問に質問だったら答えとか出ないじゃん。質問が質問で返って、また質問に質問をぶつけて行ったり来たりだよ。


「ちくたく、ちくたく♪」

「………………」


 いつの間にかクイズに時間制限が導入されている。おまけにアナログもアナログの方法だ。時計じゃなくて自分の口でいうのかよ。ふざけたことをされているが説得が効くわけもない幼馴染にしょうがなく、


「はぁ……」


 俺は真摯しんしに向き合うことにした。

 

 こいつの誕生日は12月25日。今日は違う。


 俺の誕生日も7月7日違う。美咲みさきちゃんの誕生日は5月5日違う。


 ということは、だ――


 俺は結論を導き出す。


「なんの日でもない」

「ぶぅぶー」


 口を尖らせデカいトートバックを持った幼馴染があざとい。


 なんだ、その子豚のような効果音は?


 間違っているみたいだ。俺は頭かきながら答える。


「じゃあ普通の平日だ。終わり、正解」


 これが正解だろうと俺が布団に戻ろうと後ろを向いて帰ろうとしたら、


「待ってぇ~!」


 寝巻ねまきすそを掴まれ動きを止めらた。


「……なんだよ?」


 メンドクサイので頭だけ振り返り、人のパジャマを拷問する意味を問いただす。


「ぶぅぶー。正解は夏休み終了二日前です!」


 二日前……ッ!?


「えっ!?」

「恒例行事だよ♪」


 驚愕の答えを聞き俺の体がどっと嫌な汗を噴き出す。なぜ玉藻が家に押しかけてきたのかがわかってしまった。もう夏休みが二日しかなくなっとる。


 俺は一体何をやってたんだ。


 そもそも一章の時にどこまで日が経っていたんだ! 


 そんなことよりもまずい、この日だけはまずい!


 最高の休暇がいきなり地獄の真夏日に!?


「待ってたよ、玉藻おねいちゃん♪」

「うん♪」

「なんだと!?」


 俺を間に女子二人がリズムを合わせたような軽快なやりとり。連携に隙が無い。インターセプトする瞬間すらなかった。華麗なワンツーパスで俺を翻弄する。慌てて後ろを振り返るとリビングから美咲ちゃん、ニヤニヤしてこっちを見ている!?


 寝坊してたはずなのでは!?


 美咲ちゃんが満面の笑みで俺への死刑宣告を告げる準備が整ったようだ。


「お兄ちゃんはこれから夏合宿だよ♪」


 俺はその場に膝から崩れ落ち両手で頭を抱え、いつも通り呟いた。






「オーマイガアァアアアアアアアアアア!!」






 場所を俺の部屋に移し、住人一人と不法侵入した女が一人の計二名が立ち並ぶ。


 俺の部屋は洋室で丸い机が一つ。布団もある。俺はいつもベットを日本語に直して布団と呼んでいる。異議があるヤツがいるなら申し出て欲しい。家庭裁判所で決着をつけよう。


 俺が言論封殺を謀るアメリカかぶれ野郎として裁きを下してあげちゃうから、そこんとこよろしく!


「はい、強ちゃん」


 机には麦茶と弁当箱が置かれた。これはランチタイムかな?と思い俺は弁当箱の蓋を開く。弁当箱は各種鮮やかな色とデザインが施されており、中にはご飯にゴマ塩がいっぱい振りかけてあった。


 むしろ、それしか中身がない。


 わぁー質素な感じ♪


 パラパラめくれる弁当箱――


 またの名を教科書と呼ぶ。


「もう、おなか一杯です。ごちそうさまでした」


 ひと通り捲り終わり、満足した気持ちを軽くお辞儀をしながら伝えた。


「さぁ、強ちゃん夏休みの宿題一緒にやろう♪」


 笑顔の幼馴染が……怖い。だがそれでも俺は負けずにふざけた声を返す。


「しゅくだい、なにそれ? 初めて聞く単語だな。何か略されているのかな。しゅくだい……宿代しゅくだいか!? おう、不法侵入のくせに宿代を払うとはいい心がけだな! おいてけおいてけ、一泊2万3千円だい!!」

「ハイ、じゃあ数学からね」


 俺の商人あきんどのような渾身の言葉は空を切る。空振り三振だ。いい球を投げてもバッターが見逃してきやがる。いつも通り無視し勘違いするこの幼馴染は。


 だから、バカというんだ……。


 そいつは俺の隣に座って長い髪を手ぐしでかき揚げ耳を出して、教科書を開き始める。俺の教科書を。不法侵入の上に俺の物まで勝手に使いだす始末。手に負えん。


 そして俺に至近距離で横目を合わせて、


「はい、じゃあこの問題からね」


 優しく微笑む。


「……」

「強ちゃん?」

「これはきっと1だ。大体、数学の問題は1か2と相場が決まっている」

「そんな当てずっぽうはダメです、許しません!!」


 普段あまり怒らない幼馴染に怒られた……。


 これが恒例行事となっている、夏休み宿題合宿。


 主に俺だけ宿題をやらされるスパルタ合宿。


 過程を飛ばして結論を導き出す俺には苦行だ。


 しかし、玉藻は手を一切抜かない。


 勉学大好き玉藻さんは教えるのも大好きなのだ。特に俺に対しての過保護プリと来たら手に負えない代物。触らぬ神に祟りなしで逃げたいが俺を逃がしはしないのがこの女である。


 状況は一転してストレスフリーからストレスがたまる一方。


 苦悶の表情を浮かべる俺に、


「お兄ちゃん……去年は宿題どうしたの?」


 腕を組み立っている妹が心配そうに尋ねてきた。


享年きょうねんはわかりません。まだ生きています、お兄ちゃんは」

「……やらなかったんだ」


 妹の軽蔑するような視線が兄にグサッと突き刺さった。


 そんな目で兄を見ないで今すぐに享年を今迎えそうだよ。


 やらなかったんじゃない、できなかったんだ。去年ひとりぼっちだったから。いや、櫻井というやつの話を聞くのに忙しかったのもあったが……ヤル気が出なくて夏休み過ぎても登校しなかったとかもあったが……。


「強ちゃんは放って置くととどこまでも堕落しちゃうから」


 見抜かれてますね?


「しっかり、今年はやらないとね」


 笑顔が怖い幼馴染が俺にはいる。


「強ちゃんの為だからね」

「………………」


 背筋が寒くなるよう満面の笑み。俺が翻訳すると『今日は寝かさないぞ♪』と聞こえている。けして、エロい意味のものではない。女子高生だからと言っても甘いものではない。


 玉藻は無邪気で無鉄砲。一度やると決めたら押し通す性格である。


 逃げようとしても逃げきれない。


 ガチのマジで宿題だけをやらせてくる。


 終わるまで睡眠がとれずお布団とはお別れである。


 あぁー愛しい人よ、さらばなり。また来て好日こうじつ


 櫻井の言った通りだった。貴方の為とかいう側はコチラの都合など一切考えてなどいないのだ。自己満足の塊のような言葉である。悪意ある言葉に登録するべきである。


 詐欺罪に近いのでは?

 

「さぁ、強ちゃん。やるよ!」


 ヤル気満々の馬鹿に俺はあきらめて、


「わぁーてるよ」

「頑張ろう、強ちゃん!」


 数学の教科書とにらめっこをし始めた。その様子に妹は安心して、


「じゃあお兄ちゃん、頑張ってね♪」


 これだけは……頑張れそうもないです兄は……ううぅうう。


 心の中で泣く俺を残して部屋を立ち去って行った。


 残された俺は頑張って教科書を威嚇するように睨みつける。ひたすら問題を右に左に目を動かして、一行を反復し読み直す。問題を読み込み頭に理解させようとするが何ひとつ分からない。


「強ちゃん、手が止まってるよ!」

「いま問題読んでるところでしょうがぁー!!」


 理不尽な幼馴染に田中邦衛ばりに言い返す。


 問題読んでのに手なんか動くか! そんなマルチタスクがこの俺に出来ると思うなよ! 俺をなめるなッ!! 堕落の強ちゃんだぞっ!


「強ちゃん、ホラまだ宿題こんなにいっぱい残ってるんだから」

 

 まだいっぱいというか丸々全教科残っている。一切手など付けていない。休みって何よと問いたくなる。休みなのに休めない休みとか気が休まらないじゃん。


「ペース上げないと!!」


 目の前にある宿題の膨大な量と幼馴染からの叱咤が俺のやる気をごっそり削いでいく。


 これ以上はメンタルがキツイ。試してみるか。


 毎年この質問は断られるがダメもとで投げかけてみるか。


「宿題を――」


 奇跡は起こる物じゃなくて、起こすものだから!




「写させてください!」



「ダメですぅ!」





 可愛く口元で指をクロスしミッフィーちゃんを作る幼馴染。


 バッテンである。だめってことなのね……ダメもとで聞いて、ダメな時ほど精神的苦痛が大きい。それは期待をしているから。


 奇跡を願う代償は意外と大きい。


 叶いやしないくせに。


 精神的苦痛を抱えた気持ちそのままに教科書とにらめっこを続ける。ちんぷんかんぷん。ちんぷんかんぷん。という素敵な擬音ぎおんが俺の心の中でこだます。


 ちんぷんかんぷん♪


 ちんぷんかんぷん♪ ちんぷんかんぷん♪


 なんか楽しくなってきぞ♪


「いいよー強ちゃん♪ その調子!」


 楽しそうにする俺に幼馴染のテンションも若干上がった。抜群の効果だ!!





 ―三分後―





 ちぷかぷん……ちぷかぷん……


 深い海に沈みゆくような音に変わる。すぐに飽きてくる。一時しのぎである。俺は教科書を真剣に見るフリをしながら、真剣にこの状況を打開する策を巡らせる。どうすれば、このくそつまらない状況を打破できる……突破口が欲しい。


 こんな時!?


 はっと閃いた。


「あいつも呼ぼうぜ、櫻井さくらいも!!」


 ――俺をかつて補修から救ってくれた、ピエロマン!


 いつも俺のピンチを救ってくれるお助けマンの存在が頭に浮かんだのだ。


「櫻井くん? いいけど……強ちゃんにも夏休み遊べる友達ができたんだね。よかったね……ぐすん」


 なぜ涙ぐんでいるの? この幼馴染は? まぁ、いいか。


 俺は立ち上がり携帯で櫻井に連絡を取ることにした。


「櫻井、今すぐ俺の家来いよ。待ってるから」

『いきなり言われても困――』


 用件は簡潔に迅速に。


「じゃあな。すぐこいよ!! ダッシュでな!」

『ちょっ、おまっ――!!』


 ポチっとボタンを押してポケットに携帯をしまった。通話終了。


 俺って意外と仕事が出来る男だから。三秒で電話を切った。


 これで俺のやる気は少し上がり、櫻井を待ちながらまた教科書をにらみつけた。



「強ちゃん、ファイト!」



◆ ◆ ◆ ◆




 お兄ちゃんが玉藻ちゃんに勉強を教わっている間に私はリビングで洗濯物を畳んでいました。兄とは違い私はもう宿題は全部済ませてあります。優等生なのでそこらへんは抜かりないです。


 計画的に自主的にやるのが勉強のコツです。


 それを試されるのが夏休み。宿題を終えてからの休みは心に余裕もあり、そこからがホントの休暇です。宿題は早めに終わらせるに限ります!


 ただ、うちの兄と来たらいつも何もしない。


 聞いてもやらない。言ってもやらない。まだ夏休みがあるからと。


 だからこそ、いつも夏休み終了二日前に兄の尻を叩いてくれる玉藻おねいちゃんには大感謝です。


 さすがに学年が違う兄の勉強の面倒までは、私では見切れないので大助かりです。おねいちゃんがいなければ中学校も卒業できたか怪しいくらいだから。


 それに玉藻ちゃんも役得と感じてるようで喜びいっぱいの連絡を送ってきます。


『二日前だから、強ちゃん家に泊まりにいくね(=゚ω゚)ノ♪』


 あんな兄とでも一緒に居られるのが本当に嬉しいようです。


 本当にお熱いことです。


「んっ……なんだろう?」


 二人の関係にほのぼのしていると玄関のチャイムが鳴ったので、


 扉を開けに行きました。


「こんちわー」

「櫻井さん!」


 ビックリしたです。なぜピエロ先輩が私のお家に……。


「いや、強に至急来いって呼び出されてさ。アイツすぐ電話切るから何かあったのかと思って……」


 ――心を読まれた!?


 動揺を隠しながら私は兄の状況をピエロに語りました。


「兄なら……いま自室で玉藻ちゃんと一緒に勉強中ですが……」

「二階か……」

「――っ!?」


 なんでうちの家の構造を知っているのですか!?


 兄の部屋が二階なんて一言も言ってないのに!!


 前から怪しさをかもし出す謎多き先輩を細目で見つめました。


 この時、私は先輩が家に上がったことがあるのを知らなかった。


 そもそも兄が友達を家に呼んだことがないのだから予想もつかないのはしょうがないこと。あの兄なんです。友達なんて連れてきたことがないのです。


 小学校から友達が一人もいないのがデフォルトなボッチのヤツ。


「とりあえず、強の部屋にお邪魔するよ」

「……どうぞ」


 ピエロを仕方なくあげることにします。


 ちょっと私が観察したいのもあったので。


 階段を上がる後ろを一緒に登っていきます。


「さっきから見られてるけど、俺の服にゴミでもついてる……?」

「いえ、お構いなく」


 この時、家に招きあげたことがあんな事件に繋がるとは私は思いもしなかった。



≪つづく≫

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