2章 学園対抗戦で奴隷戦士やっていたら、友達が出来そうです【2016年8月~2016年12月】
プロローグ 少女の悪夢は続いていく
少女は幾度と同じ夢を見る。
それは夏の日、強に伝えた夢。
瓦礫の山の中で少年が一人。数人の男を前に泣き叫ぶ。
中世の罪人のように地べたに押さえつけられながらも必死に何かを訴えている。
地面に押さえつけられ冷ややかな視線を向けられながらも、抑えつけられた体を揺さぶり口を激しく動かし、感情を爆発させ泣き叫ぶように取り囲む男達へと必死に何かを訴えかけ、伝えようとしている。
泣き叫ぶ彼を――
上から見ている。真上から見下ろすように。
だが声が聞き取れない、少女の耳に届かない。まるでそこに自分の体が無く意志だけが取り残されているように。景色だけが見える。子供のように喚き続ける彼の姿が。
――強ちゃん、強ちゃん!
心で強く、愛する者の名前を呼んでもしゃべる口が無いのか何も音が出せない。意思と体がリンクしていないような感覚。心だけが置き去りにされてように残っているから泣くことも出来ずに締め付けられる。
——泣かないで……ッ!
すぐに駆け付けたくても意思だけの夢では動けない。動く体がない。
自分という腹話術の人形を操る者がいないような静止画の世界。
見える情景――少年がなりふり構わず強い想いを泣き喚きながら叫び続ける。少女は少年を助けようと声を張り上げようとするが届かない。声を届けたいのに届かない。
少年を助けたいが動けない。
少女の心がもどかしさで押しつぶされていく。
彼を救いたいと涙を流すように、
——お願い………………泣かないで………………
「ハ――」
目の前が暗闇から
「ハァハァ……」
夏の悪夢によって乱された呼吸を整える。パジャマのボタンを外して息苦しさを逃がす。少女にとってそれは辛い夢に他ならない。
「強ちゃんが……泣いてる」
少女は溜まった涙を
夢で受けた心のストレスが体に現れた証拠だった。何も出来ない自分がもどかしくて、泣き叫ぶ彼を見るのが辛かった。まるでそれが現実のようにすら感じるほどに夢は良く出来ていた。
異世界に転生されてからよくこの夢をみる。理由はわからない。
ただ、同じもの幾度も繰り返し見せられる――終わりのない悪夢を。
少女は自分を落ち着かせベッドから起き上がり、部屋を歩き出す。
「そうか……今日はあの日か――」
カレンダーを前で日付を確認した。
彼女は八月のカレンダーの下の段に眼をやり呟いた。
「会いに行かなきゃ」
≪つづく≫
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