第28話 まだ一個だけ残っていた繋がり

 数多あまたの勇者たちがその人型の化け物四体に戦いを挑んだ。


 美咲が到着したころと同時期に市街地の建物は激しい戦闘により、倒壊とうかい瓦礫がれきの山と化していた。建造物であることをやめて、構造物ではなくなり、単なるコンクリートと変わり果てている。


 ところどころ地肌も見え隠れする。


「二番小隊ハナテェエエエエエ!」


 闘いの熾烈しれつさをうかがわせるものが、確かに其処にはあった。


「一番小隊は詠唱開始ィイイイ!!」


 ミカクロスフォードは魔法小隊に張り裂けんばかりの声で号令をかける。相手に負けるかと想いを込めて士気を高めるように指揮を振るう。魔法による一斉攻撃が降り注ぐ。小隊を組み、順繰りに魔法を繰り出していく。


 詠唱のタイムロスを無くすために魔法小隊は入れ替わる。


 遠距離攻撃を前に2メートルほどの直立する細い蜘蛛は呆れたように呟く。


「バカの一つ覚えで芸がないですね……」


 最初の先制攻撃にも似たミカ達の攻撃に呆れている。


 それが無駄だと言わんばかりに――


「また――ッ!」


 ミカクロフォードはその光景に苦々しい顔を浮かべる。何とも分からぬ場所で衝撃を発して残し消されていく。魔物に届く前に空中で爆発して消えていく。


「ホントに厄介ですわ……ッ」


 遠くからでは目視すらできない。わずかに煌めく細い線が張り巡らされている。透明なガラスの様に2メートルほどの直立する細い蜘蛛が発する奇怪な≪結界けっかい≫によって攻撃は阻まれ届かない。


 遠距離攻撃を完全シャットアウトされている中で一人の男が動き出す。


 ——あの蜘蛛をどうにかしなければッ!


 剣を構え走り抜ける。


 遠距離攻撃の支援が届かない現状を変えようと蜘蛛を狙いに行く。


「行かせん!」

「うっツッ――!!」


 男は耳を押さえて動きを止める。


 180センチほどの体に大きな茶色い羽をもつセミは、羽をすり合わせ下腹部で音を増幅し鳴き声による≪音波おんぱ≫を発する。地面に溜まった水たまりが激しく波紋を作っては消していく。鼓膜を抑えなければおかしくなりそうなほどの振動を前に勇者たちの動きを止めていく。


「凡夫には……」


 広範囲への状態異常攻撃――


「この高尚な音色は毒だったかな?」


 セミは嘲笑いながらも羽音による攻撃を止めない。周りの建物が共振を起こし、ヒビが入り崩れ落ちていく。一匹の魔物が耳を抑え動きを止めた勇者たちに向かって駆け回っていく。


「ケロンパ、ケロんちょ!」


 巨体が跳躍する。2メートルほどの巨大な体躯たいく。皮膚は不気味な膨らみを出す蛙。奇妙な笑い声と共に≪跳躍ちょうやく≫し、


「ケロケロッケ!!」


 歴戦の勇者たちを踏み潰す、蹴り飛ばしてなぎ倒していく。


「愉快でケロケロ!」


 止まらぬ魔物たちの勢い。


「どうしたの?」


 戦いを楽しむようにその刺激を求めるように強大な力で暴れ狂う。太い腕が乱暴に振り回される。盾を持った最前衛の勇者たちはある敵を抑え込もうと必死になっていた。その勇者達を前に品定めするように顔を見渡す。


「うーん……」


 ゴツイ男達を前に残念そうに中性的な声色で語る。


「どいつもこいつも趣味じゃないわね~」


 赤黒い鬼の丸太の様な腕に筋肉が凝縮されていき膨れ上がる。


「ボーイさん――」


 突如として、盾を持った男が空へ舞い上がる。




「チェンジを要求するわッ!」




 拳一振り。それは防御に優れた勇者たちを黙らせる吹き飛ばす一撃。 


 最大の攻撃力を誇る鬼。体は筋肉が凝縮され鮮麗された恵まれた体躯を持ち、頭には二本の牡牛の角が生えている。人の身の丈の二倍はあろうかと思われる巨体でチートを持った勇者相手に縦横無尽に暴れまわる。


 まるで人形を振り回すかのように勇者を持って振り回す。


 ソレが指揮官であるミカクロフォードの目に映っている惨状。


 勇者たち百人を持ってしても抑えているのが精一杯といった現状に、


「なんのなのよ……こいつ等……」


 指揮官として屈辱を感じずにはいられない。策を講じようとも苦としていない。


「こんなの反則じゃない……ッ」

 

 ミカクロフォードはまだ見たことがなかった。そういったものとまだ戦った経験がなかった。自分たちとの差を如実に表す相手。


 付け焼き刃で作られた連携と、


 長年苦楽を共にしてきたような連携。


 まさか――


 魔物がパーティを組んで侵略していくるなど夢にも思わなかったのだ。


 タンクの代わりをする蜘蛛の結界という盾。蜘蛛を倒そうとすれば、妨害するように相手の攻撃を阻害するセミの羽音。その隙を狙って縦横無尽に戦場を駆け回り跳躍する蛙が戦況を乱していく。


 そして、邪魔なものを圧倒的な力で排除する力の塊――鬼。


 スキがない。


「一番小隊ハナテェエエエエエ! 三番小隊詠唱開始!!」


 それでも諦めるわけにはいかないと声を張り上げる。彼らは勇者だ。


 どんな絶望が来ようと抗うのが勇者だ。


 入れ替わり立ち代わり戦いを挑むがチートの武器でも通じない。


 相手もチートである。


 『チート対チート』の戦いは矛盾。


 どちらが最強チートかを決める闘い。


 ただ純粋に強い方が勝つ方程式の上にある。


 勝る最強チートこそが、その世界での最強チートになる。


 不気味な存在の鬼には一つとして残すものはいなかった。


「お前の相手は私だッ!」


 青がかった黒髪の少女はその鬼を前に戦いを挑む。


 おのが力が及ばないと理解していても――





◆ ◆ ◆ ◆





 俺は玄関先で雨に濡れながらじゃがいもを丁寧に拾っていた。少し時間をおいては拾って止まり。それを繰り返していた。何度も何度も間違いを繰り返す俺のように。


 俺の動きを止めるものは二つ、


 たった二つしかない。


 二つの繋がりだけで人生を生きてきた――。


 だって、俺にとって人との繋がりって言うのは極端に少ないものだから。


 繋がりなどあると傷つくことばかりだと知っていて味わったことがあるからだ。


 少なくてもいいと思っていた。


 それに現に今もそうだ。


 俺にあったその繋がりを断ち切られて俺はどうしようもなく傷ついているんだ。


『お前なんか絶交だぁッ!!!』


 ひとつは最愛の妹の罵声ばせい


 お前と呼ばれた。


 あんなに美咲ちゃんが本気で怒ったことはない。


「絶交か……」


 大切にしていたのに、愛していたのに、大事に思っていたのに。繋がったものは切られたんだと悟った。呆れられて、愛想をつかされて、どうしようもないグズだと言われた。


 今まで我慢して付き合ってくれたのは家族だったからだ。


 それでも、断ち切られた。


 どうしようもなく心が傷つく。どうやって仲直りできるかも分からない。一生許されないのかもしれない。今度こそ本当に俺は見捨てられたのかもしれない。


「異世界……」


 異世界に美咲ちゃん達がいってしまったせいだ。俺が異世界に行けてないからだ。異世界から魔物が来たせいだ。異世界って物のせいで全部が奪われていく。


 ――ぜんぶ異世界のせいだ……魔物なんかいるから、


 俺には、たった二つしかないのに、


 それは――簡単になくなった。


 ――勇者なんてやつらがいるから。


 俺はじゃがいもを手に持ちながらクルクル回して眺める。


「どうしようもねぇじゃねぇか……」


 俺が行きたいと願っても行けないんだ。それに異世界にいった幼馴染には主人公ヒーローがいるんだ。だって、アイツは俺のいない世界に行ってきたんだ。


 アイツはに選ばれたんだ。


 アイツの世界に選ばれたのは俺じゃなくて、




 ――手越だったんだ。




 90%という数字はとてつもなく大きくて、どうしようもない。10人に9人はその中に含まれるて、外れるのは一人だけなんだ。圧倒的大多数がさすものが普通で、普通の中に例外は存在しない。


 それでも、


 そんなアイツが俺の傍にいたのは。


『強ちゃんはあたしが守ってあげるからね!! デットエンドから!!』


 弱い俺を守る為。


 アイツはいつも俺を守るように傍にいた。


 異世界に行く前からいつも傍にいたんだ。


 アイツは天然に無邪気で無鉄砲で人から愛されて、


 どうせ俺は普通じゃないからみんなから嫌われて……妹からも嫌われて……。


 ひとりぼっちなんだ。


「どうして、俺……なんだよ……」


 なんでこんなどうしようもない俺じゃなきゃいけなかった。


 例えば、いきなり望まぬ強大な力を手に入れたら人はどうなる。


 どうして異世界にいったやつらは強大な力チートを当たり前のように受け入れることができる。力っていうのは怖いものだ。力っていうのは暴力だ。圧倒的であれば圧倒的であるほどに孤立するものなんだ。


 だけど、アイツ等は孤立しない。


 アイツらのほうが俺よりマシだとわかる。


 物語の中や映画の中で力を持ったソイツは主人公ヒーローになる。


 人智を超えた圧倒的な力を使っても許される。人を助けたり世界を救ったりするから、その結果があれば誰かを殺しても、誰を苦しめても良しとされる。


 異世界転生っていうのもそうだ。


 神さまから突如として目的を渡される。魔王を倒して世界を救って来いって。


 その旅の為に力を渡されるんだ、強大な力を。


 アイツらには理由があるんだ。


 力を振るう、ちゃんとした明確な理由が。


「救う世界も何もない所で」


 じゃあ、


「そんな訳の分からないものを渡された俺は、どうなる……」


 正解は簡単だ。俺はそれを分かってる。


 身に染みて――


 イヤというほど分かっている。


 だって、俺という存在がそうなんだから。


 この世界に魔物がいようとも倒す奴はいる。圧倒的な魔物が現れれば黒い制服を着たブラックユーモラスという集団が魔物を取り囲んでボコボコに退治する。そいつ等がいるから世界が魔王に支配もされていない。


 平和でみんなが笑って暮らしていける。


 この世界で神がいきなり出てきてお告げをすることもない。


 世界を救えということもない。


 だったら、目的も意味もない俺の力はどうしたらいいんだよ……


 じゃがいもを握り潰そうと思えば簡単に握りつぶせる。


 特に力を入れなくても昔した砂遊びの砂をいじる感覚で簡単に潰せてしまう。


 全部が脆く何もかもが簡単に壊れてしまう。


 俺には人でも物でも簡単に壊せてしまう。


 全てが脆い。


 世界も、ずっとあった関係さえも。


 異常なものっていうのは、普通じゃないものっていうのは、


 どうして存在しなければいけないのか。


『強ちゃんは避難してて! 私が強ちゃんを絶対守るから。絶対!!』


 迷いがない目から俺には無い強い意思を感じた。


 玉藻は優しいからいつもそうだ。


 幼馴染はいつも俺を守ってくれていた。


 力が怖くて脅えていた弱い俺を――






 アレは俺が小学一年生になった時だった。


 アイツの無邪気さと、無鉄砲さと、


 アイツが俺とは違うんだと心の底から思い知らされたのは。


『お前さ、ちょっとはやる気出せよ』『そうだ、みんなでやってんだからちゃんとやれよ!』『ヤル気ねぇなら学校くんなよ!』


 俺は数人の男達に詰め寄られて攻められていた。班で課題に取り組むというもので俺がやる気を出さなかったからだ。本当に小さい時は全力を出せたこともあった。人から好かれることもあった。


 けど、それもほんのわずかな間だけだった。


 すぐに力が誰かを傷つけてしまうことを味わったから。友達と呼べるものがいなくなったことを味わったことがあったから。俺が本気を出したら禄でもないことが起こるとわかっていたから。


 それから、俺は何もしないことにした。


『お前さ、体育の授業も休んでるし運動できねぇのはわかるけど、やる時はやれよ!』『そうだ、そうだ!』『お前と一緒の班の俺らのことも考えろよ!!』


 数で寄ってたかって言葉でまくしたてる。ギャーギャーと喚かれる。


 耳障りで不快で俺の心臓がバクバクと早くなっていく。


 幼い俺は悔しくて拳を握った。


 なんで……わかんねぇんだよ……。


 この時にはもう俺の力は強かった。


 目の前にいるこいつ等を簡単に殺せるほどに。


 けど俺は握った拳を振るわなかった。そうすればどうなるかが分かっているから。体を動かすのが嫌いなんじゃない、力が邪魔で動かせないんだ。


『何か言えよ!』『そうだ、そうだ!』『黙ってんじゃねぇよ!』


 俺の肩がドンと押された。


『お前、根暗かよ?』『コイツ根暗じゃん!』『これだけ言われて何にもいえねぇでやんの!!』


 馬鹿にする言葉に歯を食いしばる。


 理解などされないことはわかってる。俺はお前らと違うってこともわかってる。だから黙って我慢している俺を前に、弱いそいつらは嗤っていた。


 俺は傷つけないように我慢しているの、言葉で見えない傷をつけてくる。


 やーい、根暗根暗と俺を馬鹿にして楽しそうに笑っている。


 どうしようもできない状況に悔しくて、歯がゆくて、涙が目に溜まってくる。


 俺だって全力でやりたいんだ……


 でも、やったら、やったら――


 どうなるかわからないんだ、俺でさえ……ッ!


 拳が力を込め過ぎて赤い涙を流した、血の涙を。行き場を、使い道を、見つけられない力が自分を傷つけて、何もできない俺を馬鹿にしているようで、俺ただ何もできずに立ち尽くす。


『強ちゃんに――』


 世界が変わっていく。


 悔しがる俺の横で机が空を舞う。椅子が激しい音を立てて倒れていく。


『何してんだッ――』


 荒々しい足音が世界を壊す様に、荒れ狂うように、


 机とイスを弾き飛ばして、まわりの悲鳴をつれて、


『お前らぁああ――』


 ソイツは泣きそうになっている俺の前に突如として姿を現した。




『謝れェェエエエエエエエエエエ!』




 目の前で青がかった黒髪がなびく。スカートを揺らして飛び上がっていた。目の前で何が起きたのかととまっていた俺は目を大きく見開く。俺の視界でひらひらとスカートが揺れて世界が止まったように感じた。


 感情を、怒りを、むき出しにして幼馴染が飛び蹴りをかます。


 相手が窓際まで吹っ飛ぶ。それでも勢いが止まらない。


『強ちゃんのことを何も知らないくせに――』


 着地で転んでも、そこから這いずるようにして一気に走っていく。


『お前らッ!』


 迷いもなく力強く、さっきまで俺の前にいたが倒れている男に飛び掛かった。


『バカにするなッ!』


 鼻血を出す男の胸倉を掴んで玉藻の叫ぶ声が響き渡る。


『やめろよ!』『何すんだよ、鈴木! 離せよ!!』


『誰か先生呼んできて!』『危ない!』『怖いよぉお……うわーん!』


 教室が壮大な喧嘩に大騒ぎになる。みんながざわざわしていた。泣きだす奴もいるくらいに教室はパニックになっていった。教室から先生を呼びに生徒が走る。


 世界がおかしくなっているのを俺はただ驚いてみる。


『強ちゃんは優しいんだ!! 強ちゃんはカッコイイんだッ!』


 青がかった黒髪を掴まれて引き離されようそうになっても暴れ続けて、


 相手は男なのに、女のくせに負けじと吠えて、


『強ちゃんはスゴイんだッ! 強ちゃんは悪くないんだ!』

『鈴木、テメェふざけんなよッ!』


 三対一でも数が多くても関係ないと言わんばかりで、


『お前、アブねぇよ!』『いきなりなんだよ、鈴木!』『離れろよッ!』


 髪をつかまれて吹っ飛ばされても少女は向かって行く。


『お前ら風情が』


 胸倉を掴まれ押し倒されている男が玉藻の顔をぐいっと押さえて遠ざけようとしても、


『強ちゃんを語るなぁあああ!』

『何言ってんだよ、お前!』


 他の二人が服や長い髪を掴んでぐちゃぐちゃに乱されても、


 止まらない程に狂っていて小さい拳を振るって、


『強ちゃんが何もしないからって――』


 俺の数少ない繋がりで味方だった。見たことも無い勢いで怒る幼い玉藻をただただ見ていた。俺はその無鉄砲で小さい頼もしい背中を見つめていた。


『強ちゃんが我慢してるからって……ッ!』


 だって、知らなかったんだ。


 ——玉藻……


 俺の知ってる、ソイツはいつも笑顔だったのに見たことも無い顔で、いつも気の抜けた声なのに、見たことも無いくらい怒っていて、暴力を振るうようなキャラじゃないのに、歯をむき出しにして男の顔面に拳を叩きつける。


 そしたら、俺の拳の力が自然と抜けていった。


 俺が怒るよりも怒っていて、俺が暴れるより激しく暴れているその姿に驚いて動けなくなっていた。俺から怒りも悔しさも消えて、けど泣きそうになるのを必死に堪えて、




『強ちゃんを傷つけるなぁああああああああああ!!』




 戦う玉藻を見ていた。


 その時に弱い俺は救われた。どうしようもなくやり場のない怒りを玉藻が肩代わりしてくれてから。そのあと大騒ぎの中で先生たちがかけつけてきた。


『何やってるんだ、お前らッ!』


 前に立たされ怒られていても玉藻はけして泣かなかった。他の男三人は鼻血を出したり爪で引っかかれた顔で泣いていたけど、髪もボサボサで服が破れて顔に擦り傷がある顔で不貞腐れて、むしろ逆に怒りをぶつけていた。


『アイツらに私の大事な人は傷つけられたんだ!』


 強く自分は間違っていないと言葉に変えて。


 相手が大人でも強く自分が正しいと。


『だから、私は悪くないし間違ってない!』


 ヤツは揺るぎない意思で立ち向かっていった。それには教師もさすがに扱いに困っていた。玉藻の立場もあったのかもしれない。総理大臣の孫という立場もあったかもしれない。


 それでも、


 そのとき誰もが鈴木玉藻を『強い』って思っていたのは間違いない。


 鈴木玉藻は悪いことなんて気づかないくらい無邪気で、


 何も恐れないくらい無鉄砲なのだと。

 

 玉藻はそれから学校では俺の近くにいて番犬のようになっていた。事あるごとに俺の傍を離れようとしなくなった。同じことが二度と起こらないように休み時間の度に俺の座席を訪れるようになった。


 そんな玉藻に弱かった俺はずっと守れていたんだ。


 でも――


 ずっとそういうわけにもいかない。アイツがずっと俺を守る必要なんて本当はない。やられたらやり返せばいいって分かってから、俺をどうこう出来る奴はいなくなったのだから。


 それがわかっていてもずっと心につっかえてるものがある。それが何かわからずモヤモヤして苦しくて俺の動きを止めているんだ。


 俺にはもう繋がりなんて呼べるものは一つも残ってないんだとわかった。


 だから俺は切なくて何度も動きを止めたんだ。


 すると突然に座っている俺のところだけ急に雨が止んだようになって影が出来た。




「オイ、類友るいとも




 聞きなれた声がした。俺はしゃがみ込んだ体制のまま声の主を見上げる。


 ——櫻井……?


 全て無くなったと思っていた繋がりがまだ一個だけ残っていた。



《つづく》




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