十四話

 虚構の世界。ここは、ハロが作り出した世界と言うことなのだろうか。

「亜空間を作るとか、そんな大それた事はできないのよ。でも、天野安川は、場所的にあの世に近い場所だから、私の力でも少し力を加えれば、こうして現実世界の上に別の世界を上書きできるの。範囲も対象も、私の思い通りのはずだったんだけど……」

 ハロは盛大に引きつり、辺りを見渡す。

「対象の人員を現実世界から引っ張ることだけを考えたから、あちら側からのお客さんを考えてなかった」

 小さく舌を出すハロ。時と場所が違ったら、ハロの仕草は男心に突き刺さる物があったかも知れないが、今は別だった。イナリの必死の形相を見れば、此処がいかにヤバイ場所か想像が付いた。

「那由多に言われなかったのか? 言われたと言ったよな? 此処で、その手のワザは使うなと!」

「もちろん、言われたわよ!」

 両手を大げさに振りながら、ハロはイナリに反論する。

「『ハロ、詳しく言わなくても分かると思うけど、面倒だからってあの場所で空間操作を扱うなよ』って」

「で、なんて答えたんだ?」

 文也は典晶の横にぴたりと寄り添ってくる。この異様な世界、タダでさえ臆病な文也には、まさに生き地獄かも知れない。

「私は、もちろんこう答えたわよ! 『任せといてよ! 安心して良いわよ! 私だって、できる女なんだから!』ってね♪」

「これが、できる女のすることか!」

「いやー! たまには私も活躍したいと思って……。私だって、デヴァナガライの助手をしているんですもの。少しくらいは、皆にイイ所見せたいじゃない?」

「お前は……! もし、典晶や文也、美穂子にもしもの事があったら、どうなるか憶えておけ!」

 怒りの余り、イナリが吠えた。その瞬間、彼女の耳がピンッと尖った。そして、ズボンから尻尾が現れた。

「ニャニャ!」

 イナリは驚いたように狐耳と尻尾を触る。

「毒気に当てられたわね」

 腰に手を当てたハロは、イナリを見て肩をすくめる。

「さて、典晶君達は獲物はどうする?」

「獲物?」

 典晶と文也は顔を見合わせる。イヤな予感、というか、イヤな気配がそこかしこから感じられる。気のせいか、振動と物音がどこからともなく伝わってくる。

「そ、私は剣にするけど」

 ハロが手を振ると、手に一振りの抜き身の剣が現れた。

「私は必要ない。護身術は、母様に叩き込まれているからな」

 コキコキと、首と手を鳴らしながら、イナリは靴を脱ぎ捨て裸足になった。

「何が始まるの……?」

「怖いことはないよな?」

 いつしか、典晶と文也は抱き合うようになっていた。

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