十三話
典晶には普通の学校に思えるがイナリやハロにとって、今日の学校はいつもと違うらしい。
「よし、騒ぎが大きくなる前に、やるわよ」
生徒玄関から廊下に顔を出し、左右を見渡したハロは、人がいないことを確認すると、パンッと大きく胸の前で手を打った。
「この場所なら……、私だって……!」
「場所……?」
そういえば、以前に那由多が言っていた。この学校が建つ場所、『天野安川』という地名は、あの世に近い場所だと。もしかすると、その事と関係があるのだろうか。
「天野安川が、あの世と近いって那由多さんが言っていた……」
「その通り、那由多は、此処でその手の事はするなって言っていたけど、この状況じゃしょうが無いものね」
「え……?」
ハロの言葉に典晶は言いしれぬ不安を覚えた。
「ちょっと待て、那由多は、此処で使うなと言ったのか?」
イナリが目をむく。
「そうよ。那由多の奴、私をちっとも信用していないんだから! 私だってできるって事、見せてやるわ!」
言うが早いか、ハロの体から凄まじい圧が放たれた。まるで、見えない壁に押されているように、典晶達は一歩後退した。
「大丈夫なのか? 本当に!」
典晶は叫ぶ。
ぐにゃりと、廊下が歪んだ。まるで、溶けたチョコレートが混じり合うように、廊下、天井、窓、典晶とイナリ、文也とハロを除く全てが歪んで、渦に飲まれるように混じり合う。
「頼むよ、勘弁してくれよ!」
文也は悲鳴を上げる。
「ハロ! 本当に平気なんだろうな!」
イナリが声を上げる。
その時、悲鳴が聞こえてきた。
甲高い女性の悲鳴だ。
「美穂子か?」
そう思った矢先、別の所から今度は男性の悲鳴が聞こえてきた。悲鳴だけではない、怒声や鳴き声に混じって、陰険そうなひそひそ声や、狂ったような笑い声も聞こえてきた。まるで、戦場の真っ只中に放り込まれたように、至る所から悲鳴が聞こえてきた。景色と同じように、悲鳴や怒声など、様々な人の声が、感情が渦を巻いて典晶達を包み込む。
やがて、悲鳴などの声は水が引けるように消え、静かになった。歪んでいた空間も元に戻ったが、目の前に広がる世界は、今までいた世界とは少し違っていた。
「ここは……?」
文也がフラフラと頭を振った。
今まで、典晶達は生徒玄関にいたはずだが、今は廊下の真ん中に立っていた。前後に延びる廊下は、先が見えないほど長く、右手にある窓からは、紫色に染まった空が見える。左手側には教室が並んでいるが、長い廊下に沿うようにして、無数の扉が続いている。
「ハロ! どうなっているんだ! ここは……! この世界は、尋常じゃないぞ!」
声を荒げ、イナリはハロに詰め寄る。
「え~っと、どうなっていると言われても……、現実の世界に上から一枚被せたの、虚構の世界を……」
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