十二話

「ハロ、那由多の使うデヴァ・アルカナは分かるが、お前がそんな疑似空間を本当に作れるのか?」

「疑似空間を作るのって、そんなに難しいのか?」

 文也の問いに、典晶も頷く。

「神様なら簡単なんじゃないのか?」

 典晶の言葉に、ハロは「いやいや、神様だって万能じゃないよ」と、パタパタと手を振って答える。

「私の知り合いに、疑似空間を作れる神や、その眷属は知らない」

「宇迦さんや母さんも作れないのか?」

「ああ、母上達も作れない。八意や月読も作れないはずだ。イザナミやイザナギ、ゼウスやオーディン達ならあるいは、と言った所だと思うが。いち天使が作れるような代物ではないはずだ。疑似空間と行っても、世界の創造と類をなすものだからな」

 確認するように、イナリはハロに尋ねる。

「まあ、ね。私がおこなうのは、この世界に別の空間を重ねるの。普段は私の力でも難しいけど、この場所なら、できるわ」

 ハロは自身ありそうに鼻を鳴らし、口角を上げる。

「???」

 典晶と文也は顔を見合わせる。イナリもハロの言葉の意味が分からないようで、小首を傾げている。

「ま、説明するよりも、実際に見るのが早いかもね。そろそろいきましょうか?」

 そう言って、ハロは校舎を見上げ、次に膝に手をついたままの典晶と文也を見た。

「いけるよ」

「俺も」

 典晶は文也に頷き、一度大きく息を吸って上体を起こした。

 まだまだ校舎の中には生徒もいるだろうが、ハロはどうするつもりなのだろうか。典晶はハロの端正な横顔を不安そうに見つめた。

「大丈夫大丈夫! 私を信じてよ♪」

 軽快に笑うハロ。その軽快に笑う様が、信用できないのだ。

「さあ、行きましょ!」

 今にもスキップでもしそうなハロの後に、典晶達は続く。

 学校はいつも通りだった。土曜日と言うこともあり、人は少ないようだったが、文化部の生徒と教師がいるのだろう、吹奏楽部の演奏が風に乗って聞こえてきた。

「いつもと変わらないな」

 文也が呟く。

 確かに、普段の学校と同じだ。空気、匂い、全てがいつも通りだ。逆に、それが気持ち悪いくらいだ。

「そう感じるのか? 私は、かなり気持ちが悪い。ここは、昨日までの学校ではないぞ。恐らく、凶霊によって良くない霊や妖が集まっているのかも知れない」

 イナリは小さく舌打ちをする。

 典晶には普通の学校に思えるがイナリやハロにとって、今日の学校はいつもと違うらしい。

「よし、騒ぎが大きくなる前に、やるわよ」

 生徒玄関から廊下に顔を出し、左右を見渡したハロは、人がいないことを確認すると、パンッと大きく胸の前で手を打った。

「この場所なら……、私だって……!」

「場所……?」

 そういえば、以前に那由多が言っていた。この学校が建つ場所、『天野安川』という地名は、あの世に近い場所だと。もしかすると、その事と関係があるのだろうか。

「天野安川が、あの世と近いって那由多さんが言っていた……」

「その通り、那由多は、此処でその手の事はするなって言っていたけど、この状況じゃしょうが無いものね」

「え……?」

 ハロの言葉に典晶は言いしれぬ不安を覚えた。

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