第23話 産業改革

領主との改革の成果報告まであと2週間と迫った頃。リュウは鍛冶職人ジャンのところに来ていた。今日はジャンが集めた職人仲間達が居た。 リュウがリクエストしたのは鍛冶職人だけでなく、手先が器用な者、新しいことに取り組む才のある者なども出来る限り集めて欲しいというものだった。


招集されたのは50人程の老若男女だった。


先ずは鍛治系の話から行った。


『先日話したアルミの精錬や鋳造は上手くいっていると思いますが、今日はそれに追加でお願いしたい物があります。


これは鉄骨というものです。鉄で出来た骨。つまりこの骨を組んでいくと一つの大きな形を作れます。家だったり橋だったり。それにこれは非常に頑丈です。少々の事では崩れません。火にも強いです』


リュウはサンプルで作った長さ1メートルほどのH型の鉄鋼をみんなに見せた。ここでは高層ビルを建造するわけではないので運搬を考えて2メートル×幅10センチ程度の鉄骨をベースにしようと思っている。


『組み合わせには、このボルトとナットという2つの部品を使用します。このナットを回して締めると外れなくなります』


『若様!こりゃあすげえや。俺が叩いてもビクともしねえ』


リュウは最近、街の人に若様と呼ばれる事が多くなった。クリスとの婚約は街の住人にとっても目出度い事で祝福されているのだ。


『これらも型を作って溶かした鉄を流し込みます。型は上下の分割を基本としますが、工夫をすれば複雑な形も作れますよ』


今までの単なる鍛治から製鉄も扱う職人として幅をもたせようとしていた。

本来、鋳造職人も別に分担した方がいいのだが、いろいろやらせてみて適材適所に分担を決めようと思っている。


『続いてガラスの製法です。 ここに高熱で溶かしたガラスがありますが、この溶けたガラスを溶解した鉄の上に流し込みます。なぜ溶解した鉄の上に流すかというと、液体状のものは常に水平を保つという性質を利用するのです。そして決して混ざりあわないので薄く平たくなったガラスをローラーで転がし、この型の上に持ってきます』


辿り着いたガラスは50センチ四方の鉄の型で成形され、冷めればガラス板が完成する。


『冷えたらこういう平板になります』


リュウは予め用意しておいたガラス板を見せる。


『すごい!透明の板だ!!』


『これを木の枠に嵌めると窓ガラスになります。特徴は窓を開けなくても明るい陽射しが入ります。部屋の中がわかるので商店などの様子が見えて集客効果にもなります』


窓のサンプルも見せる。活用例としてガラスに色をつけたステンドグラスも用意しておいた。


『それと、これは皆さん絶対に驚くと思います。このガラス板に銀を塗布します。銀は空気に触れると黒く変色しやすくなるので表面を漆などで多います。乾かした後、木枠に嵌めると・・・・・』


リュウはガラス板に銀を塗ったものを反対に向けてみんなに見せた。


『おお!!!俺たちが映ってる!!!なんて綺麗なんだ。こんな鏡みたことないぞ!!』


この世界では青銅鏡という銅を磨いた鏡はあったが、黒く映るのでよく見えない代物だった。 このガラスの鏡は言うまでもない質のものなので初めて見る者の驚きはすごいものだった。


『ガラス板の大きさを変えれば様々な大きさの鏡が出来ます。枠も工夫すれば豪華な物や美術工芸品としても扱えます。


それと、この溶けたガラスの固まりに、鉄で出来た中空の筒を刺して、反対側から息を吹き込めば・・・・ ガラスが膨らんで花瓶やコップが作れます』


リュウは説明しながら一つサンプルを作ってみた。


『うわあ、これもすごい!こんなに綺麗にできるのね!』


服の仕立て職人の女性が驚きの声をあげている。



今日教えたものをここに集まった職人がそれぞれ試してみて自分がどの職人になるかを相談して決めていった。 女性に人気なのはガラス職人だった。男性は鉄がロマンだったみたいだ。 


残り2週間でそれぞれ就いた職で出来る限りの物を作らせてみる。材料や設備、職人の日当はリュウが支払っている。 億万長者は羽振りもいい。だが、決してボランティアではないのだ。 この産業が後に数十倍、数百倍の利益をもたらすことは確実だからだ。


実は今日の集まりにはギルド長のナターシャにも来てもらっていた。


『ギルド長、折り入ってお願いがあります』


『あら?何かしら?私を妾にっていう申し入れかしら?』


この人もある意味ブレない人だ。


『御冗談を。先程見ていただいた新たな産業技術なんですが、こういった新しい考えや技術をギルドに登録して権利として認める制度を作っていただきたいのです。認められればその技術を独占して使用することも出来ますし、他人に使わせて使用料を得るという儲け方もできます。 ギルドとしての利点は申請時に申請料を徴収できますし、権利を維持するために年毎に登録維持料を徴収する様にすればいいかと思います』


リュウは元の世界の特許制度をこの世界にも導入する考えだ。 技術を独占するのではなく、他に使わせてライセンス料で大儲けする算段だ。


『面白い制度ね。あなたの元居た世界のものね? わかったわ。ギルドの会頭として議会の案件に掛けてみるわ。来週に会合があるのでその時ね』


『ありがとうございます。朗報をお待ちしております』


いつもはアレだけど、こういう時は頼りになるナターシャだった。



こうして少しずつではあるが、この国の産業改革は進んでいった。

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