第60話 魔王グルコス
深く暗い真の闇。
光をも潰してしまう、強烈な重圧。
その中に生きるものは、既に一度、肉体が死んでいる。そうでなくては、とてもこの空間で存在を保っていられないのだ。生きているものは決して居られぬ場所。
魔王グルコスは、そこに住まっている。
闇の中央にねじれた時空の扉があり、それをくぐれば、魔族の王の居城があるのだ。
それをくぐることができるのはグルコスの許した存在のみだ。魔王にとって必要なもの、もしくは価値のあるもののみが、登城を許される。
しかし、それは、永遠にグルコスの奴隷となることでもある。自由を許されず、つねに彼の利益のみを最優先しなければならない。
だが、邪悪な者たちはそれでも彼の存在を喜びとした。
それらの一人、ゴドリクの肉体は、もう修復を受けつけないほど痛んでいる。生まれたときから深い傷を負っていたために、その生命力は、これ以上ないほど衰えていた。
「やはり、おまえの肉体を裂いた痛手は大きいようだな」
グルコスは、玉座の上から倒れ伏しているゴドリクを見下ろした。
「エヴァロンの魔力は強い。だが、おまえたちを維持し続け、また肉体を回復させるほどには強くないのだな。このままでは、修復すらできないだろう。だが……」
床に長くのびた、命が尽きて数年は経っただろうと思わせる獣の屍じみた物体から、かすかな声が絞りだされた。
「お助けを……」
「ほう……」
グルコスは身じろぐ。
「どうか……われらが君……」
「口がきけたか。まさか意識があったとは、驚いたぞ。それは、おまえにとっては不運なことだな。
だが、まあ、良い。おまえから取り出しておいたものを、戻してやろう。時間稼ぎにはなる。ノームがおまえの体をなおす材料をみつくろってくるまでの、な」
闇をまとった王は、その闇の一部をゴドリクに向けて飛ばした。
みすぼらしい、小動物の死体のようになってしまった魔物の体を黒い影が覆う。それから小さな黄色い光の玉が影に吸いこまれた。
城を貫くかというほどの絶叫が、あわれな生きものから迸った。
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