使い魔ゴドリク

第56話 使い魔ゴドリク

 その城は、深い闇の気配をたたえている。高い山の頂にそびえ、天をつらぬこうとするように鋭い尖塔を幾つも擁している。漆黒の雲がその尖塔を覆っていた。


 城の周囲は灰色の雪につつまれ、暗い森には生物の気配もない。


 陰鬱とした、その城の広間では、赤々と燃えさかる炉の炎に背を向けた男が、真の闇を身にまとい、平伏する奴隷を召していた。


「まだ、見つからぬのか」


 怒りに燃える声は毒を含んでいる。聞く者の耳から侵食していき、頭の中まで腐らせてしまいそうだ。


「ガイール、忠実なる我がしもべよ。どうなのだ」


 闇の中から、おもねる響きの声がした。


「……猊下のお力をもってしても、いまだ発見できませぬのです。私めに時間がかかってしまうのも、無理はありませぬ」

 暖炉の炎が激しく燃え上がり、憤怒の轟きがあたりを震わせる。


「それでも魔族のはしくれか!」


 残響のあとに炎が薪を焼き砕く音が続く。

 醜い姿を闇にとかして、奴隷は身を伏せた。


「私めの肉体は、もとは惰弱な人間でございますから。それも、半分に裂かれたものでございます」

 賤しいものの主が舌打ちの音を漏らした。


「なんとも情けないことだ。それで、おまえの半身はどうなのだ。帰ってこぬが」


「ゴドリクは瀕死でございます」


「なに? 何があった」


「神人を見つけたと言ったきり、倒れてしまいましたもので……。ノームさまが、我らが君の御許に連れて行かれました」


 鼻を鳴らした主人に、声は弱々しく告げる。

「しかし、どうやら神人に呪いをかけることには成功したようでございます。いずれ、天空の大地への道が開けましょう」


「呪いか。おまえたちは揃って不甲斐ないが、ごくまれには役にたつようだな。して、どのような呪詛をかけた」


 ささやかな賞賛を得てか、恭しく語る声に誇らしげな調子が加わる。


「健康を奪い、夢を支配する呪詛にございます。眠りの中に肉体を捕らえ、悪夢の中に魂を封じこめるのです。猊下が夢にお入りになることもできますれば、お心のままに……」

 とたんに鐘を割るような哄笑が響きわたった。


「そうか! それは愉快だ。ゴドリクめも、なかなか上等な呪詛を扱う」

「は……」

「よかろう。おまえは探索を続けよ。見つけるまで、おまえのみすぼらしい体は預かっておく。よいな、必ず見つけだすのだ」

「御意」

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