第03話 -初めての仲間-

 馬車に戻った僕たちはまず亡くなった馬を弔い、倒れていた荷台を協力して起こしていた。


「本当に助かった。っと、そういえばまだ名乗っていなかったな。俺はユーシア=シルフィル。ユーシアと呼んでくれて構わない。そしてこいつは妹のアリシアだ」


「アリシアです。私からも本当に有難うございました。あの、良ければお名前を教えて頂けると嬉しいのですが……」


「そういえば名乗っていませんでしたね。僕はセツナ=シノノメといいます」


 落ち着いた僕たちは馬車の横に座り込み自己紹介を行った。男の名は≪ユーシア≫、少女の名は≪アリシア≫。二人は兄妹で冒険者業をやっているとのことだそうだ。


 今回の件についても、近隣の村からの要請で商人を襲う魔物-ガルムグリズリー-の討伐でやってきたそうだ。

 ユーシアいわくガルムグリズリーのランクは【C】。兄妹でチームを組んでいる二人のチームレベルは【B】であった為、今回の討伐についても問題ない予定だった。

 しかし、目撃地点に現れたのはガルムグリズリーではあったが、黒いオーラを纏って武器を所持しており通常と違う状態であった。

 不意を突かれた二人は馬をやられ、咄嗟に応戦したユーシアも続けて腕を負傷。馬車はその時に倒れてしまったそうだ。

 自分たちの手に負えないと判断したユーシアはアリシアからガルムグリズリーを引き離すために僕たちが出会った場所まで引き付けていたとのことだった。

 だが、兄のことが心配であったアリシアはユーシアを追ってしまい、結果僕が見つけた時の状況になっていたということらしい。


「とまぁ、そんなわけでかなりピンチだったわけだ。あれはどう見てもランク【A】―もしかすると【S】にすら達していたかもしれない」


 長々と説明してくれるユーシア。僕はその話を聞きながらアリシアのことが気になっていた。

 気になるといっても好意としてのことではなく、夢の中の少女≪アーリャ≫と瓜二つであることによることだ。

 けれど、目の前の少女はアリシアだ。アーリャとは違う。

 僕はその事に多少ながら混乱しながらアリシアを見ていると、見られていることに気付いたのか首を傾げてきたのだ。


「?」


「あ、いや…とにかく状況は理解できました。では次は僕のことですかね」


 話が一区切り着いたのに合わせ、アリシアが不思議がる前に話を変えてみた。


「ぁぁ、そうだな……まず聞きたいことがある。セツナ、あんた何者なんだ。あのランクの魔物を無傷で倒しきるやつなんてこの辺りじゃ聞かないぞ。しかも、セツナなんて冒険者聞いたことすらない」


 ずっと気になっていたことなのだろう。ユーシアが捲し立てて質問を投げかけてくる。


「えっとですね、まず僕は冒険者ではありません。あの獣――ガルムグリズリーでしたか、あれを倒せた理由は僕が剣術を習っていたからです」


「冒険者じゃない……それなのにあの強さか。もったいないな…。剣術ってのはあれか≪盈月一華≫。聞いたことがある。確か王都にその流派の使い手がいると聞く。≪剣鬼≫の一人がその流派らしいな。その若さで使いこなしているのは大したものだが、≪盈月一華≫の使い手ならあの強さも納得だな」


ユーシアが僕の強さに納得がいったのか頷き続ける。しかし、僕はあることに絶句していた。


「ぇ……この世界に≪盈月一華≫がある――!?いや、それはおかしい……だってこの流派は僕の……」


 ―そう、≪盈月一華≫は僕の世界で修めていた剣術だ。爺さんから小さいころから習っていたが、どういうことだ…?


「えっと、何か気になることでもありましたか?」


 僕が青い顔をしていることに気付いたのか、アリシアが気にかけてくる。

 どうする……全て説明するべきか……そもそも僕がこの世界ではないところからやってきたなんて信じるのか?でも、この二人になら……

 悩んでも先に進めない。そう思った僕は嘘偽りなく全て話すことにした。夢の事以外は。


「信じられないかもしれませんが今から話すことは真実になります。まず、僕はこの世界の人間はないと思います。そして、僕は自分の世界で≪盈月一華≫を修めていた。だから、この世界にも≪盈月一華≫があることがおかしいんだ…」


 僕の世界のこと。魔法が存在しない、化学という魔法とは別のモノが進歩していたこと。魔物なんて存在がいないこと等色々と説明を行った。

 その間二人は時々驚きはするものの、静かに聞いてくれた。


「なる…ほどな……俄かに信じがたい内容ではあるが、嘘をついている様子でもない――妄想の類も考えられるが、そもそもがセツナ、お前の髪、そして恰好はこの辺りじゃ見たことがないし本当の話なのかもな……そして、昔聞いたことがある。古代の王族が異世界からの勇者を召喚した史実があるという話を……まぁ、何よりも俺たちの命を救ってくれたんだ。セツナ、お前を信じるさ」


 話せるだけの内容を話した僕に対し、ユーシアは納得しづらい部分もあるようだったが信じてもらえたようだ。


「私は……セツナさんのこと信じますよ。だから先ほど浄化魔法使った時驚いていたんですね」


 この二人に感謝だな……。


「ありがとう、信じてくれて…。だから、この世界に≪盈月一華≫が伝わっていることがおかしいんだ。あれは僕の世界の流派のはずなんだ…」


「それに関しては俺には理由は分からない。だが、王都にその名の流派があることは確実だ。≪盈月一華-エイゲツイッカ-≫なんて他に似たような流派もないし…な……」


「あの……兄さんとセツナさんお腹減っていませんか?セツナさんはこちらに来てから休まずにここまで来たとのことですし、お腹減ってるかなと…」


 雰囲気が暗くなってきたのを感じたのか、アリシアが食事を提案してくる。いい娘だな……食事と聞いたからか僕の気が緩む――と、同時に腹から盛大な音が鳴ってしまった。うわぁ……


「ふふ。すぐにご飯にしちゃいますね」


「色々と時間をかけてすまなかった。一旦休憩にして飯にするか」


 僕が言葉を発する前にどんどんと進んでしまった。恥ずかしい……。


  ◆◆◆◆


「とても美味しかったよ。有難う」


 あまり時間をかけずに作ってくれたにも関わらずアリシアの料理は温かく美味しかった。


「さて、だ。セツナよ、これからどうするつもりだ?」


 ご飯を食べて落ち着いた僕たちはこれからのことを話し出した。


「正直に言うと何も決めていません。ここがどこなのかも分からない―そして、僕がここで何をすればいいかも分からない状況なので……」


「まぁ、そう言うと思っていたよ。なら、セツナ。お前さん俺たちとしばらく一緒に行動しないか?ここで会ったのも何かの縁だ。……嫌だと言うのなら無理は言わないし、助けてくれた恩もある。当分過ごせるだけの金銭は渡すし、ある程度の知識も与えるつもりだ」


 先の説明で僕がこの世界に身一つで来たことを知ってくれたからか、ユーシアの助けはとても有り難かった。

 それに――やはりアリシアのことが僕は気になっていた。この二人と行動すれば何か分かるんじゃないかとも――。


「セツナ……お前、アリシアのことが気になってたりするのか?……アリシアはまだ嫁にやるつもりはないぞ」


 今もまたアリシアの方を向いていることがばれてしまったようで、ユーシアが忠告してくる。


「ぇ…えぇ…!?ア、アリシアのことは確かに気になっていますが、そんなんじゃ!?」


「……!?……ッッ……ぅぅ」


 僕が気になる発言をしてしまったため、アリシアが顔を赤くして俯いてしまう。

 ―何だコレ。ほんと何だコレ……。アーリャとは別人なのだろうが、ラグザに罪悪感を感じてしまう。


「あー……ゴホン。これからの件だけど、ユーシアの言葉に甘えたい。どうか、俺を君たちのチームと言えばいいのかな、それに加えてくれないか」


「あぁ!こちらこそよろしく頼む!……アリシアはやらんからな」


「もう、兄さん!恥ずかしいことはやめてよ!ぅぅ……セツナさんこれからよろしくお願いしますね」


 シスコンだなぁ……顔を赤くしたアリシアはかわいいが、勘違いだと伝えたい…。

 とにかくこうして僕たちは正式に組むことになったのだった。


「まずは、ガルムグリズリーの討伐報告のために隣村の≪ラクシア≫へと向かおうかと思うんだが……見ての通り、馬がやられてしまっている。荷台も借り物だから出来れば持ち帰りたいところなんだが、ここからは馬車でも半日かかる距離だ……徒歩だと2日かかる見込みの為、荷台は置いて荷物だけ持ってあるくことにしようと思う」


 ユーシアがこれからのことを説明する。荷台を皆で引いて帰るのも手だがそれだとより時間を要してしまう為、置いていくしかないという判断だった。


「まぁ、村に着くまで時間はあるし、この世界の事を簡単にだが教えるつもりだ。これからいろいろと覚えてもらうつもりだから頑張れよ」


 僕の肩を叩き、笑うユーシア。アリシアもニコリと微笑む。

 荷物を手分けして持った僕たちは≪ラクシア≫へと向けて歩き出したのだった。


「この世界だが、ゼフィロス大陸と呼ぶ。他に大陸があるかはすまないが俺は詳しくないし、この世界のことの総称も、だ。これはアリシアも同じ知識のはずだ」


 ユーシアの言葉にアリシアも頷く。まぁ、当然だが聞いたことのない大陸だ。


「ここはゼフィロス大陸の南端、端っこの方じゃないけど結構南寄りなの。ゼフィロス大陸は四つの大国と複数の小国が存在していて、私たちがいる場所は大国の一つ≪エルージャ公国≫。さっき兄さんが言ってたセツナさんが使う≪盈月一華≫と同じ使い手がいると言われている王都≪レクセント≫がある場所もこのエルージャね」


 ユーシアに続き、アリシアが説明してくれる。この世界の≪盈月一華≫の使い手も同じ世界にいるのか……出来れば会ってみたいが当分先の事になるだろうなぁ。


「エルージャ公国は大国とはいえ、他の三国よりは色々な分野で劣っているが、そこそこ平和な国でもあるな。他国は戦争状態の国もあるが、エルージャ公国はここ数年は他国との争いは起きてないしな」


「それはよかった……僕の世界でも争いや戦争はあったけど、僕の国は平和だったから人と争うってのは出来るだけ避けたいところだった」


 この世界の人にとっては争いたくないなんてぬるい事言うなと思われるかもしれない。ユーシアとアリシアは笑顔でそれでいいなんて言ってくれたけど、この世界にいれば何時かは人と争うこともあるのだろうと思えてくる。


  ◆◆◆◆


 歩き出して1日目。日が暮れてきたため、小川の近くで野営することとした。


「ふぅ……さすがに疲れた……っ……」


 落ち着いた油断もあったか、足に痛みが走った僕は見てみると、足の裏の皮がむけて赤く腫れ上がっている状態だった。


「ぅぁ……裸足で歩き続けたからだなぁ……」


「セツナさんそれ…!?なんで早く言ってくれなかったんですか!」


 僕の様子の気づいたアリシアが駆け寄ってくる。そして両手を僕に向けて添えると呪文を唱えだした。


「水の精霊≪ウィンディア≫の名の元に―慈愛の精霊よ 傷つきし者へと癒しの光を―ヒール・ウォーター」


 浄化魔法の時と同じようにアリシアを手から幾何学模様の円陣が浮かび上がり、優しい光が僕を包み込む。


 やっぱり綺麗だな……

 アリシアからの光に包み込まれると、目に見えて傷が塞がっていき痛みが無くなってきた。


「ありがとう。魔法って本当に便利だなぁ」


 お礼を言うとアリシアは照れ臭そうに鼻の頭をかいていた。ラグザの影響なのか僕自身によるものかアリシアの一挙手一投足が可愛く見えてしまっている。


「ふふ。これからも困ったときは教えてくださいね。私、水属性の魔法が得意なので回復はお手の物なのです!あ、あと明日までにセツナさんの靴になるようなもの見繕っておきますね」


 満面の笑顔なアリシアだった。


 ――ドクン


 僕の心臓が高鳴る。この状態は色々な意味で危ない…。


「あー……お二人さん今いいかね?」


「!!あぁ……!大丈夫だ……」


 いいタイミングでユーシアが声をかけてくれた。僕は自分の気持ちを悟られないように返事をした。


「いや何、この近くに湖があるから水浴びしてきていいぞと…な。浄化魔法だけじゃ気分も晴れないし、アリシアから行ってきていいぞ」


「そうですね、では兄さん、セツナさん先にちょっと失礼しますね」


「あ……、アリシア。そういえば一つ聞きたいことがあったんだ」


「はい?」


 不思議そうにアリシアが振り返る。そう。僕は聞きたかったのだ。この世界に降り立って少しした時に頭の中に響いてきた声。あの声はアリシアのものだったのかを――


「この世界に思ったことを伝える魔法ってあるのかな?例えば助けてほしいときに遠くの人に届かせるみたいな……」


「えっと……遠くの人と連絡を取りあう魔法具はあると聞いたことがありますけど、魔法でそんなことできるとは聞いたことありませんね。それがどうかしたんですか?」


「いや、ありがとう。ちょっと気になっただけだから何でもないよ。ごめんね、水浴びいってらっしゃい」


「はい、いってきます……?」


 アリシアは頭にハテナマークを浮かべた様な様子だったが、特に気にすることなく湖の方へ消えて行ったのだった。

 どういうことだろう。僕ははっきりと聞くことが何故か出来なかった。助けてと叫んだのは君なのか――と。

 あの声は本当にアリシアだったのだろうか。それとも……アーリャが何かを伝えようとしていた――?

 そんな僕の悩みとは裏腹に、アリシアが見えなくなった辺りで唐突にユーシアが話しかけてきたのだ。


「さて、セツナ。少し、うむ…ほんとすこーしだけアリシアのことで話をしようか。……覗きなんてさせないからな」


「ユーシア……さん?」


 表情が怖いよユーシア……

 何故か笑顔なのに額に青筋を浮かべているユーシア。

 それからアリシアが戻ってくるまでの数十分。僕はユーシアに対して弁解をし続けるのだった。シスコン怖い……笑いながら時折素で話してくるユーシアの眼は本気だった……。

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