間接的なアレ

 作ったご飯は、瑞貴がしっかりと食べてくれた。

 それは嬉しかったんだけど、弱ってて食べさせてあげるのも楽しかったから、またしたかった。それができなかったのが残念だ。


「ねえ、瑞貴」

「どうした?」


 洗い物している最中、ボクは瑞貴に話しかけた。

 瑞貴がやるって言ってたけど、折角だし、ボクがやることにした。

 家事は結構好きだからね。

 今日はこの為に戦闘服エプロンも持参しているんだから。


「瑞貴が良かったら、夕御飯も食べに来る?」


 細やかな提案だ。どうせ作るのなら二人分も三人分も大差がない。

 食費だけ払ってくれればいいし。


「あ、でも桜華に許可貰ってからだ!」


 すっかり自宅の気持ちが強くなってて忘れてたけど、ボク下宿してる立場だった!

 炊事に洗濯掃除って全部ボクがやってるから、自宅のつもりだったよ!

 多分桜華より、笹川家の事詳しい自信ある。


「それは嬉しい申し出だけど、いいのか?」

「ボクはいいよ。一人寂しく食べるより、友達と食べる方が楽しいじゃない?」

「ふうむ……。ちっと考えさせてくれ。燈佳の作る飯は美味いから嬉しいんだけど、やっぱり、人様の家に上がり込んで飯をたかるってのは考え物だ」


 やっぱり、そこは気になっちゃうのか。


「じゃあ、ボクが作りに来ようか?」

「……それも嬉しい申し出だけど、女子が一人で、一人暮らしの男子の家に来るものじゃないだろ……」


 あー……。

 そういえばボク女の子だったね。もうなんか、ボクはボクって感じで、ナチュラルに行動してた。性別とかそういうのあんまり気にしてなさ過ぎたなあ……。


「なあ、燈佳……、そんなに無防備だと、俺、我慢するの大変なんだぞ……?」

「……しなくても……いいよ……」


 水の音にかき消されるほどの小さな声でボクは応えた。

 顔から火が出てしまいそうな程に熱くなってきた。

 だって……、まさか瑞貴がボクの事、そういう目で見てるなんて思わなかったから。それがたまらなく嬉しくて……。


「何か言ったか?」


 難聴主人公みたいな台詞を言う瑞貴。

 だけど、今もう一度我慢しなくて良いのになんて流石に口にできなかった。


「な、何でも無いよ! め、迷惑だったら控えるから、言ってね!」


 心にもないことを言ってしまった。

 もっと瑞貴のお世話したい……。

 控えるつもりなんて全くといって良いほど無いんだから。


「迷惑なんかじゃないんだけどな……」


 あーとかんーとか言葉を探ってる瑞貴がおかしくて、ついつい小さく笑ってしまった。

 男は狼だもん。気をつけないとね。

 でも、瑞貴はなんだかんだで優しくしてくれるから好き。

 よく言えば紳士。悪く言えばヘタレだから。


 あっちの方はそれこそ獣だったりしたらそれはそれで……。

 っと、いけない。妄想が暴走する。


「でも、やっぱり女子が一人で一人暮らしの男の家に来るのは良くないな。来るなら二人以上だ。住宅街だから、ここら辺危ないしな」


 えっとそれじゃあ、桜華と一緒ならいいのかな……。

 でも、なんかボクが瑞貴にご飯を作りたいが為に桜華をダシに使ってる感じだからちょっと嫌だな。

 できるなら、桜華を巻き込まない形で瑞貴の役に立ちたいけど……。


「でも、また瑞貴が風邪引いたら心配……」

「流石にもうない! 大丈夫だ!!」


 鼻声でそんな事言われても全くもって説得力は無いんだけれど、この調子でいったら話は平行線を辿りそうだ。

 しょうがないから、お世話の件についてはボクが譲歩する事にしよう。


「わかった……。でも、何かあったらすぐに呼んでね?」

「何かあったら頼りにするよ。女子に頼るのって情けないけどな」

「そ、そんなことない!!」


 誰かを頼りにするってそれだけでも勇気の要る行動なんだから、男だろうが女だろうが、頼りにされる方は嬉しいに決まってる!

 瑞貴が風邪を引いたから休むって伝えてくれって、メッセージ貰ったのだって、ボクは嬉しかったんだから。

 だからこそ、心配になって押しかける形になったけれど!


「えっと、誰かに頼れるなんて凄い事だよ……。ボクなんて誰にも頼れなかった結果が中学の時の引き籠もりだし……。それに、瑞貴がボクを真っ先に頼ってきてくれたの嬉しかったし」


 力説するボクの言葉に、瑞貴はそっかと呟くだけだった。

 済んだ洗い物の後始末をして、ボクはまた瑞貴の背中に背中合わせで座る。

 この場所気に入っちゃった。


「瑞貴が心配してくれるのも嬉しいし、頼りにしてくれるのも嬉しい。瑞貴は違うのかな」

「いや、ちげーねえや。確かに誰かに頼りにされるのは嬉しいな。秘密を共有したりするのもなんだかんだで、特別な感じだな」


 背中越しの表情が見えない同士の会話。

 なんか、近くに居るのに、ゲーム内でチャットをしているような感じがして面白い。

 だけど、やっぱり触れ合ってる体温とかそういうのは感じるから、言葉にできない面映ゆさがある。

 うしろからぎゅって抱きつきたいけど、今はそう言うのじゃないんだ。

 そういうのは暫く我慢する……!


 暫く、ぼんやりとした時間が流れる。

 背中にお互いの体温を感じながら、ボクはバラエティ番組の音だけを耳にする。

 体育座りで、膝に頭を置いて。

 ずっと、この時間が続けば良いなっておもって。


 そしてふと、頭をよぎった言葉があった。


「そういえば、さ」

「なんだ?」

「えっと……お祭りの日に瑞貴から言うって言ってた話、いつしてくれるのかな」

「あ……あー……すまん、もうちょっと待ってくれても良いか。待たせて悪いけれど……」

「ううん、大丈夫。ボク心の準備はいつでもできてるから、瑞貴の都合の良いときで良いよ」

「すまん。ちょっと家族の問題にケリつけてくる」

「ん、頑張って。応援しかできないけど」

「いや、十分だよ。心強い。昨日もだけど今日もありがとな」


 お礼を言われるのがむず痒い。

 だって、いつも助けてくれる恩返しだもん。

 それに、ボクは瑞貴の事がすきだし。

 好きな人には無条件で何かしてあげたくなる。

 だから、お礼なんていいんだけど、それを受け取らないのは相手に失礼だ。


「へへ……、どういたしまして」


 変な笑い方になったけど、お礼を受け取った。

 名残惜しいけど、そろそろ帰らなきゃだ。


「よしっ……。じゃあ、ボク帰るね」

「おう。送っていこうか?」

「病み上がりは寝てて。康文さんに貰ったお金が残ってるから、タクシー代にするよ!」

「じゃあ、タクシー呼ぶから来るまで待ってろ」

「うん、そうする。何か飲み物いる?」

「……それを言うのは俺だと思うんだがなあ。じゃあ、またコーヒーで。今度はぬるめで頼むよ!」

「うん!」

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