予期せぬ邂逅
「瑞貴、行こう?」
着替えを済ませて、瑞貴とデートだ! 文化祭デート。こういうのにあこがれはあったんだ。相手が男の子か女の子かの違いだけれど!
今は瑞貴が隣にいてくれて凄く嬉しい。
「ちょっと待ってくれー!」
「いやー、早くしてよー!」
クラスメイトに捕まってる瑞貴の制服を引っ張って、ボクは瑞貴を急かす。
もう今のボクにはこの行為を恥ずかしい物だとは思わないし、緋翠に取られないための最大限のアピールだと思っている。
ボクの事を微笑ましい目で見てくるクラスメイトにも慣れたし、ボク達のことが上級生に知れ渡ってるのもこの際受け入れよう。
「榊、もう少しだけ待ってくれ! 俺は……俺はコイツを殺らねばならん!」
「同じくである!」
手島くんと溝口くんに手ひどくやられている、瑞貴を見るとなんというかやっぱり少しだけうらやましさが勝る。今のボクには出来ない事だ。こういうこともやりたかったなって憧れがあったことに、少しだけ驚いてしまった。
「早くしてよねー、そうしないと脛を一番痛い方法で蹴る!」
クラスメイトとはこの一か月でとても仲良くなれた。
排他的なことは一切していなかったんだけど、やっぱり渡辺さんとの事もあって、とりあえずは触らないでおこうという思いが強かったみんな。
特にボクは、瑞貴や桜華に守られていたから近寄りがたかったって言われた。
「榊さんのはマジで痛いからやめてくれ」
「手島くんにはやってないんと思うんだけど?」
「やられたよ!! 姫じゃなくて女王的な何かだったよ!?」
「あれえ……。いつやったっけ……」
「覚えて無いならいいです」
確かに準備中そう言うことをやった覚えはあるけど……誰にやったかまでは覚えて……。あー……うん、あれだ。瑞貴意外の男子が誰が誰だかわからなかったってことにしよう、そうしよう。
「なんか、ごめんね?」
「いや、二学期入ってから榊さんと話しやすくなったからいいよ。できればクラスみんな仲がいい方がいいからね」
「あはは、それはごめんとしか……」
ボクにだって色々あったんだ。しょうがないのです。
とりあえず、一頻り瑞貴がもみくちゃにされるのを眺めていた。
助け船は出さなかったけど、まあ、じゃれ合いだしそれでいいと思った。楽しそうだったし。
「やっと解放されたぜ……」
「お疲れ」
「助けてくれても良かっただろ!」
えー、あそこで、ボクが助けるの? なんか流石にそれは空気読めない系女子な感じがしてならない。ボクは空気読める系女子を目指すのです。
教室から出て、出し物を回る。昨日は練り歩きで殆ど何もできなかったけれど、今日は他のクラスの展示物とか色々見ることができる。
ボク達二人のデートって訳じゃないのがあれだけどね。
明らかに後ろから二人ほど尾行してきてるし!
別にいいけどね! 疚しいことしたいけど、我慢するし!!
「お化け屋敷とか作る人本当にいたんだ……」
「あれは漫画とかそこら辺の世界だと思ってたんだが……」
ボク達は驚いていた。
あまりにもチープな出来のお化け屋敷である。
時折中から、女子の「きゃあ♡」なんていうわざとらしい悲鳴が聞こえるけど、うーん……。
「どうするよ」
「面白くなさそうだからパス!」
「だよなー……」
ボクの忌憚の無い意見に受付の人が落胆していた。
だって、一か月も時間があればもうちょっとディテールに凝った物ができたと思うんだけど。明らかにちゃちだし。サボってたツケだよねえ。
と、そんなかんじで、色々冷やかして回っていると……どうして?
「どうした」
急に立ち止まったボクに瑞貴が心配そうな声を掛けてくる。
廊下の先、物珍しそうに当たりを見回している父兄の中にいるのだ……。
ボクの母さんが・・・・・・・居るのを見つけてしまった。
あり得ない話ではない。学校のイベントなんか父兄になにがしかの連絡が行くのは当たり前だ。通知表についても、鈴音先生から性別は男で送っておいたと言われた。だから、ここに家族が居てもなんら不思議ではないのだ。
「あ、おばさん、こんにちは」
「あらぁ、桜華ちゃん! 髪切ったのねー。すぐには誰かわからなかったわ」
桜華がすぐに飛び出てきてくれた。
まだ、その時じゃないってわかってくれている。
両親にどう対応しようかと思ったけど、詰め切れていないのだ。
「息子見なかった? いくら探しても見当たらないのよー」
息子という単語に心臓が跳ねる。
怖い……物凄く怖い。桜華が矢面に立ってくれているけれども、それでも矛先がこちらに向くのが怖い。
「えっと……私も詳しくは……。最近よく一人・・・・で行動してるから」
「そうなの! そうなの……。一人で行動できるようになったのね……」
桜華がボクに目配せをしてくる。
早くここから離れてって、そう言っている気がした。
「瑞貴、行こう?」
ボクは瑞貴の手を取ってその場を離れた。
今はまだダメだ……。ただでさえ引き籠もって迷惑を掛けた母さんに、今この場で狂乱されては困る。
ちゃんとした手順を踏んで、安全が確保できてるところで話をしたい。
「ん? お、おう。笹川さんってこの学校に燈佳意外の知り合いいたのか?」
「し、しらない……」
嘘に嘘を重ねる。
だけど、今はそんなのに気を払ってる余裕はない。一刻も早くここから離れないと。足止めしてくれている桜華もいつボロが出るかわからない。
何れは話をしなければいけないことだけれど……。
もう暫くは浸らせて欲しい……。このぬるま湯のような学園生活に。
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