謝って元通り?

 ううむ……オリジナルドリンクと思わしきこれ、美味しいんだけど、なんか意味深な味がする……。栄養ドリンク的な感じ。マカとかそういうの一杯入ってそう。


「なんか……凄い味だね、これ」

「美味いんだけどなあ……」


 ボク達の感想は似たり寄ったりだ。

 お互い直接的には言わないけど、これ絶対精力剤とかそういうのだよねえ……。

 あーもう……今日は落ち着いてたのに、そういうことを意識させられたらイヤでもスイッチ入っちゃうよ……。

 正直に言えば、ボクは瑞貴とそう言う事したい。求めたいし求められたい。

 けど、瑞貴はそうじゃないかもしれないし……。それにボク達はまだ正式にお付き合いをしているわけじゃあない。間接的に好意は伝え合えたとは思うけど……。


「も、戻ろうぜ!」


 気まずい空気。

 いつもなら目を合わせてても平気なのに、どうしてか今は目を合わせるのが気まずかった。

 弱った瑞貴を愛おしく思ったからだろうか。

 生理がまだ終わってないからだろうか……。

 本能に任せたら、今すぐにでも瑞貴の手を取って無理矢理触って貰うかも知れない。


「う、うん」


 小さく頷いて、ごちそうさまと伝言を書いて教室に戻った。

 体を動かせば、この気持ち少しは紛れるかな……。


「先に行く!」


 瑞貴を置いて走る。体を動かして浮いてきたもやもやを発散したかった!


「あ、ちょっ!!」


 不意を突かれた瑞貴がすぐに追ってくるのが分かる。

 けどやっぱり、男と女。体力差とか筋力差とか、体格差とか色々な要素が絡み合って、すぐに追いつかれてしまった。

 でも別にそれでいい。それがボクが女になったんだって感じさせてくれて、少し満たされるから。たまらなく嬉しいから。


 競争もすぐに終わって、笑いながら教室に戻る。

 どこの教室も活発な意見が交わされてて、賑やかだけど、ボク達のクラスだけはお通夜のように静まりかえっていた。


「さて、瑞貴さん」

「なにかな、燈佳さん……」

「この空気、どう収拾つける気?」

「ま、任せろ……」


 若干青ざめたような様子で、瑞貴が教室の扉に手をかけた。

 LHRが終わるまであと五分。

 だけど、出し物が決まらなければ放課後までずれ込むのは明白だ。


 あまりにもその震えっぷりがおかしくて、ボクはそっと手を重ねた。


「頼って良いんだよ? 一緒に開けよ。瑞貴の今の気持ちよくわかるから」


 誰でも良いから、一緒にこの閉ざされた扉を開けて欲しい。

 ボクが中学生の時、ついぞ叶わなかった願いだ。

 クラス内の雰囲気を最悪まで落とし込み、腫れ物に触るような扱いを受けて、クラスにはどんどん足が遠のいていった。

 誰かが、一緒に最悪の雰囲気のクラスへ招待してくれるように扉を開けてくれたら、ボクの今も違っていたのかも知れない。


「すまん……」

「そこは、ありがとうって言ってよ」

「あ、ああ。ありがとう」

「うん! じゃあ、せーので!」


 小さくせーのって言って扉を開けた。

 クラス内の視線が一斉にボク達に集まる。だけど、ボクはもうめげない。


「薬飲ませて戻ってきたよ!」

「おう……少し横になったら楽になったから戻ってきた。なんかすまんかった」


 安堵と、今更何しに来たんだよと言うやっかみと、他色々。

 空席は四つ。

 ボク達の所がぽっかりと空いている。

 緋翠と桜華は出て行ったみたいだ。


「相月は……いないか。あー、手島、初雪さん、今どんな感じに?」


 黒板にはとりあえずといった感じでやりたいことがつらつらと書かれているが、圧倒的に量が少なかった。

 やっぱり、最初のアレが尾を引いているらしい。


「見ての通り、きみのせいでさっぱりだけど?」

「わ、悪い……」

「相月さんは笹川さんに連れられて出て行ったよ。全く女の子泣かせるなんて碌な奴じゃないね」

「それについてはぐうの音も出ないほどに全面的に俺が悪い。だけどもう大丈夫だ」


 話し合いをしている瑞貴の背中が頼もしい。

 確かにこれならもう安心だ。

 ボクはコッソリとでもないけど、桜華と連絡を取る。

 もう大丈夫だから戻ってくるようにとメッセージを投げて席に戻った。

 多分、もう大丈夫だ。


 それから、ステージの出し物はまた後日改めて決めることとなり、三々五々に解散していった。

 今日はそれが一番だと思う。

 禍根は残らなかったけれど、雰囲気が最悪だ。


「相月、今日は悪かった」

「ううん、いい。瑞貴の気持ちを考えなかったあたしも悪いから……」


 バツの悪そうな顔をした瑞貴と目を真っ赤に腫らした緋翠が、お互いに謝り合っている。


「瑞貴の気持ち分からなくてごめんね」

「いいよ……。俺も話をしていない所があったからな。後でちゃんと話すよ」


 それが良いと思う。一般的には信じがたい話だけど、ボクが男だって事を受け入れてくれた緋翠なら信じてくれると思う。

 だから、瑞貴は安心して事のあらましを……なんで脚本を作ることが地雷になったのかを教えてしまえばいいと思う。

 緋翠は多分嫉妬を覚えると思うけど。ボクだってちょっと嫉妬しちゃったし。

 消えた人には敵わないよ……。


「相月、明日どうなるか次第だけど、もしあれだったら、劇やろうぜ。俺、脚本書くからさ」

「いい、の?」


 また、涙を浮かべる緋翠だ。女の涙は武器なんだからずるい。ずるいずるい!

 でもボクだってみっともなく泣いたりするし、仕方ないよね。気持ちが溢れちゃうんだもん。


「ああ、配役はどうなるか分からないけど、またやろう」

「嬉しい……」


 とりあえず一件落着かな。

 良かった良かった。

 ボクの心はちょっともやっとするけど。

 しょうがないじゃん……。好きな人が他の女の子に優しくしてるのみたら、例え仲のいい子でも嫉妬しちゃうよ。


「燈佳」

「なあに?」

「顔に出てるから、気をつけようね」


 桜華に窘められた。

 そんなに顔に出てたのかっ!

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