朝のひととき
一夜明けて。
少しだけ眠れた。なんで、瑞貴はずっとボクの側に居やがりますかね……。
嬉しい反面、早くどっかいってと思いつつ寝たふりを続けてた。
途中桜華ちゃんがやってきて、惨状を確認した後。ぽつりと言った一言がとても耳に残ってる。
それは何かって? しょうが無いからトイレでなら許してあげるという台詞だ。
流石にそろそろボクでもその意味は分かる。だけど、男の人ってトイレでするものなのでしょうか。ボクには分かりません。元男なのに精通まだだったからね。
それに対して、瑞貴がしどろもどろに答えてたのが可笑しくて笑いそうになった。
「んぅ……」
眠れたような眠れなかったような不思議な気持ち。
昨日のあのふわふわした思いは嘘のように静まっていた。でも、凄く大胆なことをしたと言う思いはある。
時刻は朝の五時を少し回った所。少し寝坊ではあるけれど、問題は無い。
洗面所で顔を洗って、朝食の用意をする。
ついでに二人のお弁当も用意して……。
今日はボクの分は無し。多分、今日くらいは一人で病院まで行けるんじゃ無いかな。そう思いたい。今のところ、フラッシュバックも無い。というか盛大に家で恥ずかしいことをしてしまったからそっちで上書きされたんじゃ……
「うーわー……どうして……どうしてボクはあんなことを……」
昨日だけで一体どれだけ恥の上塗りをした?
えっと……。人様の家で自慰をして、多分瑞貴の事が好きだと自覚して、瑞貴の顔が見られなくなって、でも側に居て欲しくて、挙句には抱きついて……ギャアアア……。恥ずかしい……恥ずかしくて死にそう……
「って、うわわ、こ、焦げる!!」
慌てて、火を止めて、作っていた目玉焼きを皿に逃がす。
だめだよ。料理してるときに別のこと考えちゃ……。
ああ、もう。いつもなら絶対やらないミスなのに。
溜息。何やってんだボクは……。
幸いどれもちょっと焼き色がきつい感じになったくらいで、大事には至ってないけれど、これ見る人が見たら色々察しちゃうよなあ。でも捨てるのは勿体ないし、かといってタマゴ三個を朝から食べるのはきつい。栄養面でもダメだし。
「いいや、いれちゃえ。もう何か言われても瑞貴が悪いってことにしよう。そうしよう」
たまには失敗もあるさ、ボクだって人間だし、昨日は大変な目に遭ったばかりだし。
そういうことにしよう。それが一番だ、うん。
そして、三人分のお弁当を作る。瑞貴と桜華ちゃんと緋翠ちゃんの分。
ボクは多分学校に行けてもお昼を過ぎるだろうし、それにたまには外でお昼を摂るのも悪くは無い。昨日を乗り越えた自分へのご褒美だ!
出来上がったのをお弁当箱に詰めて、瑞貴のは無骨に、桜華ちゃんと緋翠ちゃんのは見栄え良く。できたと思う。みんなのを纏めて凝って作ってたら、瑞貴が文句を言ったのだ。だから重箱になったんだけど、流石に重箱を三人で食べきるのは厳しいと思うから、今日は手を入れてみた。
「後は朝ご飯を作って……」
キッチンに備え付けられた時計を見ると、もう六時を回っている。
そろそろ二人を起こすべきだろう。
桜華ちゃんはいいとして……。瑞貴かあ……。
「あう……、顔合わせられないなあ……」
寝顔なんて見た日には一体どうなってしまうんだろう。またぴんくいスイッチ入っちゃうんじゃないのかな……。ううむ……。
とりあえず、着替えよう。
今日は……、制服の方がいいかな。ちゃんと学校にも行くつもりだし。
一度部屋に戻って着替えを取って、色々纏めてやるために洗面所に向かう。
洗濯物とかもあるしね。
パジャマを脱いで、寝癖を取っていると……、ガチャリと言う音がして、洗面所の扉が開いた……?
え……? この時間、誰も起きて……ない、はず、なのに?
「ふあーあ……ねみー……」
え、え、え……待って待って。瑞貴ってこの時間に起きるの……!?
「ひっ……」
「んあ……」
目と目がばっちりと会う。瑞貴の眠そうな目が、しっかりとボクを見据えてる。
上から下まで、そして下から上まで見られた。
そして、一拍の間をおいて、
「きゃああ!!」
「ご、ごめん!!」
慌てて瑞貴が洗面所から出て行く。
み、みら……みられ……。
「うわあああああ!! 瑞貴のばかああああ!!」
「ホント悪かったって!! 居るとは思わなかったんだよ!!」
ボクの生活時間知ってるくせに、予測すれば分かりそうな物なのに!! 酷い。酷すぎる。
しかも見られたのがまだ付け替えてない夜用のだし……。せ、せめて後十分遅ければ可愛いのにしたのに! もうホント神様の悪戯はいつも気まぐれだ。
「もう少しだけ待ってね」
「おう……」
扉越しに言って、手早く着替えてしまう。
ダメだ。見られて驚いたけど、嬉しいって思ってるボクがいる。うう……なんだこれ。やっぱり、ボクは瑞貴のこと、好きなのかな……?
「お待たせ」
「うむ……。って、制服? 学校行けるのか?」
「朝は病院行ってくるよ。お昼から渡瀬先生にできれば来てくれって言われてるから頑張ってみる!」
「そうか、無理すんなよ」
そういって、頭をぽふっとされる。もうそれだけで嬉しくて、今日一日頑張れそうな気がするよ……。
キッチンに戻って朝食を作っていると、桜華ちゃんがやってきた。
「煩かったんだけど、何かあったの……?」
「う、うん、まあちょっと……」
「大方瀬野くんに着替え見られたとかそう言うところでしょ」
「な、なんで!!」
なんで、分かるの、見てたの? ねえ見てたの!?
その眠そうなのは演技ですか、演技なのですか!?
「今の燈佳ちゃんが悲鳴上げるレベルはそれくらいまで下がってるんじゃ無いかなって」
「下がるって……」
「だって、前は別に裸を見られても平気だったじゃない?」
まあ、確かに。正直今は、下着姿もだけど、薄手の服着てるときはあんまり見られたく無いかも。恥ずかしいし……。
「悲鳴も女の子っぽくなってるし。もう燈佳ちゃんは女の子だね……」
「なんでそんな悲しい顔するの?」
「気にしないで。ちょっと残念だなって思っただけだから。燈佳くんとエッチできないのが……」
「朝から何言ってるの!? それに瑞貴に聞かれたどうするの!!」
「別にどうも? 私が変な目で見られるだけだし」
ああ、そう。桜華ちゃんはぶれないなあ。
ううむ……しかし、本当になんで見られて恥ずかしかったり嬉しかったりするんだろう……不思議だ。
「おはよう。燈佳さっきはすまんかった……」
リビングに入ってくるなり瑞貴が謝ってくる。
ボクはもう気にしてないからいいんだけど。
「女の子が住んでる家に泊まってるって自覚した方がいいよ、瀬野くん」
「分かってる……。俺も迂闊だった。だから本当に悪いと思ってる!!」
「まあ、燈佳ちゃんは、そこまで気にしてないから、私もこれ以上は何も言わない」
「そうか。家主に許して貰えて助かるよ」
何事も無く丸く収まって良かった良かった。
「朝ご飯できたしたべよー?」
ボクはテーブルに作った朝ご飯を並べながら言った。
メニューはありきたりな物ばかりだ。瑞貴にはちょっと量が少ないかも知れない。
サラダと小さめのオムレツと、トーストと。それから飲み物を今から入れる。
なんか、平和な朝って感じがしていいなあ。
昨日のことが嘘みたいだ!
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