ボクの戦場
宿泊施設に着いたときに盛大にからかわれた。
なぜか、瀬野くんは顔が真っ赤だし。一体寝てる時にボクは何をしたんだ……。
「ねえ、ボクは一体何をしたの!?」
夕食までボクはみんなに聞き回るハメになったけど、誰一人教えてくれなかった。
一様にみんなニヤニヤしてるし、本当にボクは一体何をやったんだ!!
まあ、いい。ボクの戦場はここからだ。エプロンはボクの戦闘服!
エプロンを着けて、桜華ちゃんに髪を結って貰った。
周りから出来る女みたいって言われたけど、料理に髪の毛とか入ったら嫌だからね。そもそも出来る女なら、髪は自分で結えると思うんです。
髪の毛が料理に入るって、それだけでしょんぼり事案になるから避けないと。
是非とも美味しいカレーを振る舞う。
みんなに馬鹿にされてるんだ、実力というものを思い知らせてやる!!
で、なぜか野外、しかも火力調節の難しいカマドなわけです。
「にゃー。カマドだあ。懐かしいにゃー」
「くるにゃん、カマド使えるの?」
「ふっふっふ、トーカ、自慢じゃ無いけどボクはトーカよりできないけど、料理が出来るのさ!」
「ホントに? それじゃあ、手伝いよろしくね」
意外だ。くるにゃんが料理出来るなんて。
正直桜華ちゃんレベルだとばかり思っていた。
「え、えっと……姫ちゃん、や、野菜ってどうすればいいの?」
「緋翠ちゃん、座って見といて」
「あ、はい……」
緋翠ちゃんは戦力外。
多分料理をしたことがないのかも。
でも一人暮らしって聞いたけど、ご飯とかどうしてるのかな。
今度お弁当四人分に増やした方がいいのかな。
でも、緋翠ちゃんいつもお弁当持ってたよね。もしかして中身レンチンの品ばかりだったり……?
「桜華ちゃんも、邪魔だから座ってみとく」
「え、あ、うん」
ボクの後ろをうろうろしてたから先に釘を刺しておいた。
「おい、健ちゃん、姫さまが鬼軍曹だ……」
「ああ……どうする、手伝いはするか?」
「俺家庭科以外で料理したことねーよ」
「俺もだ」
「男子二人は力仕事とボクのパシリ、いいね」
「「い、いえっさー!!」
よし、部隊配置は整った。
「くるにゃん、とりあえず火はまだいいから、野菜の皮むきして、にんじんとじゃがいも。タマネギは水にさらしてからね。瀬野くんと立川くんは今から渡すメモの物持ってきて」
ちょっとばっちいけど、スマホに必要な物を書き出した二人に送信。
基本的な調味料の塩と砂糖、それに醤油にみりん、ケチャップ、中濃ソースにウスターソース。後は顆粒のコンソメと、あれば嬉しいけど無ければないでどうにかなるキムチの元。
キムチの元はスプーン一杯溶かすだけで、カレーがぴりっとした辛さになって美味しいんだ。
流石に女子が居るからにんにくを使うのはやめておく。風味付けでおろして入れると美味しいんだけどね。翌日ニオイがするから嫌がられそう。
「おい……健ちゃん、ソース二種類書いてあるけどわかるか……?」
「わからん。榊に聞くべきだろ……」
「中濃はどろっとしてるの、ウスターはさらっとしてるの。分からないなら聞いて」
「「う、うす」」
準備にゆっくり時間を掛けていても仕方がない。
下ごしらえは手早く済ませて、煮込む時間を確保する。
「にゃーん、皮むきおわりー!」
「ありがと、カマドに火熾して、鍋の水沸騰させて。水足りないなら男二人のどっちかに持ってこさせて」
「はいにゃー」
見てなかったけどくるにゃんの皮むきが早くて助かった。
うん、しっかり出来てるって、すごい。包丁で螺旋で一本物って。凄い技術だ。ボクでもまだここまで出来ないのに。
ボクより料理が出来ないって謙遜なんじゃないの?
「ごめん、二人に仕事。お米洗って、水に晒して」
「あ、うん」
「洗剤で洗うとかベタな事はいらないから」
「し、しないわよ!」
緋翠ちゃんの慌てた声。ちょっと頭に過ぎったのかもね。
事故は未然に防ぐべし。
そもそも洗剤でお米を洗うとか、食材に対する冒涜だ。
バケツに汲まれた手洗い用の水で一度手を洗って、さあ、ボクの出番だ。
見よ、この包丁捌きを!
っと、その前に。
「お米は桜華ちゃんで、緋翠ちゃんボクが切った食材を皿に取っていって。ちゃんと手洗ってからね」
「う、うん。わかった!」
本当は一度ずつまな板を洗いたいけれど、水も限られているから仕方がない。
布巾を濡らして拭くだけに留めよう。
野菜を切る順番はどうでもいい。
まあ、やりやすいジャガイモから。
芽もしっかり取ってあるし、腕前が見て取れる。驚きの才能だ。
ただの黒猫さんじゃ無かったんだ……。
ジャガイモを半分に切って、さらにそれを縦半分に。できる限り大きさが当分になるように切り分ける。六人前の量は結構あるけれど、ジャガイモの角がカレーに溶けてくると物凄い美味しくなるんだよね。
それでにんじんも同じ感じで切り分けて、タマネギは千切りに。
うん、水の晒し具合もいい感じで、目にしみない。
くるにゃんいい仕事するなあ!
「姫ちゃんの速度についていけない!」
「これでも緋翠ちゃんの回収速度に合わせてるからゆっくりだよ」
「嘘でしょ!?」
まな板を一度しっかり拭いて、最後は牛肉を切り分ける。
ボクが作るときは切り落としとかを使うんだけど、今回用意してあったのはブロックの塊だからちょっと手間だ。
「くるにゃん、たまねぎ炒めて。ちょっと色がついたらそのまま鍋に入れていいから」
「にゃあ♪」
火の調整をしてたくるにゃんにたまねぎを任せる。
ホントは牛肉を炒めた後で炒めたかったけど、肉汁も纏めて鍋に入れればいいやの結論で作業を前後させる。
料理は臨機応変と目分量が大事。
きっちりかっちり計るのは初心者。でもそれでしっかり料理ができない限り初心者はへたにアレンジを加えないに限る。
牛肉を一口大に切り分けて、
「緋翠ちゃん、全部終わったらくるにゃんのところに持って行って」
「う、うん、分かった!」
終わり次第、並行して洗い物を纏める。
なるべく無駄な時間は省くに限る。
「えっと、燈佳くん、これでいい?」
「うん。じゃあ、次洗い物お願い」
「もうちょっとゆっくりでいいんじゃない、まだ他の所火すら熾してないよ?」
「何言ってるの! カレーは煮込みが大事。火の番が居ればその人に任せて、後何品か作れるでしょ!? カレーだけじゃ無くて、汁物にサラダまで作るからね!」
「おお……燈佳くんが久々に生き生きしてる……。サラダの食材も適当に見繕ってくるね」
「レタスとトマトときゅうり、それにコーン缶にツナ缶があればいいよ。ドレッシングはうん、瀬野くんと立川くんに取ってこさせる」
追加のオーダー。
酢と油も持ってきてっと。
砂糖と塩は既に頼んであるからね。
「緋翠ちゃん、汁物なにがいい?」
「え、ええ、急に振られても! こ、コンソメスープ?」
「ん、分かった。くるにゃん、たまねぎまだ入れてない?」
「まだ炒めてるー」
「オッケー、汁物に入れる分適当に取り分けておいて」
「了解にゃー」
うむ、うむ。いい感じにみんなが動いてくれてる。
カレーの味が濃いから、汁物は顆粒コンソメを溶かしてスープ自体で味を調えるあっさり風味で行こう。
まあボクが具だくさんのスープがあんまり好きじゃないだけなんだけどね。
っと、追加オーダーまた出さないと。胡椒おねがいっと。
さてとりあえず一段落。
といっても、今から野菜を一度炒めて、鍋で煮込むんだけど、この調子じゃくるにゃんがとっても戦力として役に立つから任せてもいいんだよね。
「よっし、姫さま調味料全部調達してきたぞー」
「あ、ありがと。それじゃ、ドレッシング作って。酢と油と砂糖と塩を適当に混ぜるだけだから」
「適当って。一番難しいじゃねーか!」
「あはは。えっとね一人前だと、酢3グラム、油3グラム、砂糖1グラム、塩ちょっとかな」
「無理無理無理。計り器くれ!!」
「もう、冗談だって。目分量の所はボクがやるから、後は適当にしてていいよ」
話ながら、ボウルにざっと入れ込んで、ささっと混ぜ始める。
これくらいなら、実は分量ちょっと間違えたくらいじゃ大惨事にはならない。手作りのドレッシングって大体適当にやってもおいしいからね。
「見てるだけってのもなあ」
「ここはボクの戦場だからいいの。助手はくるにゃんがいるから!」
「にゃんにゃん料理できたのか、意外すぎる」
「多分ボクより上手だよ」
「マジで……?」
「まじまじ、よしできたっと」
ちょっと多めに作ってドレッシングの完成。
サラダはトマトときゅうりを切って適当に盛り付けるだけだから、最後に回すとして。
「そろそろ煮込むにゃー。トーカ後味付け任せた! スープはボクが作るよ-。ちょっと薄めがいいかにゃ?」
「あ、うん。あ、そうだ、瀬野くん、立川くんと二人でご飯炊いてきて、飯ごうに入ってるから後火に掛けるだけだし。でも、もう少し置いた方がいいかも、今から日が暮れるまでは煮込むから」
「厄介払いか!」
「えっと、流石に料理出来ない女の子二人に火の番はさせられないから」
「……そうだな。榊の配慮は正しい。男の怪我は勲章だからな」
うん、そう言うこと。
ボクも父さんに言われたことがあったから、ふと思い出してしまった。
立川くんも似たようなこと言われたことあるのかな。
「燈佳くんが生き生きしてる、格好いい……」
「あんなはつらつな姫ちゃん見るの初めてだけど、てきぱきと料理出来る女の子ってやっぱりすごいなあ。あたしも慣れるのかなあ……」
「燈佳くんに女子力のなんたるかを聞くべし」
「うう、でも姫ちゃんに教わるのはなんか癪!」
「そう。じゃあ私だけ教わる」
「あ、ずるい!」
洗い物をしながら桜華ちゃんと緋翠ちゃんが言いあってる。
とりあえず、ボクはそっちの情報をシャットアウトして、鍋から漂う声に耳を傾けよう。
調味料の投入のタイミングとか、後は培われてきた勘に寄るところが大きいからね。
まずは、砂糖と醤油、それに塩を入れて似非肉じゃが風にする。
そこにみりんを入れて、一度味を見る。
ちょっと薄いかな……。
何が薄いかは舌で感じた直感に任せる。大体醤油なんだけど。
味が調ったところで、カレールーを入れる。
そのままじゃただのさらさらカレーだけど、煮込む時間を増やしてとろとろに仕上げていくのです。
混ぜて、カレーの良い匂いが漂ってきた。
「二班早すぎる……もう煮込んでるとか……」
カレーの匂いに気付いた他の班が何か言ってるけど聞こえなーい。
ソース二種を投入して、さらにケチャップを入れて、ぐーるぐる。
丁度いい塩梅で、カマドの火も落ちてきた。
さらに寝かしながら味を見て、一時間経った。
一日目のカレーにしてはいい感じにとろとろしてる。
まあ、最後にとろみ付けで水溶き片栗粉使ったのはみんなに内緒だよ。
「飯、炊けたぞ。少し失敗したかも知れないが……」
「いいよいいよ。失敗した部分は二人の所によそうから!」
「榊も大分酷い言い草をするな……」
「冗談だって、お焦げも美味しいからさ。カレーも出来たし、くるにゃんのスープも完成したんじゃないかな? サラダは桜華ちゃんと緋翠ちゃんの練習がてらで切らせたから不格好だけどできたよ」
「ふむ……美味そうだな」
立川くんがカレーの鍋を見て素直な感想を述べる。
うん、絶対美味しいよ。ボクが保証する!
「よっし、それじゃあ先に食おうぜー! 一番乗りだ!」
「うん、食べよう食べよう!」
「姫さまもノリノリじゃん。でもすげえ、ホントに料理できたんだなあ」
「だから言ったでしょ、ボクは料理が出来るって」
軽口をいいながら、四組二班は真っ先に夕食となった。
みんなで作って、みんなで食べるご飯はやっぱり、とっても美味しかった。うん、最初の一口二口は、ね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます