はからずともデート・後

 買った。

 漫画と小説と合わせて諭吉さんがお一人さまお亡くなりになりました。合掌。

 だけど、買いすぎた感じ。重い……。

 うーん、沙雪さんのモデルのバイト本気で受けようかな? 色々入り用だし。

 諭吉さん五人は垂涎ものだもん。


「持とうか?」

「いいよ、ボクの買った物だから」

「にしては、重そうだが。休憩するか?」


 さっきも一時間くらい寝かせてもらったんだから、もうこれ以上は休憩できない。

 ボクは首を振って、次行くところを定めた。

 ほーむせんたー! 事前対策グッズを一杯買い込まねば!!


「で、次どうしようか?」

「ほーむせんたー!」

「マジで行くの? 姫さまの考えすぎだと思うんだけど」

「いや、そもそもボク結構ホームセンターすきだから……」


 うん、ホームセンターは好きだ。

 コンビニより色々あるし、それに、ペットを売ってるところもある。ペットは触れ合わなくても見るだけで癒やされる。

 工具に調理器具に、家財道具、見てるだけで楽しいし、自分の部屋のレイアウトを考えるにはもってこいだ。


「変わった趣味だなあ」

「いいじゃん」

「まあ、いいけどな。やっぱり本持つよ。ちょっとは格好付けさせてくれ」

「あっ」


 ひったくるようにボクの本を奪われた。ボクの本……。

 荷物は軽くなったけど、哀しみがボクを襲う。ぽろりと涙が一滴頬を伝った。


「ボクの本……返して……」

「頼む、そんな簡単に泣かないでくれ。重そうだから持ってあげるだけだろ」

「泣いてないっ……ぐすっ」


 やっぱり感情が制御できない。

 ひったくるとか、強い力でとか、そういうのにボクは弱くなってるのかな。


「分かった分かった。何も言わないから本は俺に持たせてくれよ」

「分かったよ……。じゃあお願いします」

「任された。しかし姫さまは相月と違うなあ。あいつは俺に荷物を率先して持たせてくるんだぜ?」


 なんとなくその様子が想像できた。

 あの悪鬼羅刹状態をみたボクが言うんだから間違いない。


「まあ、持たせつつも自分でもしっかり持つんだけどな。でも、姫さまの荷物は俺が持つからなー。遠慮せずに言ってくれ」

「遠慮するよ……。流石に悪いもん」

「正直、相月とか笹川さんなら持ちつ持たれつでいいけど、姫さまはなんか甘やかしたくなるというかだな」

「ボクだって自立してるのに酷いなあ」

「ははっ、何でだろうな。まあ、シェルシェリスでいつも助けてもらってるお礼だと思ってさ」

「助かってるのはボクの方なんだけどなあ。ギルド誘ってくれたの嬉しかったから。アリアさんと遊ぶのも楽しかったんだけど、やっぱり大勢で遊ぶのっていいよね」


 最初はリリィを選んだ事への珍しさからアリアさんが声を掛けてきてくれて。

 それから暫くして、同じ理由でボクとアリアさんにマスターが声を掛けてきて。

 縁が繋がって、今はこうしてみんなと遊べる。

 いいなあって。嬉しいなあって思った。

 瀬野くんと会ったのは今日が初めてだけど、やっぱりマスターの面影がちらりとのぞき見れるから初めて会った気はしなくて。

 それがなんだか不思議な気持ち。


「そうだ、荷物増える前にゲーセンいかねー?

「ボク煩いの苦手なんだけど。何かやりたいやつあるの?」

「ほらあれさ、アイドル育成の」


 そっぽを向いて、照れたように言う瀬野くんにおかしさがこみ上げてきた。


「……まじで? マスターが? あの女児向けゲームを? ぷふっ」


 気がつけば、笑ってしまっていた。

 ツボに入ったから全然収まってくれない。

 マズい、瀬野くんがあのアイドル育成ゲームとか。ぶふっ。


「笑うなよ。あれ面白いだろ。というか、あれにも沙雪さんがデザインした衣装でてるからな。遊んであげないと可哀想だろ」

「ご、ごめ……くくっ。イメージが、ふふっ、沸かない……!」

「ツボに入りすぎだろう。何がそんなに面白いんだ! まあ、笑いたきゃ笑えばいいけどさあ」


 じゃあ、ごめん遠慮無く。


「あははは! マスター、さすがにそれはないよ! お腹痛い! ボクにホームセンターが似合わないって言ったようなもんだよ!!」

「あー、そうか。まあいいか。人の趣味にとやかく言わないのがネトゲプレイヤーのマナーだもんなあ」

「そうだね。別に瀬野くんが女児向けのゲームとか好きでも全然構わないよ。パーソナルな部分が垣間見えてボクは良かったと思ってる」

「俺もだよ。姫さまの好きなもの知れたのは良かったぜ」


 一頻り笑って、荷物が重くなるから、先に瀬野くんの目的のゲーセンに。

 やっぱりがちゃがちゃしてて煩いなあ。

 思わずしかめっ面。


「やっぱり煩いのはダメだった?」

「うーん、大丈夫だけど。煩いねー」

「まあな。とりあえずワンプレイして、適当にふらっとしたら出るか。姫さまプリクラとかとらんでしょ」

「取らないね。取りたくないね!」

「俺もイヤだわ」


 瀬野くんが女児向けゲームをするのを後ろで見ながら、近くに居た小学生に服の裾を引っ張られ髪を触られしてると終わったみたいだ。


「ギャラリー盛りだくさんだな」

「そろそろ無邪気な視線が痛いよ」

「子供に好かれる姫さまは可愛いなあ」

「……ボクも子供みたいだっていいたいわけ?」


 まあ、実際小学校高学年くらいの身長しかないわけだし? 間違われても仕方ないけど?

 でも天乃丘の制服を着てるんだし、ボクが高校生だって分かりそうな物だよね?


「そうむくれないでくれよ。本当に子供っぽく見えるぞ」


 クツクツ笑う瀬野くんに少しむっとする。

 別にいいんだけどね。


「じゃあね、君たち。このお兄さんが一回ずつみんなにやらせてくれるって」

「ちょ!? 燈佳ちゃん、何言ってくれちゃってんの!?」

「お返し」


 ボクに群がってた小学生達が一目散に瀬野くんの所に殺到。いい気味だ。

 でも初めて名前を呼ばれた。なんかこれはこれで気恥ずかしいぞ……!


「早く行こう?」


 大人だ、大人のカップルだ。なんて言葉小学生から聞こえるけど、気にしない。

 それにボクは男です。男友達と遊びに来てるんです。

 君たちには分からないだろうけどね!


「あ、これ」


 UFOキャッチャーに、目付きの悪いでかひよこのぬいぐるみ。

 ソシャゲーのなんかのキャラだったかなあ。可愛いやつだ。

 どうも誰かが挑戦した後で、店員が配置を戻していない見たいで、もう少しやれば取れそうな感じがする!


「何、姫さまそれ、ほしいの?」

「可愛いなあって見てただけ」

「ゲーセンマスターの俺に任せろ! 取ってやるよー」

「いいよ! こんなの持って歩いてたら恥ずかしいって!」

「でも、ちょっと欲しいなって思ったんだろ?」

「え、うん、まあ……」


 ほんのちょっぴね。

 桜華ちゃんにプレゼントしたら喜ばれるかなとか思ったくらい。

 ボク自身もインテリアにいいなあって思ったりもするけど。


「じゃあ取ろう。ちょっとでも欲しいなって思ったときが欲しい時だ」

「取れるの? 一応見た感じ何回かチャレンジした後みたいだけど」

「良くて五百円くらいってとこじゃね。五百円六回だし六回やれば確実だのう」

「あ、じゃあ、はい」


 財布から五百円玉を一枚取り出して、瀬野くんに渡す。

 さっき律儀にワンプレイ分ずつお金あげてたから、出させるのは悪かった。


「さんきゅー。じゃあ男気を一つ見せてやろう!」


 と、プレイすること六回目。

 失敗。でも、後もう少し。

 ボクが追加でお金を出そうとすると、瀬野くんが手で制止する。


「くそう、ちょっと残りは俺が落ちるまでやる!」

「が、がんばって!」

「おう、その応援が貰えるだけで次こそはできるはずだああ!」


 百円を投入して、アームを操作して、引っかける。

 絶妙なアームの甘さが引っかけていた紐から落ちる。だけど、もう少しで景品交換用のチケットが落ちそうだ。


「あとちょっと!」


 追加のもう百円でやっと景品交換チケットが落ちてきた。


「やった! マスターおつかれ!!」

「うむ、大変な戦いであった」


 瀬野くんが店員さんを呼んで、景品を出して貰う。

 目付きが生暖かったけど、キノセイダヨネ?

 そんな微笑ましそうな目でボク達を見ないで欲しい!



 なんだかんだで、ゲーセンも堪能して、ホームセンターで当初の買い物を済ませて帰路に着く。

 荷物は全部瀬野くんが持ってくれた。

 でかひよこのぬいぐるみだけはボクが持ってるけど。もふもふで気持ちいい。


「そういや、姫さま家どこらへん?」

「こっち、まっすぐ行ったところだよ」

「ふむ、うちとは正反対だなあ。まあいいか、今日は荷物持ちで家まで送ってあげよう。不審者とか出たら最悪だしな」


 日も暮れ始めてるから、確かに不審者には気をつけないといけないけれど、まさかボクを襲うような人なんて居ないだろう。


「ボクを襲うような不審者なんていないだろって思ってるだろ。甘いぞ。姫さま以外と無防備だから付け狙われやすいぞ」

「どこが無防備なのさ! ボクほど警戒心むき出しな奴はいないよ!!」

「そのぬいぐるみ持って、にやけた面してたらどこに警戒心があるんだって話なんだけど」

「にやけてない!」


 にやけてないよ! いや、ちょっと可愛いなあって思ってもふもふ加減がいい塩梅で気持ちいいけど、決してにやけてなんてない!


「まあ、男として、最後まで遅らせてくれよ。初めてリアルで顔会わせてその日に不審者に襲われたとかって聞いたら、俺立ち直れない自信あるわ」

「気遣ってくれてありがとね。それじゃお言葉に甘えて家まで送ってもらうよ」


 お言葉に甘えて、瀬野くんに家まで送ってもらった。

 なんというか、女の子扱いされるのは悪い気はしない。今日一日で色々醜態を晒してしまったけど、それでも表面上は楽しそうにしてくれるのは嬉しかった。


「今日は楽しかったよ。また明日学校で。シェルシェリスでもいいぜ!」

「うん。もしかしたら疲れて寝落ちするかもしれないけど、ログインするよー」

「それじゃあ、笹川さんにもよろしく」

「うん、送ってくれてありがとね」


 手を振って、瀬野くんが帰ったのを確認して、玄関の扉を開ける。

 そこには、桜華ちゃんが待っていてくれた。

 たぶん話し声が聞こえたから出てきたんだろうね。


「お帰り、燈佳くん。楽しかった?」

「うん、楽しかったよ。今度はみんなで遊びに行きたいね。あ、あとただいま」


 荷物を自分の部屋に。

 ぬいぐるみはどうしよう。桜華ちゃんが興味を惹かれたらあげてもいいけど。でもやっぱり手放すのは惜しいなあ。枕元に置いちゃおうかな。


 それからリビングに向かって、エプロンを装着する。エプロンはボクの戦闘服。

 そう、ボクの戦いは今ここから始まるのだ!

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