17.五分間の乗り継ぎ駅
「まもなく次の駅に停車します。反対車線の車両到着を待っての発車となるため、次の駅では五分間停車いたします。お乗り換えは……」
車掌の声を聞くたび、君と出会った高校時代を思い出すよ。
サラリーマンや学生たちが忙しく行きかう中、向かいのホームの列車の中に、君は立っていたね。
夏空みたいに青いセーラ服を着て、けだるそうに吊革を持つ君。
さらさらと細い黒髪、色白な頬の君を、いつも見ていたよ。
会えるのはお互いの電車が向かい合わせに止まるたった五分。
僕はいつも五分間の君を見ていた。このまま学校をサボって君のいる列車に乗り込み、一緒に手を取ってどこか遠くへ行きたいと思っていたよ。
君はある日、鞄から赤い表紙の参考書を取り出したね。
列車が別々の方向へと走って行く中、僕は必死に表紙に書かれた大学の名前を覚えたよ。
そう。実は僕と君とが大学で出会ったのは、実はそういうわけだったんだよ。
やがて僕らは付き合いだし、結婚したね。三人の子供に恵まれ、孫もできたね。
あの五分間のことはずっと内緒にしてたけど、君が亡くなってしまった今となっては伝えておけば良かったと、ちょっとだけ後悔してる。
君が亡くなってからは世界が少しさみしい。
もう一緒にどこか遠くへ旅立ってくれる人はいないんだと思うと泣きたくなる。
だけどある時、一番下の孫に、僕と君の五分間のお話を伝えたんだ。
そしたら「その五分のおかげで、お父さんが生まれて、僕が産まれたんだね」ってさ。
その言葉を聞いて、僕はなぜだか凄く救われてね。
だってそれまでは、僕が死んでしまえば、あの五分間の出来事を知る人はいなくなる。
そしたらあの五分間は何も起こらなかったみたいに、消えて無くなってしまうんじゃないかって思ってたからね。
だけどきっとあの五分から物語は始まり、子供や孫のストーリーが続いていくんだ。
例え僕らが居なくなっても、五分間は終わらない。永遠となる。きっとゼロなんかじゃないんだって。
愛し君へ。
今夜は雲がなくて、星が綺麗に見えるよ。
果てしなく広がる星空。今日みたいに澄んだ空の夜は、胸が押しつぶされそうになるよ。
だけどそんな夜は君を思うことにしている。続いていく物語を。無限に広がる宇宙を。あの向こうに君が居るんだって。
もうお爺ちゃんなのに、バカみたいって思うかもしれないけれど、僕には夢がある。
いつか僕が君の元へと逝く時は、列車で迎えに来てほしい。
そしたら僕は、あのころ夢見たみたいに君の手を取り、同じ方向に進む列車へ乗り込むから。
がたんごとん、揺れる最終列車に乗って、二人で同じ景色を眺める。
手を握り、寄り添って、二人でどこまでも旅に出るんだ。
あの高い空のかなたへ。きらきらと輝く銀河鉄道に乗って。そしたらもう絶対、君の手は離さないから。
そこで僕は打ち明ける。僕と君、出会ったのは高校時代。
君に出会ったのは偶然じゃなく必然だったんだよって。一日たった五分の純愛物語を。
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