記憶の匂い

@ik_meee

第1話 拝啓

初めまして。これを読んでいる頃、僕はもうここにはいないでしょう。

突拍子もない挨拶でごめんね。でもこれは多分事実であって、多分ってのは確かめようがないからで、、、うまく説明するのって難しいんだな。

「ここ」というのは物理的な位置をさす物ではなくて存在そのものに場所があるとした場合の「ここ」って事なんだけれど、伝わるかな、わかるよね、僕だものね。

覚えてる?これを書いた頃のこと。へへへ、やっぱり覚えてないよなあ。実はこれは君が書いた物なんだよ。あ、別にタイムスリップだとかそういうSFの話じゃないよ、苦手じゃんそっち系ってさ。

でもわかりやすく言えばこれは僕から未来の自分、つまり君への手紙のようなものだよ。ほら、小学校の卒業のときタイムカプセルに入れるじゃない?「10年後の僕へ」みたいなやつ。あれだよね簡単に言えば。懐かしいねえ、、え?懐かしくない?忘れた?そりゃそうだよね。まあ今は置いといて、そんな話は今度にしよう。

ここに書いてある事はほとんどすべて初めて知る話ばかりだと思うけど、それは確かに君が経験したこと。のはず。

こういう事言うと少し怖くなるよね。知らない事実が実際の経験として存在するという事ってそれ以上でも以下でもないのに人は想像力豊かな生き物だからこう考える。


『今持っている記憶は本物だろうか。』


繰り返すけどSFじゃないからね。でもさ、さっき飲んでたコーヒーも昨日のデートもその口内炎も本当にあった事なのか、確かめようがないじゃないか。パソコンにメモリーカードを差し込んだみたいについさっき誰かに入れられたニセモノの記憶かも知れない。そんな物があったら、ニセモノの記憶を使って悪い事を企む人が出てきてしまうよ。ほんとは実際にあったりして...という話は映画かなにかで他の人が作ればいいよ。

いやまてよ、むしろ今僕は記憶のメモリーカードを作ろうとしているのかも。君の知らない話を君の経験として話すのだから。今君がどんな記憶を持っていようと僕の話に偽りはない、同時に君の記憶にも多分偽りはないよ。だから安心して聞いてほしい。そして無理に自分の物として理解したり受け入れようとしなくていいよ。知らないどこかの誰かが書いたネットのケータイ小説みたいな、気軽な気持ちで読んでくれれば十分。じゃあ少し肩の力を抜いて、その眉間のしわを伸ばして、ちゃんと呼吸して。話はそのあとで。

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