第313話 吾輩『マッドバッド』を連れまわす。

吾輩に提案を断れ、セバスチンは動揺の色を隠せずに牙をむいた。


「何を言ってるんですか!!貴方は?」

「思ったことを口にする。それが吾輩だ」

「何を見てきたんですか、この腐りきった世界を見てきたでしょ!?救う価値など微塵も存在しない、全ての人間が悪を貫き通す醜い醜悪な世界。これより、ひどい世界が存在してなるものか!?」

「そうだな、確かに腐敗を見たきた」

「それじゃあ、なぜです、魔王様!?こんな世界はぶっ壊れて当然なんです!!」

「お前は……この世界を憎んでいるんだな……それは十分に伝わったよ」

「憎んでます!!何をしても、邪魔をされずるい奴だけが天国に行ける腐った世界なんです。こんなものはもう壊れていいんですよー!!救う価値も、続ける価値も存在しない!!存在意義自体が無くなってる腐敗と醜悪な世界だぁッ!!」

「お前の目線ではそうなるな」

「なっ?」


驚くセバスチン。わかる、わかる。お前の言いたいこともわかる。理解はできる。


「ちょっと着いてこい。眷属」

「どこへ行く気なんですか?」

「いいから、着いてこい。吾輩についてきて、尚、世界を壊したいというなら協力してやるから」


吾輩が歩き出すとしぶしぶセバスチンも後をついてきた。吾輩はある風景を前に立ち止まる。


「あれを見てみろ、セバスチン」

「なんですか……あんなみすぼらしい。あいつは星を全然持ってませんよ」

「あぁ、持ってないな。天国にはいけないかもしれない」


そこで一人の男が座って、自分の作った物語を垂れ流していた。けど、誰もが足を止めずに過ぎ去っていく。


「ほら見て下さい、あれじゃあダメなんですよ。誰も読者になりもしない」

「それはどうかな」

「何を!?」


吾輩はその男にそっと近づいてしゃがみんこんだ。


「すまん、吾輩に最初から話を聞かせてくれないか?」

「……えぇ……いいですよ」


男は静かに語りだす。話はうまくなかったかもしれない。けど、その男の話からは熱を感じた。その男は話すごとに楽しそうに笑顔を見せ始めた。


「で、ですね。ここがこうなんですよ!」

「そうか、ふむふむ。そうだったのか……そこが伏線だったんだな」

「聞いてくれてありがとうございます」

「ちょっと、待ってくれ」


吾輩は力を込めてみる。やり方もわからなかった。見様見真似だった。


「出た。これはお礼だ。受け取ってくれ」

「いいんですか?星を貰って??」

「まだまだ、先が楽しみだからな。期待を込めて星1だ。これからおもしろくなれば追加で2つあげることもある。ぜひ頑張ってくれ」

「頑張ります!!」


男に星を渡し吾輩は立ち上がった。


「何やってるんですか!!あんな下手くそな話に星をあげるなんて、最低です。見損ないました。絶望的に話が下手じゃないですか……あれに星を渡す価値なんて微塵も存在しない」

「そうかな……吾輩は楽しかったぞ。それになにより頑張ろうとしてる。だから応援の意味を込めて星を上げたんだ」

「そんなの間違ってますよー!!面白くもない話に星をあげるなんて、間違ってる。面白いものに星を上げるのが正しいんだ!!それは、きっとお返しに星が欲しいからでしょうね」

「別になければないで、構わないぞ吾輩は。読んだ証として挙げた部分もあるし」

「そうやって、偽善を振りまいた先に何があるんですか!?」

「何かを求めてるわけではないからな」

「意味が分かりません。星を多く稼いだ者だけが天国にいけるんです。だから、人の作品に星をあげるということは、自分が天国にいけないってことなんです。あなたは自ら天国に行く権利を放棄したんだ」

「……そうなるのか。まぁ次に行こう」


吾輩歩き風景を探す。目的のものを見つけ立ち止まった。


「あれだ、セバスチン。あれを見ろ」

「あれは……」


そこでは作者同士が楽しそうに話し合いをしていた。お互いに星を渡した。


「相互ですね。最悪です。お互いのツマラナイ作品に星を上げあっている。忌むべき行為です。あそこからクラスタが始まるんですよ」

「どうかな……あの二人はお互いに星をいくつ渡してる?」

「片方は1つ。もう一方は3つ。最悪ですね、搾取ですよ。利用されてるのに少ない方は気づいてないんです」

「そう見えるのか……お互いが純粋に評価をしてるように見えないか」

「見えませんね。どうみてもツマラナイ話ですから」

「……そう見えるか。じゃあ、しょうがない次へ行こう」


まったく、マッドバッドは大変だな。物の見方が星基準でしかないな。


「あれはどうだ、セバスチン?」

「最悪です。あれはもうクラスタですね」

「そうだな。クラスタだな」


そこには10人の作者が集まっていた。お互いにお互いの話を聞き、星を上げあってあーでもない。こーでもないと議論を交わしている。


「読んだけど、お前の物語はいつも設定が複雑すぎるんだよ」

「えー、けどSFってこんぐらいやんないとー」

「でも、ネット小説って媒体でそれはやりすぎだよ」

「……そうかもしれないけど。俺はこの作品を曲げたくない」

「ホント、お前は頑固だな」

「これで俺は行きたいと思ってるんだ」

「……そうか。がんばれよ!」

「おう!!」


そこにいる人たちは気持ちよさそうに話をしている。お互いの作品を読みお互いの思いをぶつけ合っている。真摯に。


「セバスチンにはアレが悪いことに見えるか?」

「悪いですよ。あんなものは害悪でしかない。どうせ、お互いの作品の冒頭しか読んでいないんですよ」

「それであの意見はでるのかなー。複雑な設定を見極めるのは結構大変だぞ」

「仮に読んでいたとしても、人の作品を読んでる時間なんてもったいないですよ。無駄無駄。何も素人の作品から得るものなんてないですからね。あいつらがもし読んでるとしたら、時間の無駄遣いですよ。一つでも多く書籍化作品を読んで方が身のためです。非効率の極み」

「そうか……そう考えるか」


ひねくれたものの見方をしていけば、本質が見えなくなる。確かに書籍化作品ではない。ただ、それは未完成だからこそ、新たな表現を含むものもある。さらに言えば、皆最初は素人なのだ。どんな偉大な作家であろうと。



「アインツさんは、相互もクラスタも推奨派なんですか?」

「いいや、そうではないよ」

「じゃあ、さっきからなんで擁護ばかりするんですか!!」

「擁護か……吾輩はちゃんと言ってるぞ。読んだうえでやるのは問題ない」

「大問題ですよ!!お互いに見返りを求めてるですから!!」

「見返りか……それでは次の場所に行こう」

「まだ行くんですか……どこにいっても同じです」

「いいや、一緒じゃないさ。次は天国に行ってみよう!!」

「えっ!!」



《つづく?》

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