第312話 吾輩『複垢クラスタ』に騙される。

息を切らし群衆を押しのけて、彼を救い出した。


「大丈夫か、君?」

「すいません、ありがとうございます」

「無事で何よりだ……あまり星なんか集めないほうがいいよ。あんな風になるなら」

「……それはできないです」

「えっ?」

「天国へ行かなきゃいけないんです!!」


どんだけ、天国押しなんだろう……ここの人は。天国、天国って。


「死んだら終わりやで君」

「天国にいけなかったら、死んだも同然です!!」

「えっ?」


何を言っちゃってるの?死んだ後でいくのが天国でしょ???


戸惑う吾輩の横を数人の男が駆け寄ってきた。


「大丈夫だったか、お前」

「あぁ、あとちょっとでやられるところだった……」

「無事でよかったぜ」

「オマエがいないと困るからな」


どうやら、お仲間らしい。よかった、よかった。


「喋ってないだろうな?」

「あぁ、喋るわけないだろう」

「気付かれてもないか?」

「あぁ、何もわかってなかった……あの馬鹿ども」

「よかったぜ、とりあえずいつも通り『ツイッター』に集合な」

「わかった」


そういうと男たちは消えていった。なんだろう……何を喋ってはいけないのだろう。


「あぁー、助けちゃいましたね」

「えっ?」


セバスチンが呆れたような物言いを吾輩にしてきた。


「あれはクロですよ」

「クロ?」

「えぇ、一番恐ろしいやつを助けてしまいましたね」

「一番恐ろしいやつって、何?」

「複垢クラスタですよ」

「何それ……響きからしてヤバそうだけど……」

「複数人の作者が人モドキを生成して、使いまわしてるんです。両方やればバレにくいでしょ」

「バレにくいって……」

「だって、作者が複数人いる中で人モドキも混ざってるんですから。適当に短編でも書いて置いておけばそれっぽく見えるでしょ。さらに複数人だから、人モドキも動きがより人間に近づきます。見分けるのは至難の業です」

「……じゃあ、あの人に罵倒を送ってた人が正しいってこと?」

「そうです」

「……良くわかんないんだけど……何が正しいと思ってるの?セバスチンは?」

「それはこの世界に存在しないものです。カクヨムーンに一切ねっ」


セバスチンはどうやらこの世界が相当お嫌いみたいだ。これで態度を変えたのも納得した。世界を滅ぼす英雄と似ている吾輩。それにこの世界を壊して欲しいのである。だからこそ、彼は私に醜い世界を紹介しているのだ。


吾輩は見たような風景をいくつも再度見ながら町を歩き続けた。


「どうです、滅ぼしたくなってきたでしょ」

「……」

「どこを見渡してもそうですよ。この世界は狂ってるんですよ」

「……」

「何度失敗しようと悪い奴は悪いままなんですよ。いくらでも、何度でも繰り返す。諦めずに何度でも」

「天国ってやつのせいではないのか?」


吾輩が考え抜いた答えはひとつだった。『天国』ってやつが全ての価値観を――人を狂わせてしまっている。少ない座席ゆえに。


「天国がなきゃ、みんな仲良くできるのではなかろうか?」

「そうですね……じゃあ天国をぶっ壊しにいきましょうよ!!魔王様!!」

「天国をぶっ壊す?」

「そうです……天国に行ったらヒドイ目に会うってことを世の中に知らしめるんです!!」

「……そもそも天国って何よ?」


天国をぶっ壊すという発言の意味がわからない。天国と言ったら理想郷。それをぶっ壊す???何を仰ってるの?このマッドバッドは?


「天国っていうのは、書籍界ですよ。そこには金や名誉、全てがそこに詰まってるんです」

「書籍界?」

「そうです。そこに残れば永遠に語り継がれるんですよ、名前が物語が」


あ……そういうことね。段々見えてきた。というか、察しが悪いな吾輩。なんとなく見えてきたぜ。この虚像の世界が何を言おうとしているのか。


「そういうことか、セバスチン」

「そうです。天国に悪評を流すですよ。デマ・デタラメでもいいんです。アインツさんが語ることに意味があるんです!!さぁ、罵倒で眠れなくしてやりましょう!!殺してやっちゃって下さい、やつらの物語を!!腐敗しきったやつらの存在を!!」

「……お前の言いたいことはわかったよ」

「さぁ、破滅の魔王の技を見せるときです!!」


破滅の魔王か……いい二つ名だ。かっちょいいではないか。破滅の魔王、バンパイアアインツ。かっこよすぎるぜ!!


「さぁさぁ、腕の見せ所です魔王様!!」

「そうだな……いっちょやったるか」

「魔王の力を存分に振るって下さい!!」


吾輩の答えは決まった。力強く答えてやろう。期待のまなざしに答えてやろう。


「じゃあ、魅してやるよ。吾輩の力を!!」

「いっけー!!」

「やるわきゃねぇだろうッ!!アホがッ!!」

「なッ!!」


《つづく?》



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