第19話:立脚点

 立脚点は、物事をどこから視ているのかという要素です。

 簡単に言えば、カメラにあたります。

 この立脚点のコントロールが、映画で言うカメラワークになります。


 立脚点が一人称でぶれることは、ほぼないでしょう。

 つまり三人称で発生する問題と言えます。



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 彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取った。

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 上記の例文の立脚点カメラは、「彼のたくましい腕」や「パン」が見える横や正面にあることがわかります。



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 彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取った。

 そして、そのまま一口かじる。

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 次のセンテンスでは、カメラが近づいて、彼の口元を映します。



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 彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取った。

 そして、そのまま一口かじる。

 中にはあんこが入っていた。

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 かじったパンからあんこが見える位置――つまり、口元からさらに彼へ近づき、彼の視線にカメラがのります。



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 彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取った。

 そして、そのまま一口かじる。

 中にはあんこが入っていた。

 その甘さは、彼にとって思い出の味である。

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 最後のセンテンスは、彼の心情です。

 つまりカメラは、彼の中に入り込んでいます。


 外からだんだんと近づいていき、心理描写にはいるカメラワーク例です。


 では、カメラワークを無視してみましょう。



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 彼女は、彼がお皿からパンを取って食べるところを見ていた。

 彼は、昔のことを思い出していた。

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 最初は彼女の視線にカメラがあります。

 しかし、次の瞬間には彼の中にカメラが移動しています。

 突飛なカメラワークの例です。



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 彼女が見ていると、彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取って食べた。

 中にはあんこが入っていた。

 その甘さで彼は、昔を思い出していた。

――――――――――


 最初は彼女の視線にカメラがあります。

 しかし、いきなりパンの中のあんこを見ています。彼女の視線から見えるのか怪しい謎アングルになります。

 そこからいきなり彼の心の中にカメラが移動しています。



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 彼はたくましい腕を伸ばし、お皿からパンを取った。

 そのまま一口かじると、中にはあんこが入っていた。

 横で見ていた彼女は、その様子を微笑みながら見ている。

 あんこの甘さは、彼にとって思い出の味だった。

――――――――――


 3センテンス目でいきなりカメラが、彼女の方に向いています。

 その後、4センテンス目で彼の中に移動します。



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 彼はあんこを見ていた。

 彼女はあんこを見ていた。

 甘そうだと思った。

 でも、彼は甘くないと思った。

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 これは、彼→彼女→彼女の中→彼の中という極端な例です。



 このようにカメラが激しく動けば、映像もぶれます。

 これが立脚点による視点ぶれです。


 映画などとは違い、小説は映像がありません。

 読者は文章を読みながら、無意識に立脚点を作って文字から映像を作ります。

 だから、映像を作ろうとする読者に「ここから見ているんだよ」とわかりやすく案内することが大事です。

 また、「こっちから見て! 今度はあっちから見て!」とふりまわさないことです。

 カメラワークを上手くやらないと読者がついていけなくなります。


・読者に立脚点をわかりやすく示す。

・読者が立脚点の移動についていけるようにする。


 これを意識するだけで、視点ぶれは半減するのではないでしょうか。

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