告白

 僕と喜与味は、ブックカフェ<黄泉なさい>を後にした。

 結局、志摩冷華の原稿には、末永弱音の遺体をどうしたのかは書いてはいなかった。隣に喜与味もいたから、そのことについては書けなかったのだろう。

 あたりは暗くなっていた。志摩冷華の原稿を読み、この<キヅキの森>に自縛霊がうようよといることを知った。ただでさえ不気味な森が、ますます恐ろしく感じた。

「こわい…」

 隣で、喜与味がつぶやきながら、僕の左腕にしがみついてきた。左腕から、彼女の体温が伝わってきた。僕の心臓の鼓動のリズムが勢いを増してきた。

「快くん、あたたかいね。ねえ快くん、好きなひとはいるの?」

 森を歩いていると、突然喜与味がそう尋ねてきた。彼女にそう聞かれると、アカネの顔が僕の頭をよぎった。僕は、アカネのことが好きなのだろうか?いや、多分違う。アカネが僕のことを好きかもしれないという志摩冷華の発言が、僕をそう思わせているだけなのかもしれない。

「いないよ…」と僕は答えた。

「じゃあもし、あたしが快くんのことを好きって言ったら、付き合ってくれる?」

「僕のどこを好きになったのかが知りたいけどね」

「前に言ったでしょう?あたしと快くんは、どこか似ているところがある。さっき志摩さんの原稿にも書いてあったでしょう?きっと快くんもあたしも、孤独なんだよ。そして、仲間を求めてここへ来た。あたし、快くんと一緒にいたい」

「僕はたまたまアカネに連れてこられただけだ」

「あたしもよ。でもアカネに誘われなくてもいずれ、わたし達はここに来ていたと思う」

「そうかな」

「そうだよ。少なくとも、あたしはこの森、あのブックカフェに来て良かったと思う。自分に正直になれた気がしたし。ここに来なかったら、あたしはずっと引っ込み思案のままだったと思う。いらないものに埋もれたまま」

 たしかに、喜与味は以前とは全然違う。<キヅキの木槌>で自分の部屋にあるいらないものを破壊してから、なにもかもが吹っ切れた様子だ。それに比べて、僕はどうだろうか。以前森に閉じ込められたときに<覚醒の拡声器>を手にしたが、あのときだけだ。しかしあのときは、妙な爽快感があった。自分の心の奥底から叫んだ爽快感が。あのときのあの感覚を、もう一度味わいたい。この先、喜与味と一緒に行動していれば、僕も喜与味のように何もかも吹っ切ることができるのだろうか。

「ねえ快くん、あたしと…」

 喜与味が最後まで言い切るのを待たずに僕は、

「いいよ。付き合おう」と返答した。深く考えはしなかった。ただ、喜与味と付き合えば、何かが変わるのかもしれないと、そう思っただけだった。

 僕の家の前まで、喜与味は僕の左腕から離れなかった。

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