嘆くべき過去もなし

作者 梁瀬陽子

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★★★ Excellent!!!

僕は新幹線に乗る時、丸善に立ち寄って短編集を何冊か購入します。行き先は京都であることが多いのですが、その場合、往復で3~5冊と言ったところでしょうか。普段あまりフィクションを読まないので、読み手としてさしたる能力を持っていないのは確かなのですが、しかし、このような事を繰り返しているうちに、短編集というのは、実は書き手の能力がそっくりそのまま現れてしまうおそろしいジャンルなのではないか、と思うようになりました。
もちろん長編には長編の、中編には中編の難しさがあるでしょう。しかし短編「集」には、短編の数だけの物語と世界とが求められます。音楽で例えれば、いくつものメロディーを生み出す必要がある、という事になるでしょうか。
複数のメロディーを生み出していけば、大抵玉石混交になるものですし、気に入ったものを見つける方が難しい事だってざらです。しかし、筆者の紡ぐメロディー達は、ひとつひとつ色が異なっていながら、それでいてどれも本当にすばらしい。さらに感銘を受けるのは、それぞれの作品がもたらす印象が驚くほど違っていながらも、どこかにすべてを貫く「表現の糸」のようなものを感じる所です。

加えてもう一つ、この短編集の驚嘆すべき点は、文章それ自体が驚くほどなめらかである、ということでしょう。ネットスラングで、到底アマチュアの作品とは思えない水準に達した諸作品を「プロの犯行」と言ったりしますが、まさにこの短編集は「プロの犯行」です。
こういった「本当に無料で読めていいの?」という気持ちになってしまうような、高水準の作品を読めるカクヨムというサイトの魅力の一端をそのまま垣間見ることが出来るこの作品を広く、広くおススメしたいと思います。