◇豪炎魔術と水銀魔術 1



 火炎を着込んだ刀身が紅玉の魔女を五連撃で襲撃する。

 魔女の魔力───魔術が拮抗する炎の渦を突っ切ってくるなど予想する必要もない自殺行動だが、今のわたしは四大装飾という炎や熱に対してスーパーな耐性を持つ追加装飾アクセサリーを装備しているからこそ、自殺行動も立派な戦略となっている。

 紅玉の魔女ラヴァイアが本気で魔術を使ったら......四大装飾でも貫通してくるだろうから、この手はこれっきりと考えていい。


 他人の魔術を利用した火属性五連撃【ホライゾン】の射程にラヴァイアをしっかり捉え “剣を扱う術を知る者” という理解に苦しむ難問を理解し越えたわたしは剣術でラヴァイアの肌をまず一撃抉る。

 続く二連、三連とラヴァイアへキッチリ打ち込み、四、五は流石に対応してくる。火属性魔術で作り出した盾で四撃目をやり過ごし、五撃目も同じように火盾で対応される。

 四撃目で火盾を焼き斬ったにも関わらず、五撃目が届く前に再び火盾を詠唱、発動してくるあたり流石は四大魔女だ。

 ここでわたしの剣術は終了し執行反動のディレイが課せられるので右の短剣で、としっかり短剣にも剣術───魔剣術を纏わせていたのだが、左に持つ剣の炎......赤色光が全く消えていない事に気付く。


 しかしここで致命的なミスをわたしは犯した。

 消えていない赤色光に気を取られ、腕を、身体を、止めてしまった。これにより剣術は強制終了、つまりファンブルしてしまう。剣術反動とファンブルの代償で剣を持つ左腕がグンと重くなり、その重みは全身にのしかかる。


『やるねー、エミリオちゃん───』


 大きな隙をラヴァイアは逃すワケもなく、炎属性魔術を詠唱し、ゆっくり狙って放つ。

 真っ赤な大輪の魔法陣が展開され、そこから放たれたのは竜を模った炎。見た事ない魔術だが詠唱時に注がれた魔力量は疑いようのない最上級。


 炎竜は咆哮するように顎を開き、豪炎の身がわたしを焼き包む。


『ッ───!』


 炎の四大装飾が効果を発揮しても火傷からは逃れられず、魔術自体の衝撃も相当でわたしは数秒前までの勢いを失い岩壁へと背から激突。


『おろぉ!? 炎の奥で戦ってたんかいな!』


 壁のように燃えていた初撃の炎を焼き喰らい、通過した空気を焼き焦がし、衝突した岩壁をドロドロに溶かしたラヴァイアの魔術。

 威力、範囲、速度、どれをとっても琥珀の魔女シェイネとはレベルが......世界が違いすぎる。


『今のでも死なないかぁ』


 こんな魔術を使ったというのに魔術反動の素振りさえ見せないラヴァイアは倒れるわたしとフローを同時に警戒しつつ、一言告げる余裕さえ見せた。


『痛っ、』


 両腕は完全に火傷だ。重くなる腕を必死に動かし剣で受け止めるのが精一杯だったが、短剣の魔を斬り消す効果と炎の四大装飾、そしてわたしの防具が持つ魔術耐性が働いたおかげでこの程度で済んだ......いや、それでも、これだけのダメージを負った、と考える方がいい。


『そのペテン師みたいな上衣の袖が焼けてなくなっちゃったね』


『......るっせぇな、っ』


『ちょっとちょっとぉー! わたしを弾いて楽しそうな事するなんて酷いっちゃ。 そんな意地悪には───』


『あ?』


『げっ!』


 フローは両手を広げ上を向いて、耳障りな笑い声をあげる。つられてわたしとラヴァイアも上を見ると───天井には超巨大な魔法陣が展開されており、色は青、水属性。しかしただの青ではなく......メタリックブルー。


『───千の鉄雨でお仕置きナリ!』


 天井の魔法陣から水属性を持つ剣が召喚され、それが雨のように。


『1550℃くらいあればいい?』


 剣雨が降り落ちる瞬間、ラヴァイアはそんな事を言い、フローの魔法陣に対になるよう空中で巨大魔法陣を展開させ、魔法陣そのものが燃えるような範囲設置型の魔術で剣雨を余さず溶かす。


『おーう、やるわさ。豪炎魔術ナリね』


『そっちもやるじゃない、水銀魔術なんてそうそう見れないよ』



 どちらも最上級魔術。

 そんなものを執行しているのに、魔術がどうなるのか見届ける余裕と、会話をする余裕さえ持っているなんて......四大魔女ってのは予想以上にヤバイ連中だ。


『......変彩、提案なんだけど』


『なんナリ?』


『先にエミリオちゃんをやらない? その後にエミリオちゃんの瞳と魂をどっちが貰うか決めようよ』


『はぁ? ふざけんなお前ら!』


 腕を水魔術で冷やしていたわたしへ予想外の矢が向けられた。

 こんなヤツを2人同時に相手にするなんて、不可能の度合いを超えてる。


『うーん......さっきエミリオちゃんと共闘してたしそうナリね。3分だけだったら共闘してやるわさ』


『おいフロー! テメーふざけんなよ!』


『おっけー3分ね! 今のエミリオちゃんなら1分もいらなそうだけど!』



 両腕にそこそこ酷い火傷と至る所に小さな火傷を負った状態で......いやこの火傷が無くても、四大魔女を2人同時に相手しろなんて......まぢにふざけんな。



『んじゃぱぱっと行くナリよぉ〜!』



 2人の魔女は詠唱に入り、わたしは本当に絶望した。




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