◇一線を画す



 サルニエンシス流 単発迅速系、、、華剣【ネリネ ソレントスワン】。

 刀身が無色光を纏うと同時に発動可能であり、魅狐ミコプンプンが使う万能単発剣術【狐月こげつ】のように型がない華剣。グリフィニアから教わった中で自分的に使い勝手のいい剣術を今フィリグリーへ放った。

 威力は【狐月】よりも低く距離も短い。が、あらゆる速度が高い。立ち上がりから発動までの時間、剣速、ディレイのクールタイムに至ってはほぼ無いレベルの軽量さ。

 グリフィニアが強く言っていた通り、この剣術は初動、、に向いている───そのための剣術と言ってもいい。


「シッ───っ!」


 空気を鋭く吐き出し、眼障りな盾を穿つ。ヒットした瞬間にディレイが発生し、剣を戻す頃には既に終わっていた。わたしの予想を遥かに超えた使い勝手の良さに拍手したい所だが、ここでそんな事をしてしまえばわざわざ【ネリネ ソレントスワン】を突きで放った意味が無くなる。


 突き、という攻撃は手を伸ばし剣を文字通り突出す攻撃方法。だが、突き出した剣をすぐに引き戻す事の方が実は攻撃する事よりも重要という秘密に天才のわたしは騎士学校で気付いてしまった。

 腕を、剣を素早く引き戻す事で次への行動がスムーズになる。そして最高に嬉しい発見は、突き系の剣術は引き戻すまでが剣術という判定になる事だ。

 今わたしの体勢は剣を右脇に構えている形で剣先はフィリグリーを向いている。手首は上。

 ここで素早く手首だけを返し、剣先はフィリグリーというより地面へ向け───天才的頭脳と研ぎ澄まされた剣のセンスを持っているからこそ生み出せたエミリオ流五連撃剣術【ホライゾン】を起動させる。

 勿論ただの【ホライゾン】ではない。


「ッ───!!」


「むっ───!?」


 この【ホライゾン】という剣術はわたしが唯一完成させる事の出来た剣術。他にも最強オーラ全開の剣術を考案したが、どれもこれも剣術にはならなかった。しかしこれだけは剣術として誕生してくれた。


 プンプンの【狐月】が持つ “どの姿勢や体勢、角度からでも発動可能” という初動縛りのない特性。

 ワタポの【トライペイン】が持つ流れるような三連撃と足運び。

 ひぃたろ《ハロルド》の【カドレアス】が見せた重撃でありながらも手首や身体の捻りで剣速を極端に上げた攻撃方法。


 この3つからヒントを得て、自分に出来る最大数の五連を必死に織り交ぜつつ、自分にしか出来ない特性を持たせた剣術。


 その特性が魔女───行動詠唱と、能力だ。


 五連の一撃目には火属性を。

 二撃目には地属性を。

 三撃目には水属性を。

 四撃目には風属性を。

 そのまま風を爆散させ、五撃目は無属性だが風のブーストを乗せ重撃と似た威力を付与し、振り抜くと同時に距離を取れるように爆散時の抵抗に身体を任せる。

 わたしの能力では無理して四重まで魔術を同時詠唱、発動可能。今回は奇跡的に成功したがホイホイ使えるタイプの魔剣術ではない。今回は成功したからオールオッケーだけどな。


「───......今のは驚いた。剣術に魔術を織り交ぜたそれが噂の魔剣術か。素晴らしい発想だが、それを実戦で実際に扱うキミの度胸に一番驚かされる」


「おうお前、防ぎ切ったからって調子乗ってんだろ? あめーよ」


 攻撃は全て大盾に防がれた。わたしの速度ではフィリグリーが相手じゃなくても大盾持ちなら多分頑張れば防げる。フィリグリーとなれば流れるような対応をしてくる事くらいお見通しだ。だから、盾をターゲットにブチ込んでやった。

 盾と言っても、


「ほら見ろ亀野郎。自慢のマテリアが一個お亡くなりになったぜ?」


「......火耐マテリアが砕けたか」


 赤のマテリア、火属性に対してうざったいくらいレジストしてくる防御型マテリアが砕け散った。

 本来マテリアを壊すなど非効率的な事を考えるヤツはいない。強靭な男が巨大なハンマーでブッ潰しても傷ひとつ付かないのが魔結晶を加工したマテリアだ。でもそれはパワーだけでいった場合の話じゃねーのか? とわたしは常々思っていた。パワープレイじゃ破壊出来ないイコール戦闘中にマテリアを攻撃されても大丈夫。それは理解出来るが、壊れない、までは思えない。

 必ず壊す方法がある。だから壁職タンクはマテリアだけで盾や鎧を作らないんだろう? コスパうんぬんより、実用的じゃない何かがそこにはあると睨み、わたしはついに知った。


「耐性マテリア、特に属性はブッ壊しやすい。まずその耐属性を与えてマテリアを刺激、そのあと連続で別属性を与え続けたり、強烈な対属性を与えれば───ボンっ。だろ? 能力ディアがあれば強い、マテリアがあれば強い、スゲー装備があれば強い、って思ってるアホ共がいつまで経っても強くなれないのは、どんな事にも必ず穴があるって事を知らねーからだ。違うか? 元騎士団さん」


「まさにその通りだ。実際にキミはその力量で私のマテリアをひとつ潰している。実力というものは勿論大切だがそれは続けていれば個体差こそあるが自然と身に付く。想像力や発想力が疎い者や嗅覚が鈍い者はそれ以上には登れない。絵が上手いが画家とは言えない者、歌は上手いが歌い手とは言えない者......どんな界隈でも “それ以上” に辿り着く者は必ず、想像力と発想力、嗅覚と行動力が他とは違うからこそ “平凡な実力者” とは一線を画す。さらに、キミのような “セオリーもなく周囲の眼や声を全く気にしない” タイプは異端でありながらも土足で登り詰めてくる」


「......ムズカシイ話は部屋でひとり、鏡に向かってやってくれ」


「フフ、ではそうさせてもらおう。そろそろタイムオーバーだ。私はここで退かせてもらうとしよう」


 これからという時にフィリグリーは剣を納め大盾を背へ。やる気がないなら勝手にすればいい、わたしは丸腰状態のヤツが相手だろうと全力で攻めるタイプの性格だ。

 剣を構え魔術を詠唱しつつ剣術を炸裂させようと踏み込んだが、頭の天辺から冷水をぶっかけられるようなヤバイ雰囲気が上───最上階から拡散した。


「あァ!? なん......女帝か!?」


「正解だ。さて、先程の続きだぞ。キミはあの女帝をどう止める? キミはデザリアの民を救い英雄になれるかな?」


「ふざけんなお前ッ! 女帝あんなん野放しにして消えるつもりか!? お前らが最後まで面倒みろよ!」


「一線を画したキミを今度からは敵として見よう。さらばだ、エミリオ君」


 フィリグリーがわたしの名をクチにし背中を向けると、最上階で爆破が発生し天井が崩れた。


 回避しようがない瓦礫の雨の中、視線の端で微粒子が煌めいた気がした。




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