◇大盾
「いいか
わたしの剣戟がフィリグリーの大盾を強く叩き火花が弾ける最中、脳裏に流れた騎士学校での学び。
学校と言ってもこれを教わったていた時点で既に学生という身分は捨てていた。グリフィニアから “華剣” を教わる最中に戦闘の基本もおまけで叩き込まれた。その時の、盾持ちとの試合運び、の記憶が明確に再生される。
盾は遮蔽物であり、大きければ大きい程、防御に特化しているが死角も広くなる。
死角───盾を持っている側の情報をその盾が遮断する。これが第一の死角。ファンタジーの場合は左手に盾を持ってるから左側に回るように動けばいいって事だ。
「? ───ほう、多少は心得ているようだな」
「天才だからな」
強がりのように言い放ち、自身の行動速度を上昇させる補助魔術を使った。
自分で言うのもアレだが、わたしは体力も低く運動神経も並より少し低い。
細切れのように攻撃を挟みつつ足は絶対に止めず盾を───大盾を観察した。フィリグリーのほぼ全身を守るほどの大きさは観察するまでもなくわかるが、気になるのは十字デザインの各端と中心に装着されている宝石......マテリアだ。
赤、青、黄、緑、そして中心には白。剣で殴っても傷ひとつ付かない事から相当ハイレベルな魔結晶を熟練の加工師がマテリアへと加工した証拠。
盾に装着するマテリア......そんなものひとつしかない。
「亀みたいに防御防御ってやる気あんのか?」
元々挑発には乗らないタイプのコイツにスーパーチープな挑発をしたところで意味なんてない、が、
「そんなに防御が得意なら防いでみろよ」
次の行動へ自然と移れる。そのための挑発だ。
盾のスペックを探っているという素振りを見せず、堂々と見せてもらおう。
何系にあたるのか不明な自分の
相殺したり混合したりしないタイプの魔術であるアロータイプを選び、地水火風の魔矢が同時に盾を穿つ。
「むっ───っ!」
小さく声を溢しながらもしっかりと盾でアローを受け止めたフィリグリー。ここで下手に追撃すると右手の長剣が飛んでくる程度の見切りが出来るレベルまで自分が成長している事を自分で褒めつつ、目的の “盾の特性” をガン見した。
アローは4発とも盾と接触してすぐに四散......わたしの魔術は簡単に散るほど雑魚くない。って事は間違いなく、
「おうおう、調子のって防御自慢してっけどお前......マテリア乱用してんじゃねーか! こりゃ笑えるぜ騎士様!」
笑える要素は全くない。装備で対策する事は当たり前で、対策しない方が笑える。それでもわたしは笑いながら「防御自慢よりマテリア自慢、装備すげー自慢したいだけか?」とフィリグリーを必死に揺らすが勿論揺れない。
マテリア抜きにしても硬すぎる防御力。
そこに属性耐性ではなく中和系か分解系のレアマテリアを各属性持っている。
絶対防御なんて噂をどっかで聞いたが、ありゃ言い過ぎじゃなくガチだったのかよ......。
「マテリアの性質を見抜いた所で優位に立てると思ってはいないだろう? それにキミの魔術はそんなモノではない。全力でくるといい、全てを防ぎ一撃でキミを沈めてあげようではないか」
「自信満々だな。できねー事は言うもんじゃねーぞ?」
一撃でやられる自信は、ある。
単発も重剣術をモロに食らえばわたしじゃなくてもヤベー事なるのは簡単に想像出来るくらい、フィリグリーが放つ強者オーラと剣が纏うレア装備感は見せかけじゃない。
距離があるとはいえ間をあけても攻めて来ない事からカウンタータイプなのは確定......だがあの硬さは無意味無闇に攻めるとカウンターの餌食になる。
「どーすっかな......」
元ドメイライト騎士団という地位からパッと想像しても、相当な地力を持っているだろう。防御云々を抜きにしても戦闘の基礎や戦略、実力も知識も経験値さえも圧倒的に上の存在。
勝ってる気も勝てる気もしないが、それでも、負けてる感じは全くしない。
フィリグリーも
「どうした? 時間ばかりかけていると上で爆弾が起爆するぞ?」
「うるせーな、んなもん爆発してから考えりゃいんだよ」
まずはフィリグリーを突破しなければ爆弾も爆発もない。
わたしの、魔女の歴史にその名を刻む最初で最後の大天才エミリオ様の剣術でお前をブッ飛ばしてやるぜ。
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