◇危険指定リスト



 イフリー大陸。

 地界───四大陸のひとつで熱大陸と言えるだけの気温が蔓延る地域。荒野に火山、洞窟や砂漠まで存在する大陸では上質な鉱石が多く発掘される。大陸柄、建築物などは石材をメイン素材とされているが、ここ近年は鉄鉱石の加工技術が上昇し、建物にも鉄を多く使うようになった。

 元々、兵器などの生産に熱を出していたイフリー大陸にとっては、その過程で余った鉄素材をどう活用すべきか、という問題はあった。そこで思い切って建築物の素材に、という声があがり、今では首都デザリアを筆頭に建築物は重圧的な風合いを醸す鉄素材がメインとなっている。


 勿論、これはイフリーの文化ではない。今となってはイフリー文化と思える程乱用されているが元は外界がいかいを拠点に様々なモノを生産する技能族テクニカが確立した技法。

 この技能族こ技法はイフリーだけではなくウンディーにもノムーにも、様々な所でその凄さを発揮している。

 騎士や冒険者には必須な便利アイテム【フォン】、クエストなどを管理する【モニタ】、ギルドなど多数を管理し経営するために便利な大型端末【タブレ】、なども技能族が作り上げ世界全土で利用されている代物だ。


「デザリアの連中は技能族テクニカの技術を自分達のモノだと勘違いしているな」


技能族テクニカも完成すれば終わりって節がある。完成後にどう利用されても知った事ではない、と」


 ノムー大陸からイフリーへ密入国した騎士は既に首都デザリアへ潜伏し、冷たい重圧のある街並みを眺め呆れていた。

 完成すれば放置───終わったものは終わったもの、と手をかける事はおろか利用方法にも利用者にも関心を持たない技能族も技能族だが、そこに漬け込むように結果だけを見て乱用するイフリーもイフリーだ。

 現に鉄製品の生産があらゆる面でコストを圧迫している。しかしそれもイフリーにとっては過程であり結果ではない。首都デザリアにはラビッシュと呼ばれるゴミ溜めがある。街中ではないがデザリアの範囲内にそれは存在し “不必要” なゴミを捨てる場所。この “不必要” の定義は「捨てる側が不必要だと判断したものは全てゴミ」なのだ。つまるところ、育てる必要性を感じない赤子も世話を見る必要性を感じない老人も、ゴミだ。

 ここにデザリアの技術者は眼をつけ、不必要なゴミならば使っても誰も文句を言わない、という考えで仕事を与えている。ラビッシュから出る事を許されないラビッシュ民へ鉄生産を安い賃金でやらせる。ラビッシュ民は外を知らないので相場など知るはずもなく、知った所で仕事を貰えなくなれば不必要なゴミへ逆戻りしてしまう。


 良質な鉄を生産出来る者にはさらに賃金を。

 上質な鉄を生産出来る者にはさらに賃金を。


 ここまで色をつけても本来の生産料金より少ない金額を支払われている。過程の配慮などゴミに対してはそれこそ不必要だ、と笑いながら今日も明日も、デザリアの技術者はラビッシュ民を奴隷のように使い、素質があるものを研究材料へとピックアップしている。


「俺達の目的は爆弾魔に謝罪要求ッスよね? 早いとこ終わらせましょうよ」


 清涼感のある果実ジュースをストローで呑みながら、ダルそうに言う騎士ヒガシンへ、先輩騎士のルキサが、


「早いところ終わらせたいのは同じだが、終わると思うか?」


 現在イフリーを指揮している存在をちらつかせるように言う。

 今回のターゲットこそ、その存在であり今のイフリーを組み立てた特異個体。


「炎塵の女帝......全く、ただの女帝でも面倒だというのに今回は覚醒種アンペラトリス。六女帝の一角を我々3人で相手しろなど、自害しろと言われているようなものだ」


 立派な体格の騎士アストンが愚痴るように言った六女帝というワード。ルキサは気にする様子もなく流した事から既知なのだろう、しかしヒガシンには初見といえるワード。


「六女帝って、覚醒済みの女帝種で本来の女帝よりダンチで危険なんすよね? 具体的にどう危険なんすか? 俺みたいな真人間フツーから見れば能力ディア持ちの時点で化物なんすけど」


 筋肉質な肉をクチへ放り込み、ヒガシンは興味無さげに一応参考情報として話題をふくらませる。興味がなくても遭遇する確率が高いなら知っとくか、程度の態度は騎士としていかがなものかと噛み付かれた事もあるが、これがヒガシンであり今では特級クラスの騎士なのだ。


女帝種エンプレス覚醒種アンペラトリスはまるで違う。同じ共喰いでありSSS-S3トリプルに格付けされているが性質も生態も......何もかもが別物だと覚えておけ」


 ルキサはフォンを操作し、ヒガシンへメッセージを送信する。ヒガシンは特級騎士になった事で今まで秘匿されていた情報を得る事が出来る。その中には覚醒種の情報も。

 一見、こういった情報は共有すべきにも思えるが───中には危険指定されている対象を相手にし、自身の評価材料にしようと企む騎士も存在する。そのような気持ちで危険指定されているモンスターや人物に関わると十中八九その騎士は戻らない。不必要とまでは言わないが、相応の実力を持つ者以外には安易に情報を伝えない事が大切になる場合もある。それがこういった危険指定リスト。


 覚醒種───特異個体などの高ランク指定されている存在には、出会わない事が一番のいいのだから。





 地界ちかい外界がいかい、どちらにも危険指定されている存在は居る。

 どの種族で、なぜ危険なのか、等は様々だが存在する。

 それは地界外界どちらでも同じくして危険指定されている。


 今、地界イフリー大陸には危険指定されているうえに犯罪者指定までされている存在が少なくとも10名。

 

 イフリー大陸及び地界全土の支配を目論む女帝、覚醒種【炎塵の女帝】。


 地界で知らぬ者はいない様々な闇と関係深い犯罪者集団レッドキャップの残党でありながらも最も危険な存在【パドロック】。

 同じくレッドキャップでありながらも元ドメイライト騎士団長という異質な犯罪者【フィリグリー】。


 地界、外界で名が独り歩きしていた未知の集団クラウンのリーダーであり、様々な企みを散りばめる魔女【フロー】。

 元レッドキャップでありながらその時点で既にフローと面識があった奇妙奇怪な人間【リリス】。

 シルキ大陸、鬼族の中で最も強いと謳われている五本角の鬼であり鍛冶職人でもある【酒呑童子】。

 魔女でありながらもフローと行動を共にする【ダプネ】。



 ここまでは、冒険者陣もここイフリーて各々が出会っているので情報はすぐに共有されるだろう。残りはエミリオが既に出会っている【荊罪の女帝】【犯罪者の臓鍋】【溺愛の忌狐】の3名。


 危険指定リストの犯罪者欄にその名を堂々と並べる存在。

 ただの犯罪者ならば危険指定リストには名は載らない。逆に犯罪者でなくとも危険要素があるならばリストインされる。



 騎士ヒガシンが受け取った危険指定リストには余す事なく、この9名が記入されていた。


 おまけに、


「あれ? エミさん達もあるッスよ?」


「当たり前だろう。それは犯罪者リストではなく危険指定リストなのだからな」


「あの魔女チビの世代は全員入れてもいいくらいだろ......」


 エミリオ達の名前もつい最近リストインしていた。



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