◇エレメンタル スィデラス
陽が傾き始めた頃、商品の配置を含めた開店前の作業が終了した。思ったよりも早く終わったので安堵していると、妖怪2人───ひとりはアヤカシだが───は無限の体力なのかすぐにオーダーメイドの話題を持ちかけ、あれやこれやと深い話を始めた。
わたしは完成されたモノを見せてほしい派なので生産過程に全く興味が湧かず、クソマズイお茶を飲む。
地界一の鍛冶屋......か。イカした名前をつけるべきだろう。地界全土からここの品を求めて人が集まるだろうし、オーダーメイドでも店の名前がダサかったら固有名がイケててもダメだ。
外界から客がくるかもしれないし、勇者的なヤツが魔王的なヤツを倒した時、ここの武器が使われていれば歴史に名を残す事になる。
ここはひとつ、わたしがピッタリな名前を考えてやろうではないか。
地界......ノムー、ウンディー、イフリー、シルキ......これってたしか四大元素精霊の名前から取ってるんだよな。
ノーム、ウンディーネ、イフリート、シルフ。
エレメンタル......鍛冶屋......スィデラス。
【エレメンタル スィデラス】か......エミリオという名をどうしても捩じ込みたいので【エミリオン スィデラス】または【エミメンタル リィオラス】だな。感じを見るのに丁度良さげな木もあるし、忘れないように書いておこう。
「まずは、エレメンタル......スィデラス ......っと。おぉ、いい感じ。次はどこに───」
「......? エミリオ何してるの?」
「あー? ビビ様こそいいのか話は」
「一応まとまったからね。それで、エミリオ......今大きく書いた文字ってか、字を書いた板、それ店先に出す立て看板だけど大丈夫? 落書きしててもそれ使うからね」
「......へ?」
「弁償とかそういうのは全然考えてない、むしろ落書きしたならそれ使った方面白いじゃん?」
「......え、」
これ、ガチモンの看板───予定の木───だったの? 確かに言われてみれば......いや言われなくても、形が立て看板でデザインも凝ってる。枠の質的にもアルミナルの職人が絡んでいる代物。
これは......やっちまったパターンだ。
「なになに......エレメンタル スィデラス、って?」
「ビビ今のエレメンタル スィデラスって良くない? エレメンタルは四大、地界も四大と関係してるし、スィデラスって意味はわからないけど響きが気に入った」
「これエミリオが看板に書いた字。意味はビビも知らない」
これは、やっちまってないパターンだ!
「エレメンタルはララが言ったとおり! スィデラスは鍛冶屋って意味で、もうこれ以外、これ以上はないって名前だから決めたんだ」
そう、勝手に決めたんだ。
「へぇ、エレメンタル スィデラス......オイラもいいと思うよ」
「長い名前だな。でもいいんじゃないか? 地界一の鍛冶屋ならそのくらい名乗って当然だろ」
なんだなんだ!? 好印象すぎないか? これなら......
「ちなみに! エミリオン スィデラス、エミメンタル リィオラス、っていう案もあるんだけど!」
「無理矢理自分の名前入れたんだね」
「それはいいや」
「やめた方がいいと思うよエミー」
「だっせ」
わかってた。このネーミングセンスに時空規模でついてきていない事を。
「名前決まったならもう終わりか?」
気を取り直し、話題を修正するしてみたものの......真っ向から即拒否は少し傷つく。
「明日からオープンする予定だけど、エミリオの装備は今メンテしてあげる。ララは2人の話聞いてまとめといて」
「まーた私が部下みたいな仕事かい。まぁ技術を考えればそうなるし、エミリオの装備は私レベルじゃ手に負えないけど───おぉ!? ちょっとニンジャのお兄さん、その防具みせてよ!」
「はぁ? ニンジャじゃねぇし、何だお前急に、触んな」
そういえば......ララって知らない装備を発見すると気が済むまで調べたりするタイプだったか。
闘技大会の時、るーがその餌食になってたのが懐かしいな。
◆
シルキ大陸へ上陸する前にわたしはワンメイク装備を入手し、それから使っている。ノムー大陸の
これからも間違いなく頼る事になる装備を今ビビ様がメンテナンスをしてくれている。ついでに
魔結晶やマテリアの扱いは勿論、地銀などの土台のケアも本業。なのだが、知り合いにそういった人はいない。
「───......んし、マナ サプレーションを強めにかけたし、一応マテリアのケアもしてくれよ」
「はいよー」
左手首からブレスレットを外し、店内と工房を仕切る窓口のスライドボックスへ入れる───前に軽く自分で確認する。
確認といっても専門的な知識はないので何もわからないが、地銀部分───アクセサリー部分───に傷が多い程度なら見てとれる。
地界に来た時から装備しているブレスレットは大小様々な傷が刻まれている。扱いが悪い、と言われればそうかもしれないが、わたしはこのブレスレットをつけない日は今までなかったのだから仕方ない。
「んじゃ頼むぜ」
「はいよー、エミリオちょい
「おう?」
ニューオープンする店は基本的に工房への立ち入りは禁止で、呼ばれた場合は入室可能という職人っぽいルールになっている。わたしはルールの中で自由にやる優秀なタイプなのでこの規則は守る。
「おじゃま〜って、相変わらず暑いな......脳みそ沸騰して死ぬぞ?」
「仕方ない仕方ない。で、エミリオ。この武器の
この武器とはわたしのメイン武器【ブリュイヤール ロザ】の事。
白に淡い青色の剣と細剣の間のような武器で、
「使ったってか、勝手に発動したって感じ。なんだっけこの武器、んーと......
武具には色々な種類があるのは勿論の事だが、武具の種類ではなく性質......と言っていいのか、そういった種類も多分結構ある。
わたしが知ってるのは
全てその名の通りだが、
最後は
「
「......?
「いいよ、丁度メンテも終わるし」
自分の武具くらいは把握しておきたい。それは結構前から思っていたし、今日は暇だからちゃんと話を聞こうではないか。
普段なら説明くさい内容なんてノーセンキューだが、たまには大事。
......だと思う、多分。知らんけど。
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