◇鍛冶屋の手伝い



 様々なジャンルの職人が集い、お互いの技術を競い高めあう芸術の街【アルミナル】。

 自分が生業としているジャンル以外からインスピレーションを得て作品を産み出す職人も多く、地界の流行りモノ───家具や衣服など───はほぼこの街で産まれている。毎日賑やかでいてどこか洗礼された街の声にどことなく懐かしさを感じ、通い慣れた道を進む。


「さっきの街も賑やかだったけど、ここは違った雰囲気だね」


 フォンを入手した和國のアヤカシ鬼───あるふぁは背負っていた封符つきの大太刀をフォンポーチへ収納し、アルミナルの熱意のある喧騒に武具屋への期待値が高まっている様子。


「物作りの街か? 統一性のある尖った活気だな」


 既に装備をラフな状態へと解除していた白蛇。フォンポーチへ装備品を収納する所を見ていたが、カタナは2本、短いカタナが4本、他にもシルキ産ナイフやピックといった投擲武器も複数装備していたのに、防具にそれっぽい膨らみや歪さが見当たらなかったのはニンジャ的な収納スキルなのか? 今度時間がある時に聞いてみよう。


「店行くぜ、しっかりついて来いよ外来種」


 自分も外来種だが一度言ってみたかったので誇らしげに放ち、サイケペイントが施されている鍛冶屋へ向かう。

 治安の悪い地方の落書きのような壁に必ず驚くだろう、とワクワクしていたわたしだが、なんと鍛冶屋の壁が文字通り綺麗に裏切ってきた。


「あれ? えぇ!?」


 シックな焦げ色のレンガを基調とした外装に変わっていた【鍛冶屋 ビビ】、いや看板も変わっている......


「看板は出てる? けど、店名がまだ書かれてないよ? ここで間違いない?」


「看板出てるならやってるだろ。入ってみればいい」


 場所は間違いない。でも、店が以前の......アーティスティックでサイケデリックな雰囲気がない。

 不安が片足を掴む中で、わたしの脳に「通話飛ばしてみれば?」というエミリオと「店の前だし突っ込め」というエミリオが湧き、後者が勝利した。


「店の外装が全然違うんだけど場所ここだし、ちょい見てくる」


 2人を残し、これまたこだわりのあるドアを引くと【雨の街 アイレイン】で奏でられているレインオルゴールに似た風合いの音色が響く。


「うい〜......ビビララいるかー?」


 覗き込み、声を出してみるも返事はない。しかし、奥の工房らしき場所から音が聞こえる。


「入るぞー!」


 少々ボリュームを上げて言い、外で待つ2人を手招き中へ。

 わたしの知る鍛冶屋はこの時点で武具がズラリと並び、その全てがハンドメイドだと記憶しているが......武具はおろか装飾品さえ見当たらない。代わりに木箱などが山積み。


「ここが帽子のオススメの......倉庫か?」


「武具店とは思えないね」


 2人の感想は最もだ。倉庫にしても、ソファーやテーブルなどが置いてあるせいか狭すぎる。


「奥行ってみようぜ」


 勝手に進み工房のドアへ手を伸ばそうとした瞬間、ガチャリ、とドアが鳴いた。


「───やっぱり本来の形に本来は無いモノを追加する、よりも、本来の形でも無いモノをつけるって方が難しいねぇ......お?」


「まぁぼちぼちだね。お、コマンタレブー」


 何やら難しそうな会話をしていた鍛冶屋の2人が顔を見せた。





 マスタースミスの【ビビ】と【ララ】───ララは皇位を持つ鍛冶師───はアルミナルを拠点に活動していて、環境的にもやはりこれからもアルミナルを拠点にする事に変わりないらしい。しかしここ最近はララが「ビビの店は設備が優秀すぎる」との理由で入り浸っていた。ので、凄腕スミスが話し合い、この店を改装し “地界最高の鍛冶屋” として営業してみようという事で先程の倉庫状態だったらしい。

 2人とも店とは別に家も用意してあるらしく、ララはバリアリバルに、ビビ様はアルミナルに。


「さっきビビ達が出てきたのは工房じゃなくて、店内っていうのかな? 前より奥行きが広くなってるから工房は地下にある」


「武具や装飾品は勿論、ビビは高性能の義手義足の生産者だからそっちもここでやるんだけど、私とビビだけじゃどーにも手が足りなくてね」


 高性能義手───アーティフィシャルアームはワタポの両腕のベースとなる義手。ワタポは冒険者用......もっと言えば自分専用の性能を持つ義手を使っている。冒険者だけではなく一般の人達もビビ様の義手や義足を愛用していて、事故などの大怪我でリピナのもとへ運ばれた人で手足を失った患者にビビ様を紹介するという、医師も認める一品。


「地界一の鍛冶屋か......イカスな!」


「でしょ? で、今日はどうした?」


 タバコに火をつけ、一服しつつビビ様は本日の要件を訪ねてきたので妖怪へ視線を送る。


「帽子のオススメ店って事で来たんだが、いい武具はあるか?」


「オイラも同じ目的だけど、カタナはある?」


 ダブルスミスはシルキ勢をじっと見た後、予想通り営業を持ちかけた。


「もういっそ、オーダーメイドは? 2人の雰囲気的にそっちの方がいいと思うけど」


「ビビもそう思う。エミリオの紹介なら少しだけなら安くするし、素材持ち込みは勿論、素材集め中にこっちでほしい素材が手に入ったら買い取るし」


 雰囲気的に真面目に営業するララと、どっちでもいいという雰囲気を醸すビビ。見た感じ熱量は違うが、この2人は重視している部分も違う。

 ララはフォルムやディテール......見た目に熱を持ち、ビビ様は性能以外は二の次三の次。ここで2人が求めているのが、デザイン考案やカラーリングを任せられる人物。

 ララがやれば? とは思ったがどうやらララはぼんやりとしたイメージで始めて、生産中にあれやこれやと姿形を脳内で彫り始めるタイプ。それで成功するから天才なんだろうけど、本人も「最初からデザインが決まっていれば楽」とぼやいていた。


 まぁ、こういう生産系、創作系の世界はわたしには全くわからないので何も言えない。


「なぁ、わたし達が今店の改装? 手伝ったら、色々サービスしてくれるか?」


 わたしは生産者ではなく冒険者であり消費者だ。

 店が正常に働いていないとメンテもまともに頼めない───他の店では扱えない───武具を愛用している実としては一刻も速く心機オープンしてほしい。


「あと商品並べたりするだけだけど、手伝ってくれるならいいよ」


「私もいいよ、オープンってか装備いじれる環境が整ったら3人を優先するよ」


「おっけ! 妖怪もいいだろ?」


「オイラは全然いいよ」


「面倒臭ぇけど優先してくれるのはデカイな。いいぞ」



 わたし達は商品の配置を、ダブルスミスは工房の調整を始めた。


 前以上に広い店内なので、商品の数も中々にエグい......手伝うなんて言わなきゃよかった、と開始2分で後悔した。



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