◇シンシアと十二の神 1



 外界へ向かう理由と目的。黄金の魔結晶と特種魔結晶、魔結晶塔。奇病。他にも大小様々な事を聞けたので結果的に今回の会合は───こちら側としては───大きな収穫があった。

 個人的にはトリプルSSS-S3全員に一気に出会えた事が大きい。

 キューレがわたし達の情報を、勿論求められた場合だけだが結構な額で売っていた事も知れた。


「〜〜〜っ、座ってるのキツくはなかったけど、やっぱ性に合わないぜ」


 無事、というより何事もなく解散し、わたしは背伸びする。今回の集まりの目的だった、わたし達に外界の事や魔結晶の事を話す、は達成出来たし無駄な争いもなく、キューレが「ここまでサッパリ終わるとは思わんかったのじゃ」と言うくらいサッパリあっさりと終わった。


「あ、そういえばエミちゃ昨日何してたの?」


 クゥの下顎をわしゃわしゃ掻きながらワタポが昨夜の事を訪ねてきた。わたしもこのメンバー【フェアリーパンプキン】に、集会場ぶっ壊したのお前らだろ? と聞きたかったし、まだ昼前だというのにわたしの脳みそが起きているのも珍しいのでゆっくりいこう。


「昨日は───」

「ここに居たのかい、エミリオ」


 昨日の厄介者【キャプテン ゼリー】が声を響かせ乱入する。

 トリプルは先にユニオンを出て、外にいる邪魔なアホ共───主にお前らトリプルのギルメン───を散らす仕事があるというのに、コイツはなぜ戻ってきた?


「あなたはさっきの海賊の......」


「エミリオ海賊になったの? 何の違和感もないわね。元々エミリオは略奪っ気あったし海賊になったのも頷けるわ」


「確かにエミちゃんは海賊っぽさあるかも! 何ていうの? 豪快で強引で後始末は勝手にどうぞ、みたいな厄介者!」


「「 お前らの海賊の印象どんなだよ...... 」」


 ゼリーと声が被ったのが、何か......何か嫌だった。


「ワタポ、さっきの話だけど、昨日はコイツと喧嘩してたんだ。つーかお前何しに戻ってきたんだよ?」


 わたしはワタポの質問に答えつつ、ゼリーへ質問を飛ばす複数名で会話する時に使えるテクニックを炸裂させた。


「アタシはアンタにゲロ引っ掛けられた事の方が濃く記憶に残ってるよ......無茶苦茶なヤツだってキューレから聞いてたけど、言葉そのまま、本当に無茶苦茶なヤツだよアンタは」


 うっすら、本当にうっすらと覚えているがあの時は魔術反動───魔女の魔術の反動とは違うタイプの反動───でそれどころではなかった。


「まぁいいさ。こうしてアンタと仲良くなれたんだし、元々小さい事は気にしないタチでね。それより───アンタら【フェアリーパンプキン】だろ? 義手の子はどの子だい?」


 ゼリーはワタポに興味があるのか義手指名し、名乗り出ようとした時、


「いたいた! 探したよキミ達!」


 またしてもトリプルがユニオンへ戻ってきた。

 ワインレッドの白衣───最早白衣ではない───という悪趣味な格好をした【ケセラセ】が飛び切りの笑顔で。


「なんでアンタが来るんだいケセラセ! 苦手なんだよアンタは」


「そんな言い方しないでくれよゼリー! 僕はキミを嫌っていない、むしろキミ達の陽気で豪快な部分を好いているというのに!」


「アンタのそういう軽い所が好きじゃないんだ! アンタみたいな性格は腹の中で何を企んでいるかわかったモンじゃないだろう!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 銃はやめよう銃は! 防具を着込んでいても鉛弾が当たると結構痛いんだよ!?」


「それじゃあ剣で追っ払ってやるよ、いや、アンタの腹の中を見てやるよ!」


「勘弁してくれよゼリー! 知識以前にキミの性格ではオペなんて無理だろう?」



 騒がしい2人のトリプルを放置し、わたし達はこっそり退散する事を選んだ。じゃれ合いがどのタイミングでどの程度の喧嘩へと派生するかなんてわかったものじゃないし、トリプル同士の喧嘩に巻き込まれるのはごめんだ。



「エミリオ、この後予定ないわよね? 昼食食べさせてあげるから予定あるなら空けてもらえる?」


「あ? 予定はないけど、ひぃたろハロルドからそんな事言うの珍しいな」


 本当に珍しい事が起こった。あの半妖精が昼食を奢ると、しかも、予定空けてもらえる、、、、? と......わたしの中のひぃたろハロルドなら「この後予定ないわよね付き合いなさい。予定あっても来なさい」みたいなヤツなのに......会ってないうちに何か悪いもんでも拾い食いしたのか?


「いいじゃんエミちゃん! こうやって4人だけ集まるのなんか久しぶりだし、ひぃちゃんがご飯食べさせてくれるって言うんだし!」


「ワタシも騎士学校の事や騎士の事も聞きたいし」


 言われてみれば確かに、4人だけ集まるのは久しぶりな気がする。冒険者になったばかりの頃は何かと4人でやってたけど、視界が拓けて視野が広がると各々道も違ってくる。当たり前の事でいい事だと思うけど、こうして集まるのもまたいいな。


「今のわたしは100人前食うぜ。破産してギルド経営が難しくなって解散しても知らねーからなフェアリーパンプキン」





 昼食にしては少し早い、というワタポの判断によりお茶が出てくる。

 今わたしは【フェアリーパンプキン】のギルドハウスに久しぶりにお邪魔し、ココアに砂糖を投下している所だ。


「「「 ............ 」」」


「───? どした? 3人してわたしを見て」


 妙な瞳でわたしを見ていた3人。


「250ml程度のマグカップにグランスティックシュガーを6本」


 コーヒーを配膳しつつわたしの砂糖数を数えていたワタポが呟いた。それに何の意味があるのか不明だが、わたしの行動をいじる雰囲気は全くない。


「まだ入れる?」


「いや......なに? これ高級な砂糖なのか? 高級っぽい感じするけども」


 プンプンの質問に質問で返す禁じ手を使ってしまう程、妙な雰囲気に戸惑っていた。

 使いすぎだった場合、このメンツだと直球で言ってくるハズだ。そういった遠慮がない関係だからこそ気になる。


「エミリオ、そのココアを自分が飲みたいように仕上げてみて」


「......? ......??」


 よくわからないが、わたしは砂糖を投下中だった。6本目でワタポが呟いたので手が止まっていたが、あと2本入れてから混ぜ、味見する予定だったのでその通り運ぶ。


「......、......なんだよさっきから! ジッと見やがって! 感じりーぞ! 何か文句でもあんのか!?」


 好ましい味になった所で素早くこちらのターンに入る。この3人は “同じ何か” を思っているのは間違いない。それが何なのか不明だが、わたしがココアに砂糖を入れて飲む、という行為が何かを思わせたのは確かだ。


「確かに感じが悪いわね。そこは謝るわ」


「はぁ!? おいおいひぃたろハロルドが素直に謝るってまぢにどーしたよ!?」


 これはいよいよ何かある。そう確信したわたしは一旦落ち着くべくココアを半分ほど飲み、3人を見ると、


「......エミちゃ、そのココア凄く熱いんだよ」


「それにその砂糖はボク達が貴族から受けたクエストで貰った物凄い甘いやつなんだ」


 ワタポ、プンプンの言葉を聞き再度ココアを飲んでみるが......温度は温かい程度で味は好ましい甘さだ。

 コイツら何なんだ? 確かにずっと前に連絡した時3人はメイド服でクエストって感じだった。その報酬で貰った砂糖という事も別に不思議でも何でもない。


「さっきから何なんだ? 段々と腹立ってきたぞ」


「エミリオ。貴女が和國シルキから帰還した頃、私達はまだシルキにいたのよ。そして騎士学校で事が記事になった頃に私達は和國シルキから帰還したのよ」


 ......わたしはシルキから帰還後、1ヶ月分前払いでアルミナルの宿を制圧していた。

 それからバリアリバルへ帰還し、騎士学校へすぐ向かった。騎士学校では13日間生活し、その後シンディの部屋を拠点にノムーで2ヶ月ちょっと過ごして今。

 約3ヶ月と二週間くらい会ってなかったのか......たしかに装備───防具を見ると所々強化による変化や追加などされている。が、


「それがなんだ?」


 シルキにいたのはわかった。防具を見た感じより上質な防具になっている事もわかった。で、何だと言うんだ?


「私は “みるひぃ” と、プンちゃんは “プン” と、ワタポは “トワ” と会ったのよ。会ったと言っても魂魄......いえもう少し具現的......残滓のような存在かしら」


「いや誰だよそれ」


「私はみるひぃにしか会ってないけれど、プンちゃんもワタポも、勿論私も、会った相手のクチから聞いた名前がある。それが───」


 スッ、と空気が変わった。


「エンジェリアとシンシアよ」



 ここで、エンジェリアの名前を魔女ではない、外界渡航歴もない同期冒険者から聞くとは思わなかった。



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