◇小さな死神
闇夜に冷たく輝きを放つ
魂を狩る形を土台に、命を削り狩る形状へと変化を遂げた大鎌タイプの武器に対し、マユキは銀の墓標ナイフ。
修道服を外見ベースにした防具で銀の大鎌を器用に振り回す少女。自身の身体を軸とし大鎌を回しては引き、振り抜いては回し、を繰り返す。
「上手デスねぇ。それにしても、銀だなんて好んで選ぶ素材じゃないデスよねぇ? ワケを聞いても───の前に、お名前聞いてもよろしいデス? あたしはマユキっていいます」
小柄な体格からは考えられない攻撃速度と足運びだが、マユキは危なげなく回避を続けつつ会話を試みる。
「
小柄な体格、少女のような外見、仲間も修道服、という点でマユキはこの人物の正体を理解する。
「おぉ、あなたが
穏やかではない異名を持つ
「私の事ご存知でしたのね?」
クレアの大鎌の猛襲を掻い潜りながらマユキは会話を楽しむ。
「ご存知デスよ。あなた、有名デスし」
【
吸血鬼にとって───いや、悪魔という種族にとっては組織的な危険度よりもこの4名の個人的危険度のほうが脅威、厄介、面倒だと判断されている。
「貴女こそ有名ですわよ?
「おぉ、ご存知だったんデスねぇ」
「顔と名前が一致していなければ奇襲などしませんわ」
「奇襲? はて? 奇襲......デスかぁ?」
わざとらしく、挑発的にマユキは悩む素振りを見せた。しかしその挑発にクレアは全く揺れず大鎌を振り続ける。
ここである違和感がマユキの思考に浮上する。
小柄というには幼すぎる外見で大鎌を振り回すクレア。小柄で大物を振る冒険者など珍しくもないが、攻め続けても息切れひとつ見せないのはどんな理由か。
外見年齢は10代前半で体温が低そうな肌色。肌をほぼ出さない修道服型の防具と銀の大鎌。
装飾や刺繍などもゴシカルでそういう趣味の子は数えきれない程この世界には存在する。ファッション的、オシャレの一環としてゴシック要素を濃く愛する者はいる───が【リトル クレア】は趣味も勿論含まれているが、別の意味があるとマユキは踏んだ。
「あなた......不老デスねぇ?」
ピタリとクレアの動きが止まった。この瞬間をマユキは逃さず、銀の墓標ナイフで頬を浅く切り、血玉をナイフの先に付着させ大きく下がる。
ナイフに付着した血痕を嗅ぎ、舌先で撫でる。
「......おぉ! この
「............貴女の口調、行動、存在がとてつもなく不愉快ですが、中々面白い方ですわね。一滴の血液から奇病を言い当てたのは驚きですわ」
クレアは大鎌を背に戻した。敵意も薄れた事を確認したマユキは───クレアの仲間へ視線を向けた。
「あなた方は......ただの人間デスねぇ。でも全員当たり前のように銀をお持ち。ギルド名はなんていうんデス? ───あ、コラ、マユキちゃん今はダメデスよぉ」
「......??」
ギルド名を訪ねたかと思えばマユキは自分の頭の中に言うよう喋り始めた。視線を上に向け脳を見るようにし「危ないデスよぉ、この方々はあたしに用があるとみて間違いないんデス」など虚空へ語りかける。
「
「へぇ、詳しくお聞きしたいのデスが、マユキちゃんがどうしてもお話したいみたいで、よろしいデス?」
「......何をおっしゃっているのか理解できませんが、私も貴女に興味が湧きましたので構いませんわ」
「ありがとうデス。さてマユキちゃん、あたしが危険だと言っているのに無理矢理出てくるのはダメデスねぇ......お仕置きしておくデス」
マユキはにぃぃ、と口角を上げ銀の墓標ナイフを躊躇なく腹部に突き刺した。狂った行動に【アンティル エタニティ】の面々は顔を引きつらせるも、ギルドマスターの【リトル クレア】ともう1名は表情ひとつかえない。
「───......痛ッ!! なんで、うぅ」
マユキは膝をつき数秒停止後、雰囲気が一変した。先程より柔らかい声音で呟き、腹部に建った銀の墓標を必死に抜こうとするも、先端付近には返しがつけられているナイフは簡単には抜けず、無理矢理抜けば、
「〜〜〜〜ッ! っ、なに考えてるの......」
肉が裂け抉れナイフは抜ける。
「......ごめんなさい、えっと、リトルクレアさん」
性格は違えど身体は同じ真祖吸血鬼。抉れた傷もすぐに再生する。血液が筋となり傷口を縫い繋げるように、細胞が蠢くように再生された腹部の傷を見てクレアは顔をしかめた。
「貴女は何者なのです? 先程とは人が変わったかのようで、対応する側の身としてはとても困るのですが」
先程までは悪魔らしい気配が確かにあった。しかし今は人間らしい気配を強く感じるクレアは眉を寄せマユキを見る。ギルドメンバーもマユキの雰囲気の変化に気付き、徐々に集まる。
「何者っていうのは種族とかそういう事ですか? って、えぇ!? こんなに人がいたの!?」
建物の屋根や影からクレアのギルドメンバーが姿を現す。クレアと
「驚きはお互い様ですわよ。貴女本当に何なのです? 先程の貴女ならばこの程度の潜伏、気付いていらっしゃるでしょう?」
不機嫌に言うクレアを見て、マユキは思わずクスリと笑ってしまった。
「まぁ!? 貴女今、
「あ、ごめんなさい! でもなんだろう......可愛らしくて、つい」
「......馬鹿にしてますの?」
「違いますよ! ただちょっと......その外見で拗ねたような表情、その大人みたいな口調がとても可愛く思えて」
「......やっぱり馬鹿にしてますわよね?」
「してないですって!」
あわあわと慌てるマユキ、ツンとした顔のクレア。このままでは何も進まないと判断したのかギルドメンバーのひとりが割って入る。
「ここでは落ち着いて話せませんし、どこか入りませんか? クレアももういいですね?」
優しそうな雰囲気を全身から溢れさせる女性が会話の隙間に入り込む。
「あたしは、その、大丈夫ですけど......」
「......いいですわ。貴女には色々と聞きたい事もありますし、今の貴女からは全然悪魔の気配がしないのでやる気が萎えてしまいましたわ」
「では行きましょうか。マユキさん傷の具合は? 痛む様子でしたら治癒術を───」
優しい声音で言う女性へクレアが尖る声を向ける。
「必要ないですわ。先程の傷ももう再生してるご様子ですし、噂は本当のようですわよ。そんな事よりもどのお店へ向かうのですかヴィアンネ」
人の傷をそんな事、で片付けるクレアにヴィアンネと呼ばれる女性は苦笑いを浮かべる。
「すみません、クレアも悪気があるワケではなくてですね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
なぜ突然襲われたのか......それも含めてマユキはクレアから話を聞くため、同行した。
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