◇ウンデュラータ
ギルド【海竜の羅針盤】の船長ゼリーの発言───この街にはアタシ達【海竜の羅針盤】や【ジルディア】以外にもトリプルがいるって事。
だからどうした、とも思うが、それはわたしのような同期にウザ絡みしていた場合の感想であり、コイツ等が言う問題児世代......バッドアップルには問題児とは言えない優しいヤツもいる。そこへコイツ等世代の
「逆パターンは爆笑だけど、戦る気ないヤツに執拗に絡むのはうぜぇなんてモンじゃねーぞ」
「その
再び大武器の投擲を始めたゼリーだが、ブーメラン遊びに付き合っている暇はなくなった。骨折を無理矢理繋げる
「───っぶね」
ブーメランへ突っ込む形で走りギリギリ回避に成功、回数を重ねる毎に速くなる───つまり1発目は遅い、という分析結果がここで役立つとは自分でも驚いた。このままゼリーまでの距離を詰めつつ魔術で気を散らせる。
「ファイアボールが8発!? 最大数じゃないか」
狙い通り
なめらかな
「───ッ!!」
「!? へぇ......」
ゼリーはすぐに近接へと思考をシフトさせ三日月形の武器を投擲ではなく斬撃として両手で構え、わたしを迎え撃つべく武器を振り下ろす。大型で独特な形状の武器を驚く速度で振るうゼリー。流石は
普段は眼で追う事さえ出来ない速度を
ゼリーの武器の刃の側面をわたしの剣が撫でるように走り火花を散らす。側面を押す事で斬撃の軌道をそらす事が可能であり、わたしは左利きなので相手が右利きの場合が多く、このイナシが狙いやすい───とグリフィニアに教わった。
剣術の場合は剣術で、通常の場合は通常で。例え大武器だろうと高確率で成功するうえ左利きなので内側でやり過ごせる。とグリフィニアが言った通りの流れに。
前提条件の “相手の攻撃の軌道が読める、または予測出来る” というのが中々なハードルだったが【ペレイデス ピプラ】がそのハードルを簡単に飛び越えてくれた。
撫で進むわたしの剣は外側ではなく内側、ゼリーの武器は内側から外側へ押され膨らむように初期軌道から外れる。大型の武器を両手持ちにしてわたしを粉砕しようとしたのが仇となったな。このまま剣を振り抜きゼリーを斬る。
「参ったねぇ」
呟きと同時にゼリーは両手を引くように動かした。すると、三日月形の武器は
「チッ!」
プレスガードのように剣が押し弾かれ、今度はわたしの剣が外側へ広がるように。ゼリーが手に持つ武器の先端には───大型の両刃が......
「......
「正解、外界製な。惜しかったねぇエミリオ」
ゼリーの武器はイフリー大陸のデザリア軍が好んで使う少数派の武器、
「あめーよ海賊」
「───!? なんだ......この、黒い壁!?」
ゼリーの重攻撃を受け止めたのは黒い壁の正体は───
「壁じゃなくて
1発目の魔術は
そして、
「七連いくぜ船長!」
「───!? このガキ、影でッ!」
4発目はグリフィニアに教わった “華剣ウンデュラータ” を使いやすいようにアレンジし、そこへ今は地属性を付与した七連撃魔剣術【ネリネ ウンデュラータ】を全力で撃ち込んだ。
【ルナール アクセル】で速度を上昇させ、【ペレイデス ピプラ】で相手の動きに睨みを利かせ、動きがあれば【スキアーレイド】で対応しつつ、竜の剣と短剣を全力で振るった。
飛び散る鮮血が剣術の命中を物語るが、ゼリーは悲鳴はおろか痛みに声を漏らす事なく舌打ちだけで終わった。
「トリプルだか何だか知らねーけど、わたし達バッドアップルをあんましナメない方がいいぜ?」
「......身体の、内側が、、これは、妖力か? ......なら」
剣術は全てヒットし、ゼリーは血液を溢れさせつつも立ち上がろうとする。しかし思うように立てない。
「妖力知ってんのか。剣術に地属性を付与した魔剣術......
突然わたしの全身から力が抜けた。視界も何重にも細かく重なって見え、意識が少し浮くような不思議な浮遊感が───
「おっと、お疲れさん。噂以上に無茶苦茶な子だねぇアンタ」
「あ? お前......なんで動けん、だよ」
傾き倒れかけていたわたしを、ついさっき、数秒前まで地属性妖力の特性を模擬した貫通魔力を食らっていたゼリーが支えてくれた。
こんな短時間で動けるようになるほど優しいモノじゃないハズだ......何かしらの対抗手段はあるだろうけど......
「アンタ妖力に対抗する知識もないのにさっきの使ったのかい? いい具合に頭がイカレてるねぇ。散々暴れてこのザマだし、後先考えないタイプだろ? そういうバカは大好きさ」
「身体......バグった......なんだ......これ......オェ、、吐きそう、、」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ちな!」
「......ごめ、むり」
「
最高ランクを持つ冒険者であり、
騎士学生とわたしに予想外な差があったように、ゼリーとわたしにも予想外な差があるのだろう。殺し合いではなく喧嘩───決闘や試合のような戦闘だとはいえ......5割ほどしかゼリーの闘志を引き出せなかったのは残念だが、不思議と悔しさはない。
なんにせよ早くキューレへ連絡し、他の同期の現状を知りたい所だが原因不明の───何となくわかっているが確定していない───デバフでフォンの操作する事さえ出来そうにない。
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