◇ウンデュラータ



 ギルド【海竜の羅針盤】の船長ゼリーの発言───この街にはアタシ達【海竜の羅針盤】や【ジルディア】以外にもトリプルがいるって事。問題児世代バッドアップルに興味を持つアタシの同期が───をわたしのフィルターへ通すと “今この街にはゼリーのようにわたし達へウザ絡みするヤツが湧いてる” という意味になる。

 だからどうした、とも思うが、それはわたしのような同期にウザ絡みしていた場合の感想であり、コイツ等が言う問題児世代......バッドアップルには問題児とは言えない優しいヤツもいる。そこへコイツ等世代の挨拶、、なんてしてみろ。こっちの世代が怪我したってレベルじゃ済まない場合もあれば......全てが逆の場合も充分にある。


「逆パターンは爆笑だけど、戦る気ないヤツに執拗に絡むのはうぜぇなんてモンじゃねーぞ」


「そのツラといい眼といい、酒場で会った時とは別人じゃないか! それが噂の青髪帽子の魔女かい? さぁ見せてみな、アンタの実力を!」


 再び大武器の投擲を始めたゼリーだが、ブーメラン遊びに付き合っている暇はなくなった。骨折を無理矢理繋げる補助バフをしたとはいえ補助は補助、本格的な治癒や治療までの誤魔化しでしかないし、痛撃ポーションも誤魔化しにすぎない。コイツを黙らせてすぐにキューレへ連絡し、うぜぇ奴等には気をつけろって情報を拡散してもらい、リピナにてもらうのが今わたしが走るべきルートだ。


「───っぶね」


 ブーメランへ突っ込む形で走りギリギリ回避に成功、回数を重ねる毎に速くなる───つまり1発目は遅い、という分析結果がここで役立つとは自分でも驚いた。このままゼリーまでの距離を詰めつつ魔術で気を散らせる。


「ファイアボールが8発!? 最大数じゃないか」


 狙い通り初級魔術ファイアボールの数に気を向けた。この隙にわたしの能力ディアをフル活用し四重詠唱を使う。


 なめらかな体術動きでファイアボールを回避しつつ、わたしの位置と武器の軌道も確認し、ゼリーは武器をキャッチした。が、回避と位置確認を同時に行っていたためすぐに投擲出来ない体勢───チャンスはここだ。


「───ッ!!」


「!? へぇ......」


 の形をした履く、、ようにブーツへ纏い、それを爆雷させて速度を急激に上昇させる補助【ルナール アクセル】で距離を一瞬で詰める。

 ゼリーはすぐに近接へと思考をシフトさせ三日月形の武器を投擲ではなく斬撃として両手で構え、わたしを迎え撃つべく武器を振り下ろす。大型で独特な形状の武器を驚く速度で振るうゼリー。流石はトリプルSSS-S3普段の眼、、、、ならガードするのもやっとだろう。だが、今のわたしの眼は違う。

 普段は眼で追う事さえ出来ない速度を無理矢理捉える、、、、、、、強引な補助魔術【ペレイデス ピプラ】で斬撃は見えている。


 ゼリーの武器の刃の側面をわたしの剣が撫でるように走り火花を散らす。側面を押す事で斬撃の軌道をそらす事が可能であり、わたしは左利きなので相手が右利きの場合が多く、このイナシが狙いやすい───とグリフィニアに教わった。

 剣術の場合は剣術で、通常の場合は通常で。例え大武器だろうと高確率で成功するうえ左利きなので内側でやり過ごせる。とグリフィニアが言った通りの流れに。

 前提条件の “相手の攻撃の軌道が読める、または予測出来る” というのが中々なハードルだったが【ペレイデス ピプラ】がそのハードルを簡単に飛び越えてくれた。


 撫で進むわたしの剣は外側ではなく内側、ゼリーの武器は内側から外側へ押され膨らむように初期軌道から外れる。大型の武器を両手持ちにしてわたしを粉砕しようとしたのが仇となったな。このまま剣を振り抜きゼリーを斬る。


「参ったねぇ」


 呟きと同時にゼリーは両手を引くように動かした。すると、三日月形の武器は閉じる、、、ように機動し、手持ち部分も閉じるように折れた事により太い棒へと変わる。その棒部分でわたしの剣を押し弾く。


「チッ!」


 プレスガードのように剣が押し弾かれ、今度はわたしの剣が外側へ広がるように。ゼリーが手に持つ武器の先端には───大型の両刃が......


「......変形武器ギミックウェポンか」


「正解、外界製な。惜しかったねぇエミリオ」


 ゼリーの武器はイフリー大陸のデザリア軍が好んで使う少数派の武器、変形武器ギミックウェポンだった。三日月形の独特な斬撃投擲武器は変形で大型斧アックスへと変わり、今まさにわたしへと振り下ろされる。


「あめーよ海賊」


「───!? なんだ......この、黒い壁!?」


 ゼリーの重攻撃を受け止めたのは黒い壁の正体は───


「壁じゃなくてだぜ」


 1発目の魔術は魅狐ミコプンプンの能力ディアからヒントを得て考案した【サンダーブーツ】の上位互換【ルナール アクセル】。2発目の魔術はワタポの能力を魔術で無理矢理真似パクった【ペレイデス ピプラ】。3発目の魔術は盲目トウヤ導入能力ブースターからヒントを得て自分の影に魔術をかけて操る【スキアーレイド】。

 そして、


「七連いくぜ船長!」


「───!? このガキ、影でッ!」


 4発目はグリフィニアに教わった “華剣ウンデュラータ” を使いやすいようにアレンジし、そこへ今は地属性を付与した七連撃魔剣術【ネリネ ウンデュラータ】を全力で撃ち込んだ。

 【ルナール アクセル】で速度を上昇させ、【ペレイデス ピプラ】で相手の動きに睨みを利かせ、動きがあれば【スキアーレイド】で対応しつつ、竜の剣と短剣を全力で振るった。


 飛び散る鮮血が剣術の命中を物語るが、ゼリーは悲鳴はおろか痛みに声を漏らす事なく舌打ちだけで終わった。


「トリプルだか何だか知らねーけど、わたし達バッドアップルをあんましナメない方がいいぜ?」


「......身体の、内側が、、これは、妖力か? ......なら」


 剣術は全てヒットし、ゼリーは血液を溢れさせつつも立ち上がろうとする。しかし思うように立てない。


「妖力知ってんのか。剣術に地属性を付与した魔剣術......和國シルキで地属性の妖力食らってな。そこから色々試してやっとそれっぽい特性に辿り着いた。めっさ痛ぇよなそれ───......あ?」


 突然わたしの全身から力が抜けた。視界も何重にも細かく重なって見え、意識が少し浮くような不思議な浮遊感が───


「おっと、お疲れさん。噂以上に無茶苦茶な子だねぇアンタ」


「あ? お前......なんで動けん、だよ」


 傾き倒れかけていたわたしを、ついさっき、数秒前まで地属性妖力の特性を模擬した貫通魔力を食らっていたゼリーが支えてくれた。

 こんな短時間で動けるようになるほど優しいモノじゃないハズだ......何かしらの対抗手段はあるだろうけど......


「アンタ妖力に対抗する知識もないのにさっきの使ったのかい? いい具合に頭がイカレてるねぇ。散々暴れてこのザマだし、後先考えないタイプだろ? そういうバカは大好きさ」


「身体......バグった......なんだ......これ......オェ、、吐きそう、、」


「はぁ!? ちょ、ちょっと待ちな!」


「......ごめ、むり」


ウソだろぉあああああーーーーーー!!??」


 最高ランクを持つ冒険者であり、四大よんだいギルドと言われているギルドのマスターとの勝負は、実質わたしの負けで終わった。七連撃を全て撃ち込んだというのに、確実にダメージを与えたというのに、ゼリーは余裕があり余っている。あの大武器がメインウェポンなのかさえ怪しい。

 騎士学生とわたしに予想外な差があったように、ゼリーとわたしにも予想外な差があるのだろう。殺し合いではなく喧嘩───決闘や試合のような戦闘だとはいえ......5割ほどしかゼリーの闘志を引き出せなかったのは残念だが、不思議と悔しさはない。


 なんにせよ早くキューレへ連絡し、他の同期の現状を知りたい所だが原因不明の───何となくわかっているが確定していない───デバフでフォンの操作する事さえ出来そうにない。



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