◇533 -剣を扱う術を知る者-



 魔女がいるとバレるので魔術は禁止、剣術はありの模擬戦───とは既に言えない戦闘で、わたしはグリフィニアを黙らせるべく勝利を掴む。この戦闘は学生エミルではなく冒険者エミリオとしての戦闘だ。

 グリフィニアは何が気に入らないのか......そんな事どうでもいい。ただ、黙って見ててくれればいい。もっと挑発的な言い方をするのならば、わたしの邪魔をしなければ何でもいい。


 この戦闘で勝って黙らせる───と意気込んだはいいが、この教官、まぢに強い。

 確実に下手な騎士より余裕で強い。元騎士らいしがどのレベルだったんだ? 攻防のラグがほとんど無く滑らかで、こっちは攻めきれない。


「これが “剣を扱う術を知る者” と “剣を持っているだけ者” の違い。あなたは後者です」


 わたしの思考が分かりやすく表情に出ていたのか、攻めきれない理由を遠回しに言ってきやがった。わたしは “剣を持ってるだけ” か......お前に言われるまでもなく知ってる。

 魔術があって、特種効果エクストラスキルがあって、初めてわたしの剣が武器になる事を和國で知った。そして今、わたしの手には特種効果武具エクストラウェポンである【ブリュイヤール ロザ】は勿論、対魔竜の短剣【ローユ】も無く魔術も禁止ときた。

 グリフィニアの言う事───魔術禁止───を聞く必要ないんじゃ? と思ったが、それじゃ今でのわたしと変わらない。別に変わりたい願望はないが、昨日より強くなりたい願望はある。

 そして強くなる為にはどうすれば......───魔女力ソルシエールを貴女のスタイルで使い熟していきなさい。そうしなければ私どころか特級隊にも勝てないわよ。


 こんな時に、天魔女クソババアの言葉を思い出すとは......最悪な気分だ。


「全然なってませんね。攻めも守りも穴だらけですよ」


 今までわたしに合わせるよう剣を振っていたグリフィニアが、一瞬だが確かに実力の片鱗を見せてきた。滑らかかつ優雅な剣戟が、魅せるような剣技が、相手を斬り伏せると言わんばかりの明確な殺意に動いた。


 1秒とない時間で最大の発光を放った無色光。その光を剣が宿す前から既にグリフィニアは剣術のモーション───起動ではなく軌道に入っていた。1歩間違えれば剣術が盛大にファンブルし、キャンセル系さえ入る隙間のないファンブルディレイに襲われるというのに、全くビビリがない動き。

 と、考えているうちに、盛大かつ鮮明な無色光を着込んだ刃がわたしの腹部を一閃した。


「カッ、っぁ......ッ、痛ッ......」


「こんな剣でなければ、あなたは今腹部から真っ二つですよ」


 訓練用の剣だからこそ打撃で済んだが、グリフィニアの言う通り、ガチだったら修練場ここにはわたしの血液と内臓が散らばっているだろう。

 死なずに済んだ、といえば救われた感があるものの、強烈な痛みが腹部から全身を駆け回る中では救われたなんて微塵も思えない。


「降参しますか? いえ、降参してください。もうこれ以上続けても意味がありませんし、私は弱者をいたぶる趣味はありません」


「ッ......、す、すげぇな......。流れるように、剣術を使う......、すげぇなお前」


 起動で無色光を纏わせ、剣を振る。

 これが今までのわたしのやり方だったが、グリフィニアは、起動と軌道を同時......剣戟の中で溜めもなく剣術を織り交ぜてきた。それも溜めて狙ったかのような威力の剣術を。


 これか “剣を扱う術を知る者” か。納得だな。

 どの速度どの体勢から、どう動かしどのタイミングで力を込めればいいのか知っているからこそ、滑らかに攻防移動しつつ違和感なく剣術を織り交ぜられる。


「その技術スキルに、名前はあんのか?」


 腹部の痛みが薄くなっていく。身体がこの痛みに慣れてきたんだろう。今すぐ茸印の痛撃ポーションを一気したいが、そんな隙はない。もう少し会話して自分の自然回復力───まぁ慣れだが───に頼る。


「......立ちなさい。立たないのであれば追撃で沈めます。あなたの性格は知っているのですよ? こういった状況ならばあなたは『会話を続けて腹部の痛みを少しでも回復させつつ、隙を探る』という思考を回す事も安易に予想できます」


 んが、まぢかよこの女......。


「性格知ってるって......嘘つくなよ」


 わたしの性格を本当に知っているなら、例え読みを見抜かれても引っ込まない性格というのも知ってるだろ?


「嘘ではありませんよ。皇位情報屋から高額で買ったあなたの情報は......全く使い物にならない情報ばかり───と思っていましたが、今、結構役に立ちました」


 皇位情報屋って......キューレ!? あのクソが! 金に目眩デイズしてわたしの情報を売ったのかよ! よりにもよってこの女に!


「ずる賢くて、とても迷惑な魔女。小さな隙間をこじ開けて土足で入り込み、そのまま冷蔵庫を勝手に開いて好き勝手にくつろぐような図々しい女───と聞きましたが、まさにその通りでした」


 なんっっっつー事を教えてんだキューレ! 嘘情報を売るなんてお前も落ちたもんだなぁ! 立派な詐欺じゃねぇかよ!

 でもまぁ、おかげで痛みに慣れるだけの時間は稼げた。


「その通りかは知らないけど、今からお前ら “剣を扱う術を知る者” のレベルに無理矢理土足で上がらせてもらうぜ。勿論、魔女わたしのやり方でな」


「勝ちに拘るのは大切ですが、後先考えてくださいね? 次は───公開処刑なんて生ぬるいイベントではなく、即処刑ですよ?」


 柄にもなく “魔術禁止” を強く意識していたらしい。難しく考える必要はないんだ。要は、魔女がいるってバレなきゃいいだけ。


 世紀の天才魔女エミリオ様の手にかかればアクビしながらでも余裕だ。


「公開処刑でも即処刑でも好きにしろよ。わたしはお前に勝って学生を続ける」


「......いいでしょう。棚合わせももうしませんのでその覚悟で」


 棚合わせ......レベル合わせる手加減はもうしないってか。お前が勝手にやってただけだろ。余裕こいてんなナメた事してっから───お前はわたしに負ける事になるんだぜ。


 まだ会った事のない種族、技能族テクニカが作った記録機能を持つ眼鏡を無駄に大きなアクションで外し、わたしは、


「さぁ───飛ばしていくぜ」


 自分で自分のスイッチを入れる魔法のような言葉を囁いた、、、



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