◇528 -席次-
首席 オゾリフ・アゾリウス、男性。
次席 ウェンブリー・ウィンストン、男性。
三席 ネリネ・サルニエンシス、女性。
四席 アゾール、男性。
五席 カトル、女性。
六席 ポルク、女性。
七席 アンブル、女性。
八席 エミル、男性───女性。
九席 トゥナ・アクティノス、女性。
十席 ラトゥール・ボルドー、女性。
ドメイライト騎士学校の席次持ちが全員、騎士団本部に招集された。
◆
わたし、第8席の天才騎士エミル君こと魔女冒険者エミリオさんは3席ネリネのおかげで遅刻する事なく騎士団本部に顔を出した───のだが、集まれと言った騎士様が誰も来ていないという状況に文句を言わないワケがない。
「おい騎士様誰もこねーじゃん。さっさと来ないと帰るぞ」
「エミル、ここは学園じゃなく騎士団なんだぞ? もう少しきちんとして、あと少しだけ待ってみよう」
次席であり、わたしと同室のウェンブリーがいつものようにエミル君の態度をさす。僅か11日の付き合いだが既にわたしを理解し始めている彼は言い回しも上手い。これが半妖精などだと「うるさいわよ子供じゃないんだから」「帰りたきゃ勝手に帰ればいいわ」「......ふっ」などの発言をしてくるだろう。......鼻で笑うだけってのはガチでありそうだ、想像しただけでもヘイトな半妖精だぜ。
「僕......私も遅いと思う。もう予定の時刻を10分も過ぎてる。文句じゃないけど、何か緊急任務でも入ったんじゃ?」
フォンの時計を確認し、同行していた教官【グリフィニア・サルニエンシス】へ視線を送ったのは9席のトゥナ。修練場で会った時より......なんだろう、可愛い雰囲気がある。
「あら? トゥナ、やっと女性としての自分を抑え込むのをやめたのですわね」
「や、ちがっ! わない、けど......その」
「?? どうしてエミルを横眼で見るのです? それに何を恥じているのです? とても良い事だと私は思いますわよ! 昨日までの刺のある態度と突き放すような口調はいただけませんでしたが......何かおありになったのです?」
3席ネリネは姉であり教官のグリフィニアとはやはり性格が違う。トゥナの変化に興味を持ったらしく結構グイグイいく。
てか、
「何、ネリネはトゥナが女だって知ってたの?」
言っていいのか迷ったが「女性としての自分を〜」とネリネが言ってたし、トゥナが怒ったら全部3席様のせいにすればいいか。
「ハハハ、エミル。トゥナが女だって事を知らないヤツは誰もいないぜ? 本人はあれで隠せてると思ってたらしく、そこが可哀想であり可愛くもあって人気者だったんだ」
主席オゾリフの爆弾にも思える発言に、わたしの右隣にいるトゥナは驚きの表情を浮かべたかと思えば紅潮、そして顔を伏せるように黙った。
今わたし達は席次順で座っている。長テーブルを挟んだ正面には遅刻している騎士達の椅子。左隣にはデカマスクで顔の半分を隠している元10席のアンブル。そしてトゥナの右隣には───初顔の女騎士。制服の差し色は赤なので上級生......中級や下級が席次につくのはやはり難しいらしい。
しかし、10席が女騎士でよかったぜ。この女が謎の犯人に狙われる事はない。
主席と次席を狙うとなれば......中々難しいだろう。騎士見習い───騎士学生───と言っても流石は主席と次席だ。3席のネリネも含めた3人は個々の雰囲気がある。既に学生のレベルじゃないだろう。
そして犯人は、足跡も残さず長期間に渡り1名ずつ手招きに成功している......失敗するという事は足跡を、痕跡を残すという事を自ら語っているようなものだ。つまり犯行は確実に成功させられる対象を厳選し、確実に成功させられる状況を作り、確実に成功させられる状態で失踪の手招きをする。用心深いヤロウだぜ。
対象はある程度強くなければならい......席次持ちなら申し分なしで、今の席次持ちで狙いやすい男騎士は4のアゾールか8のわたし。わたしが犯人なら、アゾールを狙う。
魔術タイプだが攻撃型ではなく補助寄り。ソロになる状況へ招けば犯行もスムーズで確実............って、わたしが狙われなきゃならねんだって話だよな......。
「エミル、何か悩み事でもあるのか?」
力強さのある声音で話しかけてきたのはトゥナの右隣にいる10席の女。まさに騎士というような硬さを持つ声。わたしは全く知らないが、あっちはわたしを知っているらしい......多分、トゥナとの星賭戦の噂で知ったんだろう。
「悩みって程じゃねーよ、それよりお前は誰だ?」
「あぁ、すまない。私はラトゥール・ボルドー、ここ数日は父の仕事の手伝いでドメイライトを離れていて挨拶が遅れてしまって申し訳ない。本日から席次の十を授かった。よろしく頼む」
「おう」
父の仕事の手伝い......で学校休んでたのか? この学校はどんな基準で休みokなんだ? 姓を持つって事は貴族的何かだとは思うが......ボルドー......かっけぇな。強そうな名前だ。
「ラトゥールの父親にはエミさ......エミルも会った事あるッスよ。ごめん遅れたッス」
遅刻騎士が登場と共に会話へ乱入していた。この口調は間違いなく、鶏ヘアーのヒガシン。
「おうおうおっせーぞ。学生相手だからって待たせていいなんて思ってんじゃねーだろーなぁ?」
騎士勢の方へ振り向くと、6名の騎士が。
騎士団長のレイラ、残念女のシンディ、凄みある傷のアストン、鶏ヒガシン、あとは......しらんヤツが2人。
「遅れてしまって申し訳ない」
レイラが堅苦しい口調で謝罪する中でわたしはヒガシンへ、
「ボルドーファザーとわたし会った事あんのか?」
「あるッスよ。父君と母君とエミルと俺で馬車に乗ってた事あるじゃないッスか。ほら、ポルアー村に向かってる時、巨大ムカデが出てきたあの時ッス」
「馬車でポルアー村......巨大ムカデ......、ん? どうした?」
わたしとヒガシンが会話していると、珍しくアンブルがこちらをガン見してきた。その視線にわたしは躓くように反応した。
「......巨大ムカデ、蜘蛛蠍の配下にいる甲殻虫モンスター」
アンブルの声をハッキリ聞いたのは今日が初めてだ。略奪種の時はボソボソと......完全わたしに興味ない雰囲気だったが、今日は───虫モンスに興味を持ったのか結構聞きやすいボリュームで喋ってくれた。
「お前結構かわいい声してんだな。ちっさいし同じ学年には思えねーな」
「......、......」
はいシカトね。虫好きなのは全然いいけど虫系のモンスターまで守備範囲なのか? 知り合い......というか敵にひとりそんなのいるけど、ここにもいたと───アイツもわたしに対してこんな対応だったな───しっかし巨大ムカデとか蜘蛛蠍とかあの時の......
「───あの時の貴族か!? ワインのおっちゃん!」
「そうッスよ。あの時の夫婦がラトゥールの両親で、ボルドー家はワイン産業をしてるッス。ボルドーワインっていえば超有名で高級品なんスよ」
すっっっげー前の話じゃんそれ!
わたしがまだ冒険者になってない、ウンディー大陸にも行った事ない時じゃん! ワタポと初めて出会った時のじゃん! あの時はドメイライト騎士のヒロだったっけなワタポ。まだ両手もあったし、なつっけーなー。
「そろそろいいかな?」
「あ、さーせんッス」
「あ、いいぜ───ってお前らが遅刻してきたんだろ」
レイラの声にヒガシンとわたしが反応し、ワイン貴族の話は終了。
しかし懐かしい話だ。あの時ポルアー村行きの馬車に乗ってた貴族がラトゥールの父親と母親だったとは......ポルアー村にも意味もなく行きたくなってきたぜ。
まぁ今は冒険者としての極秘任務があるからワインもポルアー村もおあずけだ。
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