◇501 ───



 はい! こんにちは! こんばんは? グルグル眼鏡がピカピカしてるフローさんだよ!

 今回エミリオちゃん達はシルキ大陸をわちゃわちゃに〜と楽しみにしていたけども、まさか夜楼華まで味方につけちゃうとは、フローさんビックリだ!

 っと、そんなビックリしてないから変なのはこの辺りまでにして───エミリオちゃんはわたしが思ってる以上に邪魔くさいのかなー? と評価を見直し中でございやす。


「フロー、ひとりで何見てるの?」


「お? もう治ったのかえ酒呑くん!」


 空間からこっそりねっとりガン見中のわたしへ話しかけてきたのはなんと! なんと! ついさっきボコッてやった鬼で鍛冶屋スミスの酒呑童子! クラウンのメンバーだけども、ボコッってやったった!

 同じクラスだけど別に全員友達ってワケじゃないでしょ? そのノリっちゃ。同じギルドだけども仲良しこよしじゃなくて、ムカついたら喧嘩するし面白かったらブン殴る。ここぞって時にやる事やってくれりゃ普段凶悪極悪な事してても全然オッケー! それがクラウンだっちゃ。


「夜楼華が機嫌直してる!? 凄いねぇ! こんな事あるんだ!」


「眠喰と魅狐と天邪鬼が奇跡的に集まってたから〜とか奇跡的な感じでなく! 多分アイツが引っ張ってきた運だっちゃ」


「アイツ? あの帽子の小さい子?」


「そうナリ」


「全然凄い子には見えないけど......フローが気にする理由は?」


「恋ナリ」


「へぇー」



 今まではエミリオちゃんの事はそこまで......言ってしまえばエミリオちゃん自体はどうでもよかったんだけどもねぇ............何があったのか、ありゃ完全に魔女として覚醒してるナリ。それに前々から思ってたあの運......自分に対しての幸運とか小さいものじゃなく、周りを巻き込みながら運───運命的なものも引き摺り回す得な性格は素直に脅威ナリ。


「エミリオちゃん自体は雑魚っぽいのに何か気になるっちゃ」


「雑魚っぽいのに気になる、か......確かに雑魚っぽいけど、言うほど雑魚じゃないようにも見えるよ?」


 魔力の素が天魔女で、アホバカな魔力量、地味に高い魔術センス......。

 今は全部が魔女力ソルシエール色魔力ヴェジマまで持ってる......ここまでなら全然イケイケほいほいだったんだけどもねぇ。


 あの性格、予測不能な思考と行動力、自由すぎる発想力......その自由が色魔力にも出てる。


「虹色はシャレにならんっちゃ......」


 こりゃ早いとこ “虚無コイン” をゲットしないとヤババかなぁ〜?





 残滓ざんしというものの存在、魂というものの存在は信じていた。メモリアウェポンがそれらの存在を立証していると言っても過言ではないうえに、多種界2───シルキ大陸に浮遊する魂魄や魂を統括する夜楼華。最早疑いようのない存在。と理解している半面、自分がそれらにカテゴライズされる存在として今ここにいるという現実に違和感しかない。


 実際、私は死んでいない。

 それでも今ここにいてものを考えている私は紛れもなく残滓だ。

 肉体は今も魔女界で、天魔女として君臨しているエンジェリアだ。

 そしてきっと、この意識、残滓もそろそろ消滅するだろう。消滅、というのは少し違う......戻るべき場所へ戻るだろう。

 それは自分の肉体。しかし所有権は自分にはない。無様にも奪われてしまった。


『エンリー!』


『久しぶりだね』


『ずいぶん酷い顔だな』


 気配もなく響いた声は、私の浮いた心を一瞬で掴んだ。その声は懐かしくて、愛おしくて、抱きつきたくなる程、私の弱りきった心を支えてくれるように響いた。


『───!? みるひぃ......プン............トワ......』


 忘れもしない名。もう二度と呼ぶ事はないと思っていた名が無意識にクチをついた。

 何千年と長い歳月を生きる魔女にとって、たった2年を共に過ごした別種族の名。

 まばたきをする間に流れるほど短く、深呼吸よりも深い2年間を様々な感情を抱きながらも歩んだ仲間の名が、こんなにも尊いものだとは。こんなにも安心感があり、どんな詠唱譜よりも力強く感じるとは。


『お? やったみたいだな』


 両眼に白黒の円を持つトワが夜空を流れる妖力の波紋を見上げ、鼻で笑うように呟いた。人を小馬鹿にしたように笑う癖は昔とちっとも変わらないが、決して小馬鹿にしているワケではなく、むしろ彼の笑いは “よくやってのけた” と称賛する時によくでる。


『全ての桜が霊華 夜楼華の力を得る.....ボク達にも出来なかった事だ。よくやった』


 九本の尾を風に靡かせ妖力の細かい詳細までもを感知するプン。彼の故郷であるこの大陸は何千年という途方もない時間の中で潰れず耐え抜き、今やっと 幻想楼華 が咲き誇る。人とは国であり国とは人。どちらも欠ける事なく今現在までバトンを繋げてきた人々の強さ、願い、想いが芽を出し蕾を宿し花を咲かせた。


『頑張ったね! でも......あうぅ〜、わたしの子はわたしとおんなじでプロテアだ。もぉ......』


 プクっ、と頬を膨らませる幼き妖精、みるひぃ はプロテアのレリーフを持つ瞳を細めて可愛らしく怒る。わたしの子 とクチにする彼女の外見は昔と変わらない少女のまま。


 みるひぃだけではない。トワもプンも、あの頃と変わらない姿のままだった。これは恐らく、私に会うためにこの姿を選んだのだろう。私の残滓とは違い、魂魄が漂い心が残る大陸だからこその現象か。


 私達は数千年前に出会い、共に旅をした。

 魔女、人間、魅狐、純妖精。四種族が集まり、十二の神と四の元素精霊、そしてひとりの魔女を相手にする旅。


 この旅は今も、おとぎ話として語り継がれている。


 そして今───私達はの子孫が再び集まり、肩を並べ、繰り返される歴史を追うように、いや、繰り返される歴史の中で更なる確変を行いつつ今を生きる。


 物語の種が芽吹き、花を咲かせた。


 辛い事、苦しい事の方が多いかもしれない。

 泣き崩れ逃げ出したくなる事もあるだろう。

 受け止めきれない現実がのしかかる事もきっとある。


 それでも、


『頑張りなさいね、エミリオ』


 貴女は私の子供なんだから。きっと乗り越えられるわ。きっと。



『さっきまで泣いてた魔女が、次は力強く子供を応援か? つーかお前の子供は全然似てないなエンジェリア』


『貴方の子も貴方に全然似てない、いい子じゃないトワ。両義手なのは貴方の呪いねきっと。不憫な子ね』


『わたしの子もフビンな子だよぉ。義手とかじゃなくて、女帝だよ? わたしの呪いかなぁ?』


『大丈夫だよみる。ボクの子も近くにいるしきっと上手くやってるよ』


 私の子はエミリオ。

 トワの子───と言うには離れすぎているが同じ系譜、家系にいるヒロ。

 同じく、プンの子はプンプン。

 同じく、みるひぃの子はひぃたろ。


 何千年という時を経て運命的に出会い、肩を並べる自分達の子孫を見守りながら、私達が今こうして存在している意味を、目的を、再確認する。


『エンジェリアはもうエミリオに会ってたよな......次はオレ達か』


『そうだね。頑張ろう』


『わたしはマントをプレゼントするんだ! わたしだとおっきかったけど、あの子だとちょーどいいかな? それより......プン誰と結婚したの!? わたしと結婚してくれなかったのに!』


『その話はまた今度よみる。この大陸から出ちゃうと私達は何も出来ない。そして一度こうして現れてしまった以上は今回で各々が接触するしかない。これだけ夜楼華が広がり増えた......二度目は絶対にないわよ』


 話題を戻しつつ念押しし、私達は私達の子へ想いを託すべく行動を始める。


 4人の子孫が肩を並べて、この地に集まった場合のみ実体化できる妖術。その妖術にリンクするように発動する私の残滓魔術。


 発動しないのが一番良い事だったのだけれど......こうなってしまった以上は、確りと想いを託し未来を繋いでもらいましょう。


『私はもう終わってる。あなた達も早く済ませなさい』


 きっと大丈夫。


 私達の子孫、私達の子なのだから。




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