◇496 -幻想楼華-7



 半透明の赤色が大きく開く。掌───腕のような形で、それを伸ばしながら大振りする。


『想像した腕の形状を維持して、すくい取るように振る。この時、想像が曖昧だと形も曖昧になって色も薄くなる。色が薄いと効果も薄い』


 大扇で煽ぐような音が空気をえぐるようにいた。この時、本体───生身の腕は動いていない。


『気付いたね? 人は二本の腕を操るだけで手一杯の中で、私は最大六本、生身が二本の能力腕が四本操る必要が......一本にまとめてもいいんだけど、それはここぞの時に、だ』


「あの、えっと」


『どうした?』


 なんでこんなに細かく説明してくれるんだろう? 説明だけじゃなく実戦───正解まで見せてくれるのはどうしてだろう? 今、確実に私の方が弱い......その気になれば私を押し退けて好きに出来るのに、


『言ったろ? 私は私だって』


「う、うん......それが?」


『今みたいに本体わたしが何を考えているのか能力わたしにはわかる。きっと無茶したせいで深く絡まり混ざってるからだろうね......本来はありえない事だよ』


「.........」


『だから、気持ちもわかるんだよ』


「気持ち?」


『死にたくない、助けてほしい、そして───助けたい。もう何も出来ないのは嫌だ』


「っ───......その通りだ。もう嫌なんだ......見てるだけは、終わってから知るのは、何も出来ないのはもう」


『うん。だから、ここで私の全てを持っていくんだ。そして夜楼華ヨザクラを増やすんだ』


「夜楼華を、増やす?」


『先代達は出来なかった。でも私なら出来る。ただ───引き受け背負う覚悟はあるかい?』


「覚悟......」


『汚染された楼華をこの身に引き受け、背負い続ける。それはゆっくりだけど確実に私の命を削る病気。だけど私だけが対処出来る病気』


「え? どういう......」


『夜楼華の毒を身に宿す───新しい幻想楼華になるんだ。私が』





 魔力的には余裕しかないが、体力的にはギリギリな状態のわたしは自分に気合いを入れ、夜楼華の下までクソネミを移動させた。ここが安全かはわからないが、そこら辺に寝せるよりいいだろ。


「......疲れた」


 身体が重い。まだ色魔力ヴェジマに身体が慣れていない証拠か......しっかし便利な魔力だな。

 魔女力ソルシエールの時点で普通の魔力よりも段違いで質が上。それをさらに色魔力へと変換し、魔術に使う。この変換が想像以上だった。

 さっきのタイタンズハンドは地属性。魔女力を地属性色───褐色に変換し使う事で全てが威力は勿論、詠唱から発動までのラグもほぼ無くなり、限度はあるが微操作も可能になった。無差別に、がむしゃらに打撃を降らせるのではなく、狙って確実に撃てた。

 それだけじゃない。魔術の形状も変化させる事が出来た......大槌のような巨岩が従来のタイタンズハンドだが、さっきのは従来の巨岩より細く速度重視に仕上げる事が出来た。つまりこれは、威力を重視した場合は超巨岩にする事も可能という理屈だ。


 目的に合わせて魔術の形態を変化させたり、状態や性質まで変えるかもしれない......状態は変えれる。魔剣術がそれだ。本来の形態と状態を剣術に適応するものへと変換し使っている。と、なると性質もそうだ。

 なんだよ......今までやってきた事の応用みたいなノリかよ。


「いや、応用じゃなくワンランク上ってノリだな」


 まぁ使いながら探り慣れていくしか───


「───みそ!!」


「エミリオさん、まさか」


 あ? なんだ? なんでコイツ等がここに、


「オイラが引き受ける。2人はみんみんを」


「あ? ちょ、まてって───ッッ!!」


 突然湧いて出た華組の三妖怪。鬼は有無を言わさずわたしへ斬りかかり、残り2人はクソネミの元へ向かう。


「なんだってんだよ!?」


「絶対に許さないぞ」


「あァ? 何しゃべってん───!!?」


 左手に持つブリュイヤール ロザで華鬼のカタナを受け止めていたが、華鬼は体術を使いわたしの右側を蹴った。使い物にならない右腕に強い衝撃が走り、痛みが再沸騰。

 吹き飛ばされているにも関わらず、わたしは何も出来ず池へ落水した。水柱を立て豪快に落ちたわたしはそのままゆっくり沈む。


 右腕は完全に死んだな......指先の感覚さえないのに、肩付近が焼けるように熱い。

 このタイミングで華の三妖怪......クソネミを助けに来て、眠ってるクソネミを死んだと思ったか? それならわたしが殺したと思っても不思議じゃない。実際殺すノリで廃楼塔はいろうとうから武器パクって来たんだし......結局使い物にならなかったけどな。

 このまま死んだフリするのも悪くないが、もしクソネミが呑まれて戻ってきたら、三妖怪には悪いがその時はわたしが殺る。

 それも予想して───アイツ等にら黙ってもらうしかない。暴走じゃなく呑まれを相手にしてる時、邪魔でもされたらこっちが死んじまう。


「........」


 鬼、雪、華......さすがに3人相手じゃ加減してられねーけどアイツ等も雑魚じゃない。全部うまく終わったら三妖怪には謝ってやるから───だから、早く戻ってこいよ、クソネミ。



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