◇463 -摩天楼 2階-
1階にニンジャを残し、わたし達は2階を進む。人は勿論、モンスターの気配さえない
「何かいるぞ......」
長い廊下の先にある扉。その奥でわたし達を待ち構えているのはただ者ではない。
「......、......俺が残ろう」
まだ敵の姿も見ていないのに、
その頷きからわたしは「任せろ」ではなく「頼む」の意を感じ、螺梳は なんとなく残るのではなく、何かあるので残るのだと漠然と思えた。
「わかった、ラスカルがあの扉を開けて、わたし達は散り散りになりながら階段へ向かう。中にいる何かがタゲ......こっちを見てもラスカルに任せて、わたし達は3階まで突っ走る」
「ありがとう、それで行こう」
ここで、ありがとう、か。
やっぱり何かあるんだな......わたしレベルじゃ感知も出来ない何かを螺梳は感知し、残る事を、自分で決めたんだな。
それならもう任せるだけだ。
「螺梳さん、多分あの奥にいるのは......化物だよ」
ヘソことカイトが一応そう告げた。これだけの雰囲気を溢れさせている何かだ、化物───強モンスターなんて言葉では納まらない存在がいるのは間違いない。そしてわたしも、クソネミもヘソも、螺梳も、化物がいるだろうと予想出来ている。それでもヘソは告げた。本当にひとりで残るつもりなのか? と言うように。
「化物、ねぇ......」
螺梳はポツリと呟き、すぐに気合いを入れるように深呼吸し
「大丈夫だ。ここぞという時に使う最強のカタナを持ってきたからな!」
そこには
「鈍色に
クソネミ妖怪が眼を見開き反応するレベルの上物らしく、そんなモノまで引っ張り出して来たならば安心して2階を任せられる。
「武器自慢は帰ってからにしようぜ。作戦はさっきの通り中の化物はラスカルに任せて、わたし達3人は突っ込むぞ。中の化物が10匹だろうと100匹だろうと、ラスカルに任せるからな」
「うむ、任せてくれ」
◆
妖力感知や
元々俺は感知が苦手だ。直感の方が幾分信用出来るが周囲を納得させられるだけの説明が出来ない以上は、俺の直感に誰かを巻き込む事は出来ない。
それに
「開くぞ!」
俺は扉へ手をかけ、同行者達へ確認する。
嬉しい事に、同行者のひとり───小さな魔女は子供のような見た目からは想像出来ないほど、合理的な......いいや、目的の為に仲間さえ捨て置く強引な策を提示した。小隊の隊長などがこの様な策を切ろうとした場合、俺は反対、反発するだろう。しかし不思議と......あの魔女、エミリオの表情には “仲間を切り捨てる” という意図が見えなかった。
発言、作戦こそまさにそれだが、目的の為ならば誰が犠牲になってもいい、ではなく、任せろと言ったならば任せるだけだ、という意を強く感じた。
「わたし達は上へ行く。蛇もニンジャも来ると思うから、お前も終わったら来いよラスカル!」
終わったら来い、か。
「......、中は任せろ! 夜楼華は───任せた!」
悪い。終わったら追えるか、行けるかは、今はまだ答えられない。
◆
大扉が軋み隙間が見えた瞬間、女帝種のような雰囲気、威圧感がわたし達の全身を叩いた。僅かな隙間から漏れた雰囲気だけでこの威圧感......この奥にいるのは異変種、特異個体で間違いない。冒険者か使う危険度レートならば問答無用のSS-S2ランクの存在という事だ。
モズとオロチも恐らく同レート......しかし、外にいるモンスター。逃げる気になれば逃げられるし、白蛇の狙いがそのモズとオロチだったので任せた。1階の
ここは
全員で残った方がいいんじゃないか?
でも、ここで全員殺されれば夜楼華の件も終わる。そうなればシルキ全土が終わる事になる。
......何を迷ってるんだわたしは。螺梳は自分で残ると言ったんだ。自分で考えて自分でそう言った。そしてわたしは、螺梳に任せたんだろ? なら迷う必要はない。
出ていた答えを再確認するまでの間、わたしは無意識に魔術を詠唱していた。
扉が全開になると同時に一歩踏み込み、詠唱済みの魔術を放つ。薄青の魔法陣が展開と同時に四散し、視界を隠す程の濃い霧が充満する。
姿の確認さえまともに出来なかったが、それでいい。お互い姿を確認出来る状況はターゲットにされる確率がある状況。どんな相手か不明のままだが、ここは螺梳に任せてわたし達は夜楼華がある上へ進むだけだ。
部屋の中心から発せられる特異個体の存在感を避けるように、わたし達3名は走り抜けた。
階段を数段登り、振り返ろうと速度を弱めたわたしと妖怪クソネミへ、ヘソは「止まるな」とだけいい、先頭を進んだ。この言葉が足を再び加速させ、振り返る事なくわたし達は3階へ流れ込むように進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます