◇441 -楼華島-2



 霧薔薇竜の剣【ブリュイヤール ロザ】、対魔竜の短剣【ローユ】、そして【ナイトメア】防具に魔女キャスケット【ウィザード リィ】、装備は完璧だ。アイテムも大量にある。

 身体の痛みも今は無く、意識を失っていたとはいえ眠れたので完璧。

 そして、楼華島とやらの場所も妖怪連中が知っている。孤島と言っていたが船で向かうにはおそすぎる。わたしソロなら魔箒【ピョツジャ】で一気飛びしてもいいがそうもいかない。


「本当にいけるか?」


 滑瓢───螺梳ラスが地図を広げ楼華島の場所へチェックを入れつつ心配そうに言う。


「大丈夫だ。ところでラスカル、ここまでの道に障害物になりそうな建物とか......岩とかないか?」


 華組の誰かがラスカルと呼んでいたのでわたしもそう呼ぶ事にし、地図では海だが一応確認をする。


「俺の記憶だと建物や岩はないな」


「潮の流れが複雑なだけで海以外何もない」


 螺梳と烈風が答え、白蛇も頷いた。


「よし.......───」


 わたしはこの城から楼華島までの距離を計算に入れ、高さや誤差も考える。

 そして、


「───繋ぐぜ」


 空間魔法を発動させた。虹色に揺れる大型の入り口が開かれ、わたしは一息つき、


「海に落ちる事はないけど、島のどこに行くかはわかんない。一緒に入っても別の場所に落ちるモンだと思って、落下に備えろよ」


 わたしのレベルではこれが限界だ。大型、それも長距離で行った事もない場所が出口。ダプネならここまでハッキリしたデータがあるなら多分100パーセント安全に繋げるだろう。プチギャンブルにビビってるなら船で行けばいいし、入る入らないは自由だ。わたしは入るけどな。


「ウンディー勢は今すぐにでも飛び込めるが、そっちはどうだ?」


 ジュジュ───商人ギルドのドン、マフィアはもう既に飛び込む気でいる。妖怪チームの意思を確認したのは、その気なら全員で飛び込む作戦だろう。空間魔法は術式の派生。術式は条件付きの魔術領域。つまり空間魔法は術者が条件付けれる。が、わたしのレベルでは「海に落ちない」程度しか条件を刻めない。この効果で一気に対象が入れば空間は「海に落ちない」を全員へ発動させるため働く。移動は一瞬だし上手くいけば全員同じ所似着地出来るが......わたしが使った大規模な空間魔法だ。どうなるか自分でも予想できぬ。


「私達もすぐ行ける」


 どこか不安そうな瞳のクソネミは言い終えるや舌唇を軽く噛んでいた。スノウの話だとクソネミは夜楼華を感知すると気分が悪くなる......なんでか知らないが、近付いて大丈夫なのか?


「よし、それじゃ行くか」


 声を張る商業系ギルド【マルチェ】のマスターに続き、ウンディー勢は気合いが天井。


「楼華島がどうなってるかはわからない! 絶対に無理だけはするな───って言っても聞かないメンツだな。なら、無理してでも夜楼華をどうにかする!」


 流石は大規模ギルドであり、商業系だ。仕切りもお手の物だな。


「───行くぞ!」


 ジュジュの声を合図にウンディー勢がまず動き、シルキ勢も遅れず空間魔法へ飛び込んだ。


 楼華島サクラじまとやらがどんな島なのか、夜楼華ヨザクラってのがどんな樹なのか全く知らないが、イケるだろ!


「───飛ばして行くぜ!」


 わたしは気合いの言葉と共に空間魔法の浮遊感へ身を任せた。





「───!?......フフフ、ハハハハハ! ついに殺ったな! 盲目!!」


 廃楼塔の最上階で酒を楽しんでいた大神族 観音は吹き抜けの空へ叫んだ。観音が感知したモノは醜く汚れた人間の───大名達の魂。

 大名が全員殺された事、手をかけた存在をすぐに察し、まちに待ったと言わんばかりの上機嫌で大笑いする。


「奴等の魂ならば申し分ない! 醜く汚れた家畜の脂のような連中の魂ならば、必ずこの国の未来など考えもせん! いいや、誰よりも考えるか───自分達が死んだならば国も死ぬべきだと! いいぞ、夜楼華が開花さえしてくれれば全ては私のモノになる!」


 観音は夜楼華の力を、魂を吸収し生命せいめいを巡回させる特性を我が身に宿し我が物にすべく、開花を待っていた。開花した夜楼華の樹体から宝珠となる核を奪い、自らに宿す。

 その為には、傷付き朽ちても治る絶対的な再生力が必要であり、今現在は観音に無い力。


 だが───


「フフフフ......」


 観音にはその力の当てがある。酒瓶を一気に呑み、溢れる雫に眼をくれず、獣のようにギラつく瞳を遠くの空───療狸寺やくぜんじへと向ける。


 大神族はその力を一定的に借り与える事が出来る。その方法が房中術ぼうちゅうじゅつという互いの氣を繋ぎ、氣を相手に通し自身へ還元する術法。

 しかしこれには様々な型が存在し、観音が用いる型は一方的に奪うもの。弱者を蹂躙するように全てを奪う、相手側にとっては肉体的にも精神的にも地獄になりうる型。これを好む者も存在しているが、療狸は酷く拒むだろう。そうわかった上で、観音は療狸の心を力任せに摘む未来を想像し、力を奪うとは別の感情を湧き昂らせている。


「一層の事、狸女を房中術の間際に殺してやりたいが、あの自己再生力の前では私でも殺すのは難儀」


───だからこそ、人間や妖怪では耐えられぬ手法で愉しめる。


「丁度良い。この辺りで心を器を砕き割って後に私が支配する世で、私の唾吐きとして使ってやろうではないか───コリよ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る