◇414 -鮮血の姫-1
SSS-S3指定の犯罪集団───とはいえ今の時点で在籍、生存しているメンバーは5名の───ギルド【レッドキャップ】の2名とシルキの都 京 で対峙しているSS-S2ランクのギルド【フェアリーパンプキン】の2名。
レッドキャップ、ジプシーとフェアリーパンプキン、プンプンが移動を開始した頃、視線を衝突させていた2人は物理的にも衝突した。
最小限の動作と行動音で武器を構え振る。お互いの武器は一瞬で無色光を放ち、噛み合うように刃を衝突させていた。単発剣術での初撃はその剣術が重撃系かと思えるほど重く厚い撃音が空へ昇る。
ギリギリと刃を鳴かせ競り合う2人だったが、そのまま押し合う事なく次へ。まず動いたのはベルの太刀。
領域展開に対しひぃたろは瞬時に強化系能力の
───ラグ?
完全に回避出来るタイミングだったが、ひぃたろの命令に対し身体が一瞬ラグを発生させた。ひぃたろは力技───どの体勢からでも発動出来る魅狐の単発剣術を使い、蛇を振り解きベルの領域から出る。小範囲は効果を濃厚なものにするがその分回避や脱出されやすい。
「チッ」
ベル舌打ちと共に蛇を刃へ戻し、肩に担ぐスタイルで太刀を持つ。
「今の範囲でもレジるか......レベル上がってんなぁお前」
「それはどうも」
以前
「───!?」
「お? 効いてきたか? 痺れるだろぉ?」
ひぃたろは翅───エアリアルを広げるため肩甲骨付近を動かそうとした。しかし、ピクリとも動かない。ひぃたろのエアリアルは詠唱せずとも広げる事が可能。しかしその際は肩甲骨付近を動かし、内側に眠る翅を出す動きとイメージが必要になる。
───翅を出せない......それどころか声も、眼球さえ動かせない。
原因は間違いなく頬を掠めた蛇の毒───麻痺。肌が、全身が嫌にチクリとする感覚は麻痺以外にありえない。しかしこれは既に麻痺の領域を越えている。
通常の麻痺の場合、必死に抗う事で指先を少しずつ動かせる。瞼も少しずつ動かせるが、それも出来ず眼球さえ動かせない超強力な麻痺にひぃたろは陥ってしまった。
「───!!?」
黄色の刃が動けないひぃたろを容赦なく貫通した。嫌な衝撃と音が脳に響くも突き刺された感覚も痛みも全くない。
「簡単には殺さねぇよ」
爬虫類のようにギラつく瞳を向け、ベルは手首を捻る。左下腹部を通る太刀の刃が外側を向き、そのまま肉体を斬り進み、ひぃたろの左下腹部を裂いた。これでも痛みはない。
ベルは太刀を蛇に変え、ひぃたろの足を噛ませ、すぐ戻す。追加で麻痺を今度はハッキリと与えられ、右手から剣が落ちる。
「すげぇ麻痺だろ? コイツは外界のモンスターでな......ドラゴンも麻痺させちまうヤベェ蛇だったんだぜ?」
混合種武具は素材に生き物をそのまま使う。詳しい手段は鍛冶屋のビビもララも知らないが、素材は生きた生き物であり、その生き物の特性などを色濃く残す武器だとひぃたろは聞いていた。そして今のベルの発言から考えて、ベルは直接そのモンスターと対峙し、見事生け捕りにしたという事になる。
ベルは麻痺中に殺すつもりはないらしく、ひぃたろの両足を切断し、地に落ちた半妖精へ次は右腕をゆっくりと、手の甲、手首、肘、二の腕、肩、と細切れにしていく。
「麻痺中は痛みも感覚も
この言葉がひぃたろへただならぬ恐怖を与えた。麻痺中は痛みも感覚もない───
ベルが無駄に細切れにしていたワケではなく、痛み、ダメージを蓄積させるようにわざわざ細切れにしていた。ゆっくりと端から切断される痛みは麻痺後、ひぃたろを一気に襲う。ダラダラと溢れる血液の温度さえ感じないまま、ゆっくりと命が溢れる。それにさえ眼を向けられない。
「お前その眼......片方しか見えねぇのか? 不便だろ───両方潰してやるよ」
不快な音と共に、ひぃたろは右眼を潰された。ベルの親指がゆっくり迫るのを最後に視界が奪われた。それでも痛みがない。
「コイツの麻痺は超強力なうえに長ぇんだよな......自然に解けるのを待ってる時間が勿体無ぇから、解いてやるよ。解く方法はコイツの鱗に鱗に触れる事だ。掠る程度でも麻痺は解けて感覚が一気に戻るぜ───基本的に全員ショック死するが、お前はそんなつまらねぇヤツじゃねぇよな?」
ぬるり、と頬を撫でた蛇。その瞬間ひぃたろは蓄積された痛みの餌食に。刺され裂かれ斬られ潰される痛みが一気に押し寄せ、痛覚が焼き切れそうな程敏感に叫ぶ───と同時に近くで咆哮のような落雷音が轟き、ひぃたろの叫びはその落雷音によって消された。
喉が張り裂け、身体が灼熱を宿し、暗闇の中でもひぃたろは死ななかった。それがどれだけ恐怖か。
「なんだ今の......お前んトコの狐女か? つーか、やっぱり死なねぇか! 痺れるじゃねぇか!」
左手の甲へ太刀を突き刺すも、ひぃたろは反応しない。しかし呼吸音は確かに聞こえる。
「こんな痛みじゃ物足りねぇってか?」
ぐるり、と太刀を回すも反応はない。
「......おいおい、マジで頭イッちまったのか? 勘弁してくれよ。もっと楽しませてくれねぇとこっちが物足りねぇぞ」
ピクリとひぃたろの指先が動き、太刀が貫通状態にもかかわらず左手を引いた。強引に引き戻される腕は中指と薬指の間を裂き、太刀から解放される。
「お? 動いたぜコイツ!」
ベルは楽しげに言い、ひぃたろの頭を何度も蹴り、肩へ足をかけひっくり返す。血まみれの顔を見て更に楽しげに、
「いい顔してんなぁおい! テメェのその顔なら高く売れそうだな......ジプシーの土産にするつもりだったが、稼がせてもらうぜ。喜べ
太刀を構え首を切断しようとするも、ベルは思いとどまる。
「.......まてよ、このままの方が高く売れそうだな。左手も斬ってトルソー型にすりゃいいか? それは買い手が決める事か......となると、どう殺すかだな。胸に傷付けると値が下がるだろうし、喉を斬るか? このまま放置しても死ぬと思うけどそりゃ無ぇよな。テメェは俺の手で殺す。よし、腹を裂いて中身出すか」
ベルの声はひぃたろに届いている。今の独り言もベルにとっては恐怖のスパイスであり、ひぃたろの反応を見て、ピクリと動く瞼や唇を見て楽しんでいた。一通り楽しんだベルはひぃたろの腹部を開くべく太刀を立てる。すると、
「お? 抵抗すっか!?」
ひぃたろは左腕を動かす。もう力などない腕を必死に動かし向かわせた先は───左眼を隠す黒眼帯だった。
「それを外してぇのか? 満足したら腹開いてやっから頑張れ。あと少し───あァ!?」
眼帯へ手を伸ばすひぃたろを見て笑っていたベルは、蜃気楼方向から溢れ出す規格外な “魔力” へ睨むように反応した。
ひぃたろも腕を止め、女帝力よりも胸焼けしそうな魔力に仲間を思い出し、小さく笑い、左手で眼帯を外した。
───さぁ、私を喰べなさい。
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