◇400 -蜃気楼-1



 飛んでくる花弁をカタナで斬って斬って斬りまくる型破りな近接魔女ことエミリオさんは、今会話する余裕さえ失っている。

 数えきれない程の鋭利な花弁を必死にカタナで斬り捨てつつ妖怪 お花マンへ接近するも全弾を斬れるハズもなく浅い切傷が体中に。それでも突っ込み続け、ついに剣術が届く範囲まで。

 ここでモタモタしていては何の意味もない。わたしはカタナへ赤色光を纏わせつつ手の中で半回転させ、刃ではない方───なんて言うんだったか───で叩き殴るべく床を蹴った。


 普段の魔剣術光とは違って、熱を放つ赤色光。

剣術を放つ動作の時点で熱波は小範囲、それもカタナの周りだけだが舞う花弁を焼き焦がす。あくまでもこの熱波はオマケだ。わたしの新魔剣術はここからが本気。


 五連撃エミリオ剣術ホライゾンの火属性、レッドホライゾンでお花マンを───


「───げっ!?」


 お花マンをぶっ叩き火傷させてやろう、と意気込んだわたしを裏切るようにカタナの刃は小気味よい音を残し折れ、剣術は強制終了。わたしはファンブルディレイの餌食に。左腕───武器を持つ腕───はグンッと一瞬で重くなるファンブルディレイ、そしてずっしり重くなる通常のディレイが追うように発動され、例えわたしが筋肉ムキムキだったとしてもディレイには勝てないだろう。上級者アホ 共はこのディレイ中でも “意識を腕から切り離す” という意味不明な事をやってのけ自由に動き回るが.....わたしには無理。だが、ディレイ発生直後に詠唱をした魔術はいつでも発射可能。そもそもディレイ中でも詠唱可能なのだ。魔女エミリオ様が豪快にお花マンの攻撃を焼き尽くしてくれようぞ。


「ストップ、確か.....エミリオさん? ですよね?」


「あ?」


 魔術の詠唱完了時でも普通のトーンでならギリ話せるのは魔女のいい所だ。しかし長い言葉や大きな声はファンブルを招いてしまう。


「どいして蜃気楼ここへ?」


「友達を助けに」


「友達......地下牢にいる外からの者達?」


「そう」


「......スノウさん、雪女は?」


 ここでわたしのファンブルディレイが終了する。

 右手に持っていた瓶をお花マンへ放り投げ、背中から鞘を取り折れたカタナを戻す。


「そん中」


 全く、ナメた妖怪だ。あの時点───ファンブルした時点で詠唱したとは言え攻撃チャンス以外の何者でもない。それなのに花弁も消し、戦闘する気はないと言うようにストップ発言。その気になればわたしを殺せただろ。


「エミリオさんはあるふぁさんとミソを助ける時、手を貸してくれた。今も私を斬ろうとせず峰に変えたし......本当に友達を助けに来ただけなんですね」


 あの一瞬で見てたのかよ。やるなコイツ.....まぁ雪女と殺すなって約束もしてたし華組共コイツらに怨みもないしな。


「そだぜ。だから───ッ!!?」


 音もなく、気配もなく、突然謎の人物はお花マンの背後に現れカタナを構えていた。わたしは何が何だかわからないまま反射的に魔術を放ち、お花マンの服を強く引いた。


「チッ」


 舌打ちと同時に現れたヤツはカタナを振り、火属性魔術を赤色光のカタナ───火属性妖剣術で焼き斬った。


「誰だお前! あぶねーだろ!」


 魔術を放ち、お花マンを引っ張り、距離を取る。これらをほぼ同時にやれた事に驚いているものの落ち着く暇はなさそうだ。


「お前が誰だ」


 反応速度よりもその切り返しがやべーはえー。恐らく妖怪......つか、本当に誰だよ。


「何で龍組がここに!?」


 眼を丸くして言うお花マンを横に、わたしは瓶を奪い取りスノウこと雪女を解放する。


「瓶詰めになってたから入り口に雑魚しかいなかったのか」


「ヒェぇ〜狭かった......で、何で白蛇さんが?」


 どうやらヤツは龍組の白蛇と呼ばれる存在らしい。どう見たって悪者だろ、眼とかあぶねーヤツの象徴じゃん。武器も何か沢山装備してるし完全にやべーヤツだ。


「仕事以外でここに来るか?」


 渋る事なく “仕事” と答えた白蛇とやらは会話する気がないらしく首を狙いカタナを振る。ターゲットが雪女に変わったかと思えば次はお花妖怪、そしてまた雪女を狙い、わたしは視界に入っていないらしい。

 仕事で華組の城へ来て、華組を狙う.....コレ完全殺し屋だろ。アイツやっぱやべーヤツだろ。変なとばっちり飛んでくる前にわたしは地下へ退散させてもらうぜ。





にゃんか上が騒がしいニャ」


 ピクピクと猫耳を震えさせ、ゆりぽよが天井を見上げる。他の者は音こそ聞こえないが、慌ただしい雰囲気は十二分に伝わってくる。


「......螺梳ラスは武器やアイテムを奪わず俺達を牢へ入れた。この意味わかるか?」


 螺梳が単にフォンを知らなかっただけ、という可能性もジュジュは考えたが、フォンを詳しく知らなくても、武器が出し入れされているシーンは見ているだろうし装備品ならば武器に限らず奪うのが基本。


「脱獄しろって事ニャ?」


 脳筋猫人族のるーはフォンを手に持ち、無骨な大剣を取り出した。


脱獄そこはわからんが.....何かあった時は考えて行動しろって事だと俺は思う」


 そう言うジュジュもフォンから武器を取り出した。2人ニャ習うように全員───キューレはししのキノコ帽子の中で眠っている───が武器を取り装備を整える。


「綺麗な街なのに、何で俺達は捕まってるんだ.....」


「観光したかったねぇ、カイト」


 牢獄の中とは思えない程、緊張感のない連中の耳に足音が響く。ゆりぽよ以外もハッキリ聞こえる、落ち着きのない足音と、


「どっわ!? すげー音だなおい!」


 大きな音に乗った大きな声。その声は女性だが品性の欠片もなく、出来る事なら今この状況では会いたくない存在だと理解する。間違いなく声の主はここへ現れるや───


「お? いたいた雑魚共。この天才冒険者のエミリオさんが助けに来てやったぜ感謝を金でよこしな」


 と、言う事はわかっていたからこそ会いたくなかった。


「エミリオ.....とりあえず助けてくれ」


 シルキ大陸で再会だと言うのに全く感動も喜びもないが、相手は帽子の魔女。らしいと言えばらしい再会。


「もちろんそのつもりだぜ───ってお前ら武器持ってんじゃん!? 何で出てこねーのよ!? 頭おかしくなったか!? このまま黙って牢にいたら全員問答無用の死刑確定パターンだったんだぞ!?」


「死刑? どういう事だ?」


 ジュジュがエミリオの言葉へ反応した頃、るーとカイトは鉄格子の扉を蹴り破るという脳筋っぷりを披露した。




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