◇388 -混合種と能力の研究結果-3
十年。長くもあり、あっと言う間にも思える歳月の中、トウヤは焼かれて開かない瞳を、自分へ向けていた。
イフリー大陸で産まれ、デザリアの
舞い込んできたチャンスが、トウヤの人生を大きく変えた。現時点では悪い方へと。
2人で挑んだ軍試験で親友とも言える存在をトウヤは失った───トウヤがその人物の前から消えたとも言える。地獄のような現実に向き合い考えた結果、親友とはここでお別れ。自分は恐らく死ぬだろう、と思っていたトウヤへ、ニヤついたピエロが手をかけた。
イフリーからシルキへと強制的に連行されたトウヤは死よりも辛い実験のサンプルとして使用され、実験の完全なる成功例はトウヤ以外に残らなかった───トウヤ以外のサンプル、モルモットは見事失敗という結果に終わり、最初で最後の完成形であるトウヤへ「お前は今から
焼かれた瞳と鼓動しない心臓。
埋め込まれた能力と望まない性質。
命令違反で砕け散る命。
自分が何者なのかを焼かれた瞳で見出そうとするも、見えてくるのは過去の記憶と現在の景色。
最初の
導入能力に適応出来なければフレームアウト。
楼華魔結晶に適応できなければ身体は溶ける。
楼華魔結晶をより身体に馴染ませるための命彼岸に適応できなければ腐敗仏化する。
リスクが高すぎる実験.....試練を全て超えたトウヤは人間でありながら人間ではない存在となり、毒のような色で発光する心臓───楼華魔結晶を左胸に抱き見えない現実と真っ暗な未来を前に、次第に冷めていき、今では存在理由さえ見出せなくなっていた。
◆
ひぃたろの勘は的中していた。今こそ実験は終了しているものの、現にこのシルキで研究は継続され、終了したのだ。
「そもそも、あの研究の目的はなんだったんだろう......」
同じ研究所の檻に入っていた魅狐プンプンは十年前の非人道的研究の目的を考える。しかし考えるには材料が圧倒的に少ない。
「私もそれは考えた事があったわ。そして辿り着いた答えが───黄金魔結晶に似たモノを生み出すための研究実験」
プンプンよりも長い期間、研究所に居たひぃたろは当たり前の事だがプンプンよりも持っている材料が多い。その材料を組み上げて出た予想が人工魔結晶の中でも規格外の爆発力を持つもされている黄金色魔結晶に似た何かの生産。
「ちょ、ちょっと待って、黄金魔結晶って何百年か前に作られた物でしょ!? それがレッドキャップのせいで実在する魔結晶って判明したのは最近よ!? 正確な性能もわからないのに同じようなものを生産なんて出来ないでしょ!?」
リピナの言う事は最もだった。何百年か前に作られた異物であり、黄金魔結晶だけあっても話にならない物。生産方法も人工魔結晶という点以外は曖昧だが、この何百年という年月にリピナのみならずプンプンも、みよも見事にハマっていた。ひぃたろも最初はハマっていたが.....とても簡単な話だった。
「数百年単位......これは途方もない話で記録も残っていない。でも、記憶が残ってるじゃない」
「記憶?」
リピナはひぃたろの言葉が掴めなかった。
「いるじゃない。何百歳、何千歳って存在が」
「「......魔女」」
「え、ババアそんなヤベーもん作ったの!?」
魅狐も純妖精も人間より寿命は長い。しかしプンプンもひぃたろも、現在の年齢は21歳であり人間達と共に暮らしているので自分達の寿命感覚は人間寄りになっていた。魔女の成長や年齢は恐ろしく複雑でエミリオも地界では2人と同じ年齢だが、魔女年齢は2000を少し過ぎた所。5〜8歳程度の外見と社会的知識、一般的人型種の知能で地界入りしたエミリオだが、紛れもなく2000年近く生きた魔女であり、本人は知らないが魔女界に居た時点で既に強魔女───宝石魔女の枠に含まれていた。
魔女の年齢については、ひぃたろも一時期気になりキューレと共にアレコレ話したが結局謎のまま「知った所で
「エミリオが関係してるとは思えないわね。でもエミリオと同じ種族の誰かが関係していても不思議じゃないわ。丁度そういう事やりそうなヤツを私達は知ってるじゃない」
「クラウン.....ッ」
親友であるルービッドをクラウンにオモチャにされたリピナは奥歯を鳴らすも、すぐに自分を落ち着かせる。敵討ち、なんて事は自分を削るだけで何の意味もない。そう理解していてもやはり胸に残った大きな穴は一生塞がらない。
「本当に魔女が.....クラウンが関係していたのかは残念ながらボク達じゃ考えてもわからない。ひぃちゃんの勘は当たるけど、黄金魔結晶みたいなモノを簡単に作れるとは思えないし......ちょっと調べてみようか」
「調べる? どうやって?」
「ひぃたろならわかるけど、プンプンって調べ物とか出来るの? INT低そうじゃん」
「え、勉強みたいなノリなら勘弁な。天使は勉強すると蕁麻疹出て最悪死んじゃうからな」
プンプンの発言に全員が不安そうな顔をするも、勿論ちゃんとプンプンにも考えがある。
「妖怪に聞いてみればいい。もしかしたら何千年って生きてる妖怪が居るかも知れないし、ボクもちょっと知りたい事があるから丁度いいかなーって」
「......それは確かにいい考えね。この奥にある塔の街へ行くつもりだったけど、温厚な妖怪が居そうな街を探しましょう」
半妖精がサラッと言った言葉に天使が盛大に噛み付いた。
「はぁ!? ちょ、あの塔の街は本当ヤバイって! いくらひぃたろさんが強くてもやめた方いい、行くなら私は逃げるぞ! 天使だから翼あるしマッハで飛んで逃げるぞ!」
香集村の奥にある街へ向かう事を断固拒否する天使みよ。腕をクロスさせバツを作るみよの表情を観察する半妖精は、その表情に真面目さを感じた。
「何がヤバイのよ? 私だけじゃなくプンちゃんもリピナもいるのよ?」
「あの塔の方から、なんて言えばいいんだ.......女帝だ! 女帝に似たものを感じる。女帝よりはこう.....雑なんだけど、濃度みたいなのは女帝に近くて、そんなのが うっじゃうじゃしてる」
「女帝? 何でそんな事わかるのよ?」
「あ? それは私が大天使みよちょん だからだ。いやごめん、真面目に言うと───」
天使族全てが感知に優れているワケではないが、ここにいる天使みよは規格外な感知力を持つ。それも、雰囲気や魔力での感知だけでなく、
そんなみよが感知し拾ったものは、
◆
「───? なんだ?」
うなじ付近にチクリとしたものを感じた 大神族 観音。漠然と「誰かに見られた」ような感覚がし、長椅子に沈めていた身体を起こす。
左頬にある彼岸花───命彼岸を連想させる彫物を中指と薬指で撫で、吹き抜けた壁から遠くを見る。
しかし確実に何者かが自分を見た事は───感知した事は───間違いない。
「下品極まりない乳房を持つ雌狸か?」
ギリッ、と奥歯を鳴らし香集村へ向けていた感知意識を引き戻す。すると、
「───おや? 何だこの氣は? 見た事ない氣だ......」
その氣───雰囲気は廃楼街の入り口付近に居た。今まで拾った事のない、強い
「これは......素晴らしい。どんな人物なのか拝見させていただこうではないか」
観音は腰布を巻き、廃楼塔から身投げし、何事も無く着地。すぐに入り口方向れ顔を向け微小を浮かべ歩み進む。レッドキャップのベルもジプシーの元へと。
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